第155話 検証と再現


「はっ!」


 ここは? 俺は一体……?


 俺が居た場所はもうすっかりお馴染みと言っていいだろう、街の広場だった。それぞれの街によって特徴は違うが、この広場だけは、似たような造りになっている為、もう、何回見たかも覚えていない。


 恐らく、このゲームをプレイしているプレイヤーの中には、片手で数えられるほど、もしくはゲーム開始時にしかこの広場を見たことがないって人がいる筈だ。


 そこまでは行かなくとも、両手に収まる範囲、多くても十回前後からいっても三桁は行かないだろう。


 だが、俺はもう数えるもんでも無いし、数えていたとしても、四桁は軽く超えているはずだ。もうすぐ五桁いってるかもしれない、そんなレベルだ。


 そんな俺がこの広場にいる理由が誰かとの待ち合わせなわけがない。そう、俺は死んだのだ。


 さっきから、必死に現実逃避をしようとしたが無理だった為諦めるが、もし、本当にそうだとして、それが事実であるならば、俺は一体どうやって死んだんだ?


 俺は確か、五体のモンスターを倒した後に、少し気疲れというか、気怠さを感じた為に、休もうと思ったのだ。そして近くの木陰に腰を下ろし、休もうとした。そしてハーゲンを呼ぼうとして……


 ここら辺から記憶がなくなっているな。うーん、もし、モンスターにやられたとしたら、俺は流石に気付くだろうし、何よりもそれじゃ死なないはずだ。


 仮に、モンスターから襲われたとして、それで俺が死ぬ可能性と言えば、俺が持っている貫通スキルみたいなもので、俺の無効化をどうにか突破したとしか考えられないが、それだと流石に俺は気づくのではないか?


 恐らく俺は、寝ていたのだろう。そして何かをされた、それも俺は気づかずに。


 これはなかなか難しい謎だな。今の俺では解ける気もしない。まあ、世紀の名探偵みたいな人がいれば話は違うかもしれないが、少なくとも俺は、名探偵ではないからな。


 よし、こうなったら情報収集だ。現場検証、および、事件の再現をしながら、この謎を解き明かして行こう。


「え?」


 おっと、初手から現場検証はさせてくれないようだな。地形ががらりと変わっている、森というコンセプトは変わっていない為、恐らくランダム転移のような物なのだろうか。これも一つの情報だな。


 あ、無駄な戦闘を避ける為に、隠遁を発動しておこう、


「【隠遁】」


 よし、これで大丈夫な筈だ。安心して情報収集と現場の再現を出来る限りして行こう。


 まずは、確実な所から、論理を詰めて行こう。誰が見ても正しい、おかしくない、と思える所から詰めて行き、最終的に残った要素が恐らくこの事件の原因、つまり、犯人ということになる。


 まずここに最初に入ったことはケチのつけようがないし、ここに対して何か干渉されているとしたら、もう実質塔の攻略は現時点では不可能になるからな。ここはもう大丈夫だということにしよう。


 そして、次にしたことは、ハーゲンを解き放ったことか。ならば、証人喚問をするか、


「ハーゲン!」


『なんすかー? どうしたんすかー? 急に帰らされたんでびっくりしたっすよー。俺っちは狩を楽しんでいたっすのにー』


 おいおい、狩はなるべくするなと言ったのに、恐らく俺と同じ思考回路を辿ったのだろう。俺もしてるから強くは言えないな。


『何か特に変わったことはないか? いつもとは違うことだったり、自分の体調面でもだ』


『ないっすよー、変なことがあったらすぐに報告するのが命令だったっすからね。報告してないってことは、報告する必要のあるものはなかったってことっすよ』


『そうか、わかった、ありがとう』


 んー、少なくともハーゲンには影響は無かったと。つまりハーゲンと俺との差異を比べれば、ヒントが見つかりそうだな。



 俺とハーゲンの違いってなんだ?

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