第167話 失敗と挑戦


 未だ悠然とした態度のまま一切動かないキングミノタウロスに向かって、俺は一気に肉薄しようとした。


 だが、今まで何回も、何十回も、何百回も使用してきた神速が使えず、そこそこ速い、というくらいのスピードしか出なかった。


 そのスピードと神速との予想外のギャップに体が上手く対応できず、そのままミノタウロスの槍で一突きにされ、そのまま広場に直行となった。


 そうだ、俺の、ほぼ絶対に死なないシステムも、スキル、称号に頼りっきりの戦法だったな。さっきは神速しか使ってないが、それだけでも自分がいかにスキルに頼ってるのかを理解した。


 神速というのは足が速くなる、つまり、移動速度が上がるスキルだと認識していた。


 だが、それだけではダメなのだ、ただ足が速くなる、ただ移動速度が上がる、というだけでなく、どのようにしてその現象が起きるのかを理解しなければならない。


 例えば、足が速くなるのは、足の回転が速くなるから、そうなるのか、それとも、俺が一歩を踏み出す際に、その一歩の距離が拡大されているのか、具体的にスキルを発動することによってどういう恩恵を受けているのか、しっかりと理解する必要がある。


 この神速で話を進めるならば、どういう仕組みかを理解すれば、今回みたいにスキルが封じられても対応がすぐに出来るだろうし、スキルを使っている時でも、ただ速くなるという認識の先までいくことで、自分が改変可能な事象を操作し、より大きいスピードを出せるかもしれない。


 頭の中だけで考えても仕方がないからな、早速検証をしてみよう。まずは、スキルの実態を調べる事から始めるか。


「【神速】」


 スキルを使って、走ってみる。うん、速い。だがそれだけで終わってしまってはダメだ。何故速く、どう速いのかを知らなければならない。何度も繰り返し、速さを変えてみながら使ってみる。


 すると、一つ判明したことがある、それは、神速を使ってる時は、足の回転数の増加ではなく、走る際の一歩の距離が拡大されている、ということが分かった。詳しく、具体的に言うならば、両足が宙に浮いている時に体が何かに押されるというイメージだ。


 つまり、このスキルを効率よく発動する為には、なるべく宙に浮いていた方が良いと良いということになる。これは、スキップをしてる時に気がついた。別にこれを遊んでいたわけではないぞ? 偶然見つけたのだ。


 この性質を生かそうと思ったら、一歩一歩を大きくした方が良いように思える。だがそれだと、スキルに頼っていることになるからな。それにその走り方に慣れると、今回みたいに封じられた時のズレが大きくなり過ぎるからな。


 ということで、なるべく足の回転数を多くすることを心がける。これではスキルの恩恵が十分には受けられないと思ったのだろうが、これでいいのだ。実際スキルを封印されている状態とは、ほぼ、現実世界と変わらないのだ。だから、そことの乖離も無くしておきたいしな。


 ここは、ゲームの世界、電脳世界なのだ。だからしようと思っても出来ないことはほとんど無い、理論上はな。だが、それでも出来ない場合というものは確かにある。それは脳が上手く命令を伝達出来ていないと思うのだ。つまり、脳で明確なビジョンを描ければ、大抵のことは出来るのだ。体の性能は現実のモノよりもはるかに良いからな。


 ただ、漠然と動くのではなく、どこがどういう風になってて、どうすればどう動くのかをきちんと理解する事で、ゲーム内の動きも変わってくる、はずだ……


 よし、だいぶ神速・改にも慣れてきたぞ。これでも普通にかなりの速度を出せるようになった。最初は全然上手くいかなかったが、慣れていけばいけるもんなんだな。


 よし、走り方は改善したぞ? これは何度も何度もトライ&エラーで駄目な部分を洗い出し、一つ一つ改善していかなければならないやつだな。


 よし、じゃあ、ミノタウロスにリベンジだな。

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