第202話 洋館


 洋館、俺の目の前にあったのは奇妙な洋館だった。薄暗く、古びた雰囲気でありながらも、どこか趣があって思わず入りたくなるような、そんな印象だ。まあ、俺には元から入る選択肢しかないから、入らざるを得ないのだが。


 この洋館は言うなれば、金持ちの貴族とかが住んでいたのだろう。門や庭は凄く立派だったのが分かる。大きな門、広い庭、そしてそこに何体も並んでいる石像達、どれをとっても一級品であったことが窺える。


 だった、と言うのは、勿論今は手入れが全く施されていないからだ。門もひどく錆びれており、庭も好き放題に草が伸びている。石像に至っては、雨風に晒されていた為か、欠けているものさえある。非常に勿体無いな。


 古びた洋館、と言えばもう思いつくのは、そう、アンデッドだ。薄暗い屋敷の中から、突如現れて、俺を脅かしに来るのだろう。俺は実のところ、お化け屋敷自体苦手では無いのだが、単純に急に来られたらびっくりする、ただそれだけなのだ。本当に怖くは無いのだぞ?


「ふぅ」


 広い庭を漸く歩き終えて、とうとう屋敷の中に入っていく。緊張するが行くしかないのだろう。本当に怖くはない、ただ心臓に悪いのはやめてほしいというだけだ。ギィーっと音を鳴らしながら、扉を開けると、


「えっ?」


 その先は思ったよりも、綺麗だった。結構綺麗、いや、かなり綺麗だぞここ。外の印象のせいで少しバイアスがかかっていたが、よくよく見てみると、普通に綺麗だ。


 これなら、一昔前の高級で良い感じのホテルって言われても、おかしくない程度だぞ。想定していた内装から、遥かに上をいかれて戸惑っている。汚くてボロいことはあっても、こんなに綺麗だとは誰が予想しただろうか。蜘蛛の巣の一つは絶対にあると踏んでいたのだが。


 それにしても、ここまで綺麗だとかなり安心できるし、寧ろ俺は何をすれば良いのか、という疑問が出てくるよな。もしかして、この階層は寛いで良いのか? 休憩スペースならあってもおかしくないか。今何階層目だ? 十や二十ならキリよくありそうだけどな。


 とりあえず、部屋の中に入ってみるか。開けた瞬間ゾンビが出てくるとかはやめてくれよ、流石にもう懲り懲りだ。


 少し、警戒しながら、扉を開けてみると……普通の部屋がそこにはあった。


 普通にホテルのような空間だ。現代のと比べて、電子機器類が一切無いが、それ以外は殆ど遜色ないだろう。もしかしたら、そこら辺の安いホテルよりは、全然上だと思う。


 ん? ということはここはホテルなのか? そうなってくると、やっぱり休憩階層説が濃厚になってきたな。他にもまだまだたくさんの部屋があったし、大勢で来てもしっかり休めるスペースになっているな。


 ホテルに俺一人か。もう何人か連れてきて、鬼ごっことかしたら楽しそうだな。まあ、出来ないけども。そのかわりと言っちゃあなんだが、一人で来ているからこそ出来ることがある。


 それは、


「ッバーーーーーン!!」


 スイートルームの貸切だぜ!


 現実世界でスイートに泊まろうとしたら、相当な金額がいるからな。ここならタダだぜ! ホテルっぽいって思った時から、もしかしたらと思って全力で探し回ったら、予想通りあった。それも最上階に。


 普通の部屋でもそこそこ良かったから、期待はしていたんだが、その予想を遥かに超えてきたぞ。これは超高級ホテル並みじゃないのか? 超デカくてフカフカなベットに、でっかいバスタブ、トイレも三つくらいあるし、どうなってんだ?


 ただ、景色が映えないのだけが残念だな。超高級ホテルと言ったら、夜景だろう。それは現実世界でのお預けらしい。いつか行けたら良いけどな。


 うん、広い部屋を見てテンション上がりすぎて、少し眠たくなってきたな。ここのベッドは最上級だし、ダイブしちゃいますか!


 ベッドに飛び込んだ俺はいつの間にか……

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