第168話 更なる高み


 もう、結果から先に言おう。結果は……惨敗だった。


 まあ、走り方を変えたくらいで勝てるとは思ってなかったが、少しは手応えのようなものを掴めるかと思ったんだ。だが、何も変わっていないぞ、とでもいうかのように、前回と全く同じように殺されてしまった。


 だが、まあ、それでも改善点は見つかった。トライ&エラーを実践していく上で、少しずつでもいいから、毎回進歩している、という感覚が大事だと思うんだ。


 そうじゃなきゃやってらんねぇし、今後、勝てるビジョンも全く見えないからな。少しずつでもいいから、強くなってまたリベンジするんだ。


 少し前置きが長くなったな。今回の改善点は、シンプルに剣の使い方だ。


 今更? と思う奴らが沢山いると思うが、逆に、日常生活を日々過ごす中で、剣の扱い方が上手くなりますか? って話だよ。ならねぇだろ? そんな、現実でも武術やってて、それを生かして、ゲームの中でも無双するようなリアルチートじゃないからな。極々普通の一般人男性なんだよこっちは。


 そんな奴がたまたまいいスキルをゲットして戦えてるだけなんだから、剣とか上手く使える訳ないだろ。今までも適当に振り回していただけだったしな。


 それに比べて、あのミノちゃんの槍捌きは一切無駄が無い。全ての動きが洗練されており、熟練の槍使いを超えた。槍聖の域に達してそうなくらいだ。


 そうは言っても、実際に見たことないから、恐らく、なんだけどな。まあ、そのくらい動きが洗練されていたってことだ。


 俺がスキルを使わずにあそこまでの領域に達するには、どれだけの時間がいるのだろうか……


 まあ、一人で、独学では100%無理だからな。俺の剣の師匠にでもなってくれる人がいればいいんだけどな。どっかに丁度いい人いないかな? ん? あそこに見えるのは剣の道場か? ちょっとそこにお邪魔してみるか。


「……」


 そこには、白髪で、髭も長い、一人の男性が中央で瞑想をしていた。周りには誰もおらず、その爺さんだけがいる。まるで、草原の中のミノタウロスのように。


「……何用じゃ」


 唐突に爺さんが目を瞑ったまま、俺に言葉を投げかけてきた。最小限のフレーズのみでだ。俺はしっかりと答える、俺は強くなりたいんだ。


「剣の修行をしに来ました!」


「ほぅ、ただの冷やかしとは違うようじゃの。じゃが、儂は数多の若者に剣を教えてきたが、最後までついてこられた奴は一人もおらん。それでもやるというのか?」


 なおも、目を瞑りながら、爺さんは俺に問いかけてきた。なかなか厳しい爺さんなんだな、見た目通りだ。だが、それでも俺の答えは変わらない。


「勿論です!」


「ふむ、そうか。これでも気は変わらんか。ならば、この儂の目を開かせてみるのじゃ。それが出来たら、お前に剣というものを、そしてその真髄を教えてやろう」


 剣というもの、そしてその真髄か。いいな、何が何でも欲しくなってきたぞ。今までは、明鏡止水やその他のスキルのみの力戦ってきたようなものだから、俺の素の能力が向上すれば更なる成長が見込めるな。


 それにしても、そんなに素晴らしいものを教えるのに、そんな簡単な条件で良いのか? それとも俺は何か試されてるのか?


 目を開かせれば良いんだよな? なら、


「ほい、」


 普通に目は開くよな? 何か特殊な力を使って目が開かないようになってるかもと思ったが、そんなこともなく、無事に開けることが出来たな。よし、これで教えてもらおう。


「は……?」

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