第208話 地底湖


「水溜り?」


 なんでこんな所に水溜りがあるんだ? 雨漏りでもしたのだろうか。いや、そんな訳ないか。ここは洞窟だぞ? 雨漏りなんて概念がある方がおかしいだろ。


 しゃがんで見てみると、俺の顔が映った。だが、それと同時に水の奥のほうに薄らと光が見える。淡い光だ。何かの光が反射している、そう思って振り返ると、なにもない。しかし、もう一度水面をみると、確かに淡い光を放っているのが分かる。


 ん? これは水溜りじゃないのか?


 そう思って手を突っ込んでみると、まさかの軽く肘程度まで入ってしまった。これ、めちゃくちゃ深いぞ。どうなっているんだ。まさかこのまま光のあるところまで繋がっているというのか?


 いや、まさかだが、本当にあるのか? でも、これで続いてなかったら、俺は戻るという選択肢しかないからな。運の良いことに水中適応があるからな。どうにかなるだろう。


「すーっ!」


 あ、息吸う必要無かったわ。自分で水中適応あるからって言ったくせに何してるんだ。でも、水に潜る時ってもう無意識に息を吸ってしまうよな。条件反射というか、本当にそのレベルだ。逆に水に自ら潜る時に息吸わない方がやばいだろ。


 ……ということは、もし水中適応のあるこの世界に慣れすぎたら、現実世界でも息を吸わずに水に入ることが出来るのか?


 人類は誰しも水に潜るってなったら抵抗は多少なりともあるはずだから、もしかしたら、人類史上初、水に自然体で入れる人間になれるかもしれないな。だってどんな水泳選手でも息を意識的に吸う必要がある。


 それを俺だけがさもコンビニに行くかの如く、家に帰るかの如く、なんの意気込みも気合い入れも必要無しにできるかもしれないな。


 ただ、それが出来てどうなるんだって話だ。なんの役にも立たないだろう。入ったら入ったで普通に息苦しくなるのが早まるだけだし、種としてはむしろ退化してるよな。


 ちょっと変なこと考えすぎたな。水溜りの中の話をしよう。その中は、


 え?


 これなんて言えばいいんだ? 言葉が上手く出てこないぞ。だってここは湖でも海でもないよな? この水溜まりの奥をなんて言えば良いんだ?


 あっ、地底湖か。なんか上手く言葉が出てこなかったな。それにしても地底湖、水質はとても汚い。普通に濁っているし、全然先も見通せない。自分が動くことによってどんどん砂が巻き上がり、視界が曇っていく。


 それにしても、地上から覗いた時は奥の方に薄ら光るものがあった気がするんだが、今はもう、全く見えない。俺が見たのは幻覚だろうか、ただの見間違いなのか?


 でも、俺、幻覚無効持ってるからなー。


 どんどん奥に進んで行くと、だんだんと道幅というのか? 幅が狭くなってきた。最終的には人一人通るのがやっとの狭さまでなっていた。これはちょっと体型が大きかったら、無理なんじゃないかと思ってしまうな。


 それでも奥へ奥へ進んで行くと、再び徐々に道が開けて行き、気付いたら、俺は陸に上がっていた。まあ、陸と行っても洞窟内の話だが。


 ここは、どうやら鍾乳洞のようだ。だが、かなり薄暗くてあまり綺麗とはならないがそれでもなんとなく伝わってはくる。光があれば綺麗なんだろうな。それにしてもまだ敵に遭遇してないな。どこかで急に来るのか?


 テクテクただ歩いて前進していると、遠くの方から薄ら明かりが見えてきた。

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