第204話 サキュバス
こんな図々しいサキュバスがいてたまるかって話だよな。なんだよ、精気寄越せって、魅力のなかった自分を恨むんだな。
「ちょ、魅力がないってどういうことよ! こんなにも魅力溢れる私に落ちないアンタの方がおかしいのよ! ほんと、どうなってんのよ!」
さっきから思ってたんだが、ちょくちょく思考を読んでくるのは何なんだ? こいつ、心読めるのか? ほんと、プライバシーに関わるからやめて欲しいんだが。
「あら、知らなかったの? サキュバスって、自分が連れ込んだ相手の心をいくらでも覗けるのよ。まあ、どちらかというと、あなたの方から来たんだけどね」
なんか話聞いてると、キャピキャピしてるし、語尾にハートマーク付いてそうだし、気持ち悪いな。それになんだ、連れ込むだとか俺が来たのだとか、全く意味が分からない。どうせこの声も聞こえてるんだろ、返事しろよ。
「聞こえてるわよ。でも、聞かれてる前提っていうのもなんか違うわよね。それに語尾にハートマークはついていませんわ!
まあいいわ、説明してあげる。どうせ無理だから諦めたわ。実は、今あなたが居るこの空間は夢の中なの。そしてその夢の中っていうのが一番サキュバスが本領を発揮できる場所なのよ! ここの館に入った人を眠らせて、その後にその人が見ている夢と私の世界を同調させていくの。それが今のこの状態ってわけね。
本当なら、この状態で私に魅了されて、男ならムラムラしまくって精気もガンガン吸い取れる筈なんだけど、アンタホントに何? もしかしてオンナ? それとも腐ってたりする?」
なんだこいつ、急に饒舌になったぞ。諦めたサキュバスってこうなるのか? でもまあ大体わかってきたぞ、俺が置かれている状況についてはな。
だが、ここからどう出るんだ? 俺が寝てしまったのは俺の落ち度だが、俺の夢に不法侵入してこられている状態だからな。追い出すか、俺が出ていきたい気分だ。もう、こいつとも関わりたくないしな。
「私だってアンタみたいな奴と関わりたくないわ!でも、アンタが私に惹かれるまでは絶対に出さないからね!」
おいおい、それは俺がお前に惹かれて、お前が精気を吸い取るまで、だろ。抜けてるぞ。しかも、お前に惹かれることはないからな、決して。
それはそうと、出す方法ないのか? そうなってくると、お前が死ぬか、俺が死ぬかだぞ? 別に俺は死んでもいいし、なんなら蘇ってまたここに来れるけど、お前の場合は死んだら終わりだろ? 死にたくなかったら、早くここから出せよ。
「な、なによ、殺すって言いたいの? そんな脅し聞かないんだからね。私たちは夢の中で実体を得る、いわば精神体なの。だから、いくら夢の中で攻撃したって意味ないし、現実に戻れたとしても、私は殺せないわよ」
そうか、だからこんなにもイキってるのか。んー、だがそれが本当ならどうすればいいんだ? 本当に意味がないのか一旦、
「【ギロチンカッター】」
「ちょっとなにしてるの? 本当に効かないわよ? ここで私が嘘つく理由ないじゃない!」
心読まれてるの地味にめんどくさいな。何をするにしてもバレているから、対策を打たれているかもしれない。そうなるとまずはここから出ることが今一番すべきことだな。
今の俺の状態は夢を見ているって自覚している状態だ。つまり、明晰夢に近いと考えてもいいだろう。まあ、だからってどうすれば良いのかは分からないが。
方法を探る為に、似たような状況について考えてみよう。俺が今こうやってゲームをしているのも明晰夢みたいなもんじゃないのか? まあ、仮に今の状況とVRゲームをすることが同じ状況であると仮定すると、ゲームから現実に戻る手段はログアウトすることだ。
だが、これは正規のやり方であると同時に運営側から設けられた出口だ。今回の場合は運営がサキュバスになるから、ログアウトするという正規のやり方ではここから抜け出せない。
ならばどうするか、他にゲームから現実に戻る方法……
「あっ」
このゲームはゲーム機側に安全装置がついており、常に脳波をチェックされながら俺たちはプレイしている。つまり、体が危険な状態になれば強制的にログアウトされるという訳だ。
これを今の状況に生かす。ログアウト出来ないなら、体を危険な状態にする。とりあえず、俺を殺してみるか。
「【貫通】」
スキルを発動して普通に剣でお腹を刺してみる。うん、まだ死んでないし、戻ってない。よし、死ぬか。
俺は腹に刺した剣を一気に胸の高さまで引き上げた。
「はっ!」
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