第170話 反復と継続
よし、目を開けたぞ。これで教えてくれるはずだよな。それにしても目を開けさせるだけでいいってなかなか特殊な道場なんだな。普通は門下生になる為に試験とかがあって、それで決められるもんだと思っていた。
まあ恐らく、入るのが簡単で、出るのが難しいのだろう。つまり、入った今からが本番ということ、入ることが出来たからと言って油断しているようではすぐに追い出されるのだろう。
「先生! 先ずは何をすれば良いのですか?」
気合を再び入れ直して、先生に指示を仰ぐ。先生は何かを考えているのか、只管に虚空を見つめ続けている。
「そうじゃの、この道場を走ってくるのじゃ」
未だ、虚空を見つめ続けている先生が最初の指示を出してくれた。恐らく、これは俺がまだ完璧な走り方を身につけてないと見抜いた上での、指示だろう。お前にはまだ剣は振らせられない、と言外に言われたようなものだ。
しかも、道場の中をというのがミソだ。体を鍛える、体力をつけるといった目的で走るのならば、景色が変わる外で走った方が、気分的には楽なはずだ。
だが、敢えてそこを道場内にすることで、気が逸れる要素を徹底的に排除し、ひたすらに自己の省察だけに努めさせるという狙いなのだろう。あの虚空を見つめている時に、どれ程のことを考えているのだろうか。
本当にこの人はすごいな。一眼見て、俺のダメな部分を見抜き、俺に最適な指示を出してくれて、さらにまだ考えてくれている。なかなかここまでの人には出会えないだろうな。破門されるまでずっとこの人について行こう。
そうして、俺は道場の中をただただ走り続けた。自分の走り方を逐一確認しながら走り続けた。俺が走ってる間も、先生は中央で瞑想をしながら、俺を見てくれている。常に意識が向けられているのが分かるのだ。この人は本当にどこまでも教え子思いなのだろう。
もう、来る日も来る日も走り続けた。最適な走り方をマスターする為に。そして、遂に……
ーーースキル【韋駄天走】を獲得しました。
【韋駄天走】‥ダッシュ時の無駄が一切無くなり、風の抵抗も受けなくなる。ダッシュ時にスピード超補正。
「【神速】は【韋駄天走】に統合されます」
何周も何周も走る中、俺は常にフォームを意識していた。そして、自分が思う完璧なフォームが体に染み付いた時、走るという動作をしようと思えばそれが無意識に出てくるまで、何度も反復していると……このスキルをゲットした。
やはり、先生は正しかったな。何度も挫けそうになっていたが、やり抜いて良かった。よし、では、次の指示を仰ごう。
「先生! 走ることを漸く身につけました! 次は何をすれば良いのでしょうか!」
「つ、次は剣じゃ。剣の素振りをするのじゃ」
お! 遂に剣が持てるのか。だが素振りか。先程までで反復の重要性を学んだからな。それ自体に抵抗はないのだが、素振りにおいて、何が正解で、何が間違いなのか分からない。
詳しいやり方を聞こうと先生の方を見ると、もうすでに瞑想に入ってしまっていた。
恐らくそれからも自分で、一から、ということだろう。先生に今のところ間違いはないのだ。自分なりにやってみよう。
まず、素振りで意識することと言えば、勿論先ほどと同じ、フォームだろう。それを体に覚え込ませ、無意識でも、どんなに戦いが激しくても、行えるようにしなければならないのだろう。
では、どういうフォームにするべきなんだ? 取り敢えず、真っ直ぐ振り下ろす素振りをしてみよう。
剣を頭の上で構え、そのまま振り下ろす。勿論真っ直ぐいった感触はない。もう一度頭上に構え今度はゆっくりおろしてみる。真っ直ぐを意識し、その時に使ってる筋肉や感覚を意識していく。そしてまた構えて、今度は早く振り下ろす、ひたすらそれを繰り返していく。
難しい、合っているかも分からない。でも、やるしかない。やった先にしか得られないものがあるのだろう。それを先生は知っており、俺に与えようとしてくれているんだ。その気持ちに応える為にも、俺は続ける。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます