第207話 迷いと情け


「ふぅ」


 自害して戻ってきた。やはり切腹は慣れないな。やる時は気合がいるし、どうしてもビクッとなってしまう。だからこそ慣れたいんだが、まだまだ先は長そうだ。


 まあ、なにはともあれ現実に戻って来たわけだ。周囲を見渡してみると、相変わらずの超高級スイートルーム、そして、こちらの世界でも伸びているサキュバスがいた。


 これはどういう仕組みになっているんだ? まず俺が寝るだろ、そしてここにサキュバスが伸びてるってことは、その後にサキュバスがここにやって来たったことだよな? それで夢の中でいろいろあって、俺が頭突きをします。そしたら、夢の中では気絶してしまい、現実に戻って来ても気絶したままだ。


 つまり、夢と現実はリンクしているってことか? でも、そうなると、なんで俺は自害したのに死んでないんだ? うーん、ということは、俺が思念の頭突きをしたことで、それが現実の方にも影響を及ぼしたってことか? それか、サキュバスの能力で現実の体そのもので夢に入り込めるのか?


 うん、考えても考えても謎は深まるばかりだからな、諦めよう。ところで、このサキュバスはどうすべきなんだ? このまま放置しててもいいんだが、そうしたらいずれ起きるだろうし、何より先に進めなさそうだよな。


 んー、殺すか? 人型で会話もした相手で、さっきまでは害を及ぼそうとしてたけど、今は無抵抗だからなー。なんかこのまま殺すのは流石に引けるな。戦闘中ならマシだったが、そんなアドレナリンが出てない状態だから、シンプルに俺は何してんだろってなるよな。虐殺がしたいわけではないからなー、強敵とは戦いたいけども。


 そうやってぐずぐずしていると、ゲーム側が呆れたのか、それとも情けなのか、俺の目の前に魔法陣が現れた。ここは素直に受け取っておこう。どういう気持ちなのかは知らないが、さっさとこの場を離れたいしな、起きる前には去りたいぞ。


 そんな訳で、別の意味で疲労感が溜まる階層が終了した。


 そして、次に俺の目の前に広がった光景は、なんと洞窟だった。


 だが、周りは薄暗くて見えづらく、俺の直感でしか無いため、正確にはわからない。ただ、以前行ったことのある洞窟の雰囲気に非常に似ていることと、この壁の質感的にも恐らくそうではないかと思われる。


 洞窟か。ここ直近で連続して建物のある階層であったから、そういう意味では久しぶりの自然環境のバイオームかもしれない。ただ、洞窟は正直あまり慣れ親しんだ場所ではないからな。どちらかというと、砂漠や森なんかの方が実家のような安心感がある。


 洞窟か。どんな敵が現れるのだろうか。俺の個人的なイメージではやはりコウモリやヘビ、サソリといったところだろうか。どうしてもジメジメしている印象だから、そういう系統になってしまうんだよな。


 バサババサバサバサッ!


「うぉい!」


 びっくりしたー。本当に驚かすのだけはやめてほしいな。今飛び立ったのはコウモリの群れだろうか、結構な数がいたように思う。しっかりと気配感知して、先に進もう。


 警戒しつつも徐々に歩を進めていくと、急に行き止まりになっていた。どこからどう見ても、行き止まりなのだ、道が塞がっている。


「え?」


 だって、転移された時からこの洞窟の中だったし、俺はただ真っ直ぐ進んできただけだ。それなのに行き止まりということは、もしかして、後ろに進まないといけなかったのか?


 そんなことする奴いるのか? レース開始して即Uターンするってことだろ? 頭おかしいだろ。でも、道が無いならそういうことなのか? 無駄足をさせる為にわざわざあの向きに転移させるって性格悪いな。


 そう思ってUターンしようとした時、ふとなにかが光ったような気がした。ほんと一瞬だったし、もしかしたら気のせいかもしれない。ただ、俺は吸い寄せられるようにして、その光った方向に歩いて行った。


 するとそこには、水溜りがあった。

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