第210話 歌姫
パチパチパチ
いやー、とても素晴らしい歌だった。光のあたり方が微妙に変化するのに合わせて、歌の方も抑揚をつけて歌われていた気がする。そして、曲が徐々に盛り上がっていき、クライマックスではとても感動した。
今も変わらず鍾乳洞は綺麗だが、やはり歌があるのとないのでは、全く違うな。どちらもそれぞれの良さがあるからいいんだけどな。
ーーー称号《歌姫の聴衆》を獲得しました。
《歌姫の聴衆》‥人魚の歌声を最終楽章まで聞く。スキル【聖歌】を取得し、歌声に微補正。
【聖歌】‥味方の体力を回復し、状態異常を治す歌を唄う。歌った楽章により効果の大きさが決まる。最終楽章まで歌い切ると、味方は完全回復する。
え、とても良い称号とスキルじゃないか。素晴らしい歌を聞かせてもらった挙句、こんなものまでもらって良いのか? 優秀過ぎるだろ人魚。あと、歌に微補正が入っているのは地味に嬉しいな。音痴を晒すってことにはならなさそうだ。
俺は思い出したかのように、素晴らしい歌手である、醜い顔をした人魚の方を振り返ってみてみると、一瞬だけとても美しい笑顔を浮かべた人魚が、水の中に飛び込んでいくところだった。
しっかりお礼とか言いたかったのだが、これでは仕方ない。ただ、あの人魚は悪い奴ではない、ということが分かっただけでも良かった。ただただ、綺麗な景色と自分の歌声を合わせて味わって欲しかっただろう。長年お客さんが来なかったから、どうしても聞いて欲しかったんだろうな。
俺が運よく久しぶりの聴衆になれて良かった。あんな綺麗な歌声はそれこそオペラとかそういうレベルではないのか? まあ、本物のオペラ聞いたことないからわからないが。
よし、この鍾乳洞も十分目に焼き付けたし、歌も終わったから流石に進もう。これは所謂ボーナスタイムだ。だからってそこに甘えてはだめだろう。ここのボスをしっかりと倒して、ようやく一安心だ。
そうして俺は、さっきは人魚に止められて行くことが出来なかった通路を歩き始めた。そしてその道を進み始めて程なく、
「あれ?」
そこには魔法陣があった。
え、なんでここにあるんだ? もうこの階層終わりってことか? え。ということは、この階層がまるっとボーナスステージだったのか。まあ、確かに鍾乳洞、地底湖、歌声、どれも戦闘って感じの雰囲気ではなかったからな。
それならば、ありがたく堪能させて貰ったから、大丈夫だな。もうこれ以上はないというほどしっかりと味わったからな。では、次の階層に行くか。人魚に癒して貰ったから、もう百人力だぜ!
そうして魔法陣に飛び込んだ俺の視界映った光景は、マグマだった。
「あっちぃ!」
いや、熱くなかった。目の前にマグマがあるだけで、俺は別にマグマの中にいる訳でもなかった。例え居たとしても変温無効あるから結局熱くなかったのだろうが。
それにしても、マグマか。マグマの中にいる事を想像して、してみたくなったことが出来た。寒中水泳ならぬ、マグマ水泳だ。もはや水泳とも呼べなさそうだが、少しばかりやってみたくなった。現実では絶対出来ないしな。
ドボン
水中ならぬマグマ中に入ると、そこはかなりドロドロしたプールみたいだった。一面スライムの中に飛び込んでみたかのような感覚だ。
あ、因みに装備は全部脱いでいるぞ。焼けちゃったら嫌だしな。
顔を沈めてみると、やはり水ではないから水中適応は反応しないらしい。まあ、それもそうか。
そうやって俺がマグマ浴を楽しんでいると、突然乱入者が現れた。
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