第203話 ルームサービス


「はっ」


 どうやら、俺はこのフカフカのベッドの上でガッツリ寝ていたようだな。でも、ここの布団最高だな。とても気持ち良かったし、寝起きも最高だ。ここってずっと休憩スペースとして使えるのか、それとも一回きりの特別仕様なのかどっちなのだろうか。出来ればずっと使っていきたいのだが。


 それにしても、ホントにここはいい空間だよな。高級ホテルにタダ泊まりしてるみたいでいいな。ルームサービスとかも出来たら、最高なんだけどな。


 コンコン


「すみません、ルームサービスですー!」


 えっ、ルームサービスまであるのかこのホテル。そうなってくるといよいよホテルじゃないか。でも、俺何も頼んでないぞ? 高級ホテルって、何も頼まなくても来てくれるのか? そんな訳ないよな。間違いだと伝えに行こう。


「すみません、何も頼んでいないので、間違いじゃないですかね……?」


 俺がドアを開けると、そこに立っていたのは、綺麗な見た目をしてスラッとした体をした女性だった。格好もルームサービスが着てそうなホテルの制服というよりは、どちらかというと夜の住人というか、水商売でもしているんじゃないかっていう格好だ。


「間違いじゃありませんよ? お客様を癒しに参りました!」


 その女性はニッコリと笑みを浮かべて、俺がいた部屋に入って来た。


「あら、なんでそんな所に突っ立っているんですの? ささ、お客様こちらへ、至極のひと時で日々の疲れを癒して差し上げますわ」


 そう言って、その人は俺が先程まで寝ていたベッドの方へ歩を進めた。



 ……正直に言おう。俺はこの手の女性が超絶苦手だ。自分が可愛くて魅力があることを理解し、それでいてそれを充分に発揮して男性を籠絡しようとする女だ。自分からアプローチすれば、相手は必ず靡くだろうという傲慢な態度、そしてこちらを軽く見下して、自分と仲良くするのがさも当然かのように振る舞う、そういうのが苦手なんだ。


 失礼、少し熱くなってしまったが、別に否定している訳じゃない。一定数の男性ウケは非常にいいだろうし、需要と供給が釣り合えばなんの問題も無いのだろう。ただ、俺を巻き込まないで頂きたい。俺はもう少し平穏に生きていたいんだ。夜も十二時前には寝たいからな。



 ということで、俺が言いたいのは、この人はルームサービスではない。もしそうであったとしても、ここからは出て行ってもらうか、俺が出ていく。明らかにルームサービスがすることじゃないだろ、俺は頼んでもいないんだし。


 ん? ってことは誰だこの人。何で勝手に入って来たんだ?


「何で勝手に入って来たんだ? じゃないわよ! 勝手に入って来たのはアンタだからね! ここはウチらのシマなの。勝手に入ってきて、スイート使うなんて好き勝手してくれたわね、ほんっと!

 そもそも、何でアンタはちっとも魅了されないのよ! この私の前で魅了されなかった人は一人もいないんだからね! もう、仲間達に笑われるじゃないの! 精気を吸い取ろうとしても全然吸えないし、どうなってんのよ! アンタ何者?」


 いやいやいや、急に喋り始めたからびっくりしたぞ。急に格好も変わってて、さっきまでのドレスから、より露出度が高くなってるし、角や尻尾まで生えてないか? これはいわゆるサキュバスって奴か? それにしても、女からここはウチのシマとかいう言葉を聞くことになるとはな。人生何が起こるか分かんねぇな。


「いわゆるって何よ! いわゆるって! そうよ、私はサキュバスですよー! 何してくれっちゃってんのよほんと! 折角のご馳走だからいても立っても居られなくて来たのに、何で精気が吸えないのよ! 少しくらい寄越しなさいよ!」


 え、こんなサキュバスいる?

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