第151話 ツケと真実


「うむ、たらふく食べることが出来たわい。これで漸く、話す事が出来るの。では、場所を変えるかの」


 いやいやいや、場所を変えるかの、じゃねえよ。お前どんだけ食ったと思ってるんだ? 結局二十枚くらいステーキ食いやがってよぉ、俺に払わせるし、本当に師匠でいいのか? それ以前に本当に仙人なのか?


 結局俺が払うことになって、勿論、俺にそんなお金はないから、暗殺ギルドBランクのカードを見せてツケにしといた。まあ、もしギルドの方に請求がいったら、俺がギルドに返すし、いかなかったらこっちにちゃんと支払うつもりだ。


 それで俺は気づいたら、街の中でも辺境の方にある、小さな小屋に連れて行かれた。なんでもここでこの爺さんは生活しているらしい。へー、って感じだ。


 それよりも問題は先ほどまでガリガリのゴブリンだった爺さんがマッチョのオーガ級まで成長したから、爺さんの発言に説得力がさっきよりかは増したということだ。ただ、マッチョの仙人というのもイメージないのでそこまで変わりはないが。


 中に入ると、テーブルが一つ、棚が一つという、とても簡素で殺風景な部屋だった。特に部屋割りとかもなく、台所のような場所も無いため、現実の基準でいうならば、1かな? いや、Dかな? いや、L?


 しょーもないことを考えていたら、椅子に腰掛けるよう言われた。そして、


「では、早速いろいろ教えてやるとするかの。修行僧から仙人になるにはいくつかの手順があるのじゃ。それをすべて満たすことで初めて仙人になることが出来るのじゃ。はっきりいって修行僧ならば誰でもなれる。ただ、仙人と修行僧とを分けるもの、これが高く大きな壁なんじゃ」


 爺さんのスイッチが急に入ってしまった。だが、内容は俺の為になる話だろうから、真面目に聞いていく。なるほど、仙人になるにはいくつかの手順が必要であると、それを師匠に教えて貰いながら一つ一つクリアしていって、全部達成したら、一人前ですよ? ってことだろうな。


 あと、修行僧は誰でもなれるっていうのは、ただ単にSPさえあれば転職することが出来るからだろうな。そして、SPを貯めるだけではない、何かが問われるのがこの大きくて高い壁なのか。


「まずは、修行僧について説明するかの、修行僧とは誰でもなれるとはいったものの、それでも険しい鍛錬が必要となる。その結晶の上に成り立つものじゃ。その為、今までの知識と経験がとても重要になってくるものじゃ。

 そして、修行僧の性質として主に二つあるんじゃが、一つは今まで以上に成長しやすくなるということじゃ、自身の成長が更なる高みへと連れて行ってくれるからの。そしてもう一つは、自分の技に更に磨きがかかるのじゃ、今までの知識と経験が総動員して、技を見つめ直すことで、新たな境地に立つことが出来る様になるのじゃ」


 うん、これは知っている。修羅の道を歩む時にも説明されたからな。だが、実感しているかと言われれば、比較対象がそんなにない為あまり分からないが、恐らくそうなんだろう、ということは理解している。


「うむ、これらはお主も知っておるようじゃの、これは知っていて当然だからの。じゃが、ここにもう一つ隠された、というより知られていない事実があるのじゃ。それは、新たな技能、力を身につけるスピードが速くなる、ということじゃ。

 これは、もしかしたらお主は体感していて気づいておったかもしれぬが、これはちゃんとした事実じゃ。正確な理由は分からぬが、儂の考えによると、今まで積み重ねてきたものの中から、今から習得するであろうことに共通するものを引っ張りだし、それと照らし合わせることで、更に効率良く、新たなことを学べるようになっているのじゃ。

 物事には本質というものがあり、その本質を見抜く力が身についてくれば、身に付けた技能を抽象化してそれらを他の技能に転用することが出来るのじゃ。

 実は、これは一般の人でも可能なものじゃ、剣に優れた者は斧にも優れている、これはよく聞く話じゃろう。それが修行僧には何倍もの効果、範囲で可能になるということじゃ。新たなことを学べば学ぶほど、それらは更に他のものに転用できる為、更に学習速度が上がるのじゃ。

 お主も最近沢山の技術を今まで以上のスピードで身につけられるようになっておらんか? そういうことじゃ」


 そういうことだったのか。

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