第206話 魅了


「はっ」


 ここは、また俺は寝てしまっていたということか? ということはここはサキュバスのテリトリー、早く抜け出さなければ。それにしてもいつの間に寝てしまったんだ? 常に周囲を警戒していたはずなんだが……


 まずい、うかうかしてられない。すぐにルームサービスに扮したサキュバスがやってきてしまう。早く、自害しないと。


俺は慌てて剣を取り出して、先程と同じように自分の腹を斬ろうとした。だが、


「うっふーん、させないわよ。ここは貴方の夢であると同時に私の夢でもあるのよ。そして私は夢の世界の住人なのよ、ここでは私には逆らえないわ」


「なっ!?」


 もう、すでに背後をとられているだと? くそっ、いつの間に! ルームサービスだけじゃないのか? それにしても何で今回は最初からいるんだ? ルームサービスだけかと思って油断してしまったぜ。


「あらー、ルームサービスだけかと思っていたのー? 案外おこちゃまね。最初はあまり警戒されない為にも、お客様が望む形で提供しているのよ。でも、もう私達の初めては終わったの。もう、二回目だから激しくいきましょうねー。貴方も警戒を解いてリラックスして良いのよ、すぐ気持ちよーくなるから」


 うぅ、なんだかとても魅力的に見える。どうしてもそのとても甘そうな蜜を吸いたい、全身で体感したい。ああ、もう我慢出来ない。


「あらー、今度は素直なのねー、心も体もっ。貴方がその気ならしっかり癒してあげるわー。心の奥底までたっぷりとね」


 一体なんなんだ、この心の奥底から湧き出てくる感情は、欲求は! もう体が暴走していう事を聞いてくれないぞ。いや、俺の気持ちも全力で求めている。その甘くて美味しそうな癒しというのを。勝手に足が動いてしまう。


「そうよ、本能に身を任せて、貴方は今までとても頑張って来たわ。たまには休んでも良いのよ。少し楽に、気持ちよくなったって良いのよ。誰も怒らないし、誰も貴方のことを責めはしないわ。私に体を、預けて、そう、良い子。後は私が良いようにしてあげるから」


 そうだ、俺だって毎日頑張っているんだ。ちょっとくらい癒されても怒られない。俺にはその権利があるんだ。だから、今回くらい……


 体と体が触れ合う距離にまで来ている、とても良い香りが全身を駆け巡り脳が弾け飛びそうだ。もういよいよヤバイ、体が抑え切れなさそうだ。


「何も抑えることはないのよ、全てを私に委ね、


「【思念の頭突き】」


 体と体が今にも接触しそうというところで、俺は相手の頭に向かって頭突きを繰り出していた。


 いや、流石に無理だ。途中までは洗脳無効と吸収無効に貫通をかけながら演技をしていたんだが、心を読まれることを考慮して、思考まで演じたのだが、相当キツかった。


 恐らく魅了だろうが、それにのっかって、漸く先程のが完成した。一から演技でやれと言われていたらどこかで吐いていたかもしれない。そんなレベルだ。


 サキュバスはというと、完全に気を失っている。精神体って自分で暴露していたから念のため思念の頭突きにしておいたが、しっかりと効いてくれて何よりだ。まあ、俺の頭突きは痛いからな。食らったことはないけども。


 それにしても、前回の巨人に引き続き今回も人型だったな。人型は人間らしさが強く、自分のやってることが殺人のように思えて少し忌避感を感じてしまう。巨人くらいならまだ良いが、サキュバス辺りになってくると、渋くなってくるな。


 まあ、危害を及ぼされたら余裕で反撃するけどな。


 それよりも気を失っているうちに処理を終わらせておこう。今はまだ夢の中にいる状態だからな。このまま戻ったらどうなるんだ?

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