第171話 教えと旅立ち
ーーースキル【一刀両断】を獲得しました。
【一刀両断】‥立った状態からあらゆる物を断ち切る斬撃を生む。相手のVITと自分のSTRによって成功するかどうかが決定される。
「ふぅー……」
遂にこの試練を乗り越えた。やっと乗り越えたんだ。もう、合計で何回振ったか覚えていない。それに何回振ったのかは重要ではないことに気がついた。ただ数だけをこなしても意味が無いのだ。自分と向き合うことこそが大切だと、再び教えられた。ここの道場ではそれが大切だと言うことを教えたいのだろう。
そして、その境地にたどり着いたのが、先生であり、それを今も体現している。先生は常に瞑想をすることで、自分を観察し、あるべき姿に近づこうとしているのだろう。
それを俺は、走ることで、剣を振ることで実践してきた。それの究極系が先生の瞑想ということだろう。自分の中のあらゆる点に着目し、それを改変していく。途方もない、果てしない道を先生は歩んでいるのだ。だからこそ、常に瞑想をしているのだ。
まるで、自己を省みるのに特別なことはいらないと言っているかのように。
そして、その合間を縫って俺に指導してくれているのだ。これを全力で取り組まなければ、やはり、失礼だろう。
「先生! 次の指示をお願いします!」
「次は、走りながら剣を振るのじゃ」
走りながら……! ここに来て、一気に難易度を上げてきた。一つ一つは出来た、ならばその次はどうかな? そう問い掛けられているようだ。確かに、片方ずつなら俺も体に、多少なりとも染み付いてきたのかもしれない。
だが、それでは実戦では意味が無いのだ。どれだけ走っても、斬れなければ意味が無いし、どれだけ斬れても動けなければ意味がない。
俺はどうしてこんな簡単なことに気付かなかったのだろう。先生も俺がこれを自力で気づくことを望んでいたに違いない。失望させてしまっただろうか……
いや、ここでクヨクヨしても意味がないのだ。行動で、成果で、先生にしっかりと見せる。それが今俺が出来る、そしてしなければならない行動だ。
いざ、実際に始めてみると、それの難しさが分かる。どちらか片方に意識を向けると、必ずどちらかが疎かになってしまうのだ。ここで並列思考を使うべきだと思う人もいるだろうが、それでは、今の鍛錬のまるで意味がない。
ここに来た目的はミノタウロスに勝つ為でもあり、自分自身を鍛える為でもあるのだ。スキルを使えない状況でも、戦えるようにする為にここに来たのに、スキルを使って鍛錬しては本末転倒だ。地道に鍛えるのみだ。
そうやって、幾日もの日が過ぎた。今までとは時間のかかり方が違う。一朝一夕に身につくものでは無い。今までの自分を思い出し、さらに昇華させるのだ。
そうして、どれくらい経っただろうか。一ヶ月は流石に経ってないと信じたいが、漸く形になった。まともに実戦で使えるレベルにまではなんとか来たのだと思う。
ーーースキル【天叢雲剣】を獲得しました。
【天叢雲剣】‥あらゆる物を断ち切る剣を生み出す。効果時間は今まで剣を振ってきた時間に比例する。
俺は先生からとても素晴らしいものを受け取った。ここで得てスキルや技術だけでなく、考え方、人生への向き合い方のようなものまで頂いた気がする。先生には本当に感謝しかないな。
俺はもう、ここから出ようと思う。ずっとここにいれば確かにもっと強くなれるのだろう。だが、それではダメだ。ずっと先生に頼ってちゃダメなんだ。先生からもらったものを自分なりに昇華して、新たな境地へ自分の力で辿り着くんだ。その為に必要なものはもうもらっている、あとは、俺次第だ。
「先生、今までありがとうございました。俺は先生にもらったものを大切にこれからを歩んでいきます。先生も、辛く、険しい道のりだとは思いますが、お互い頑張りましょう。では、失礼します」
それを最後に俺は道場を後にした。
最後に見た先生の顔には、しっかりと見開かれた目があった。
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