第150話 仙人と肉


 え、この人なのか? まじかよ。まあ、百歩譲って爺さんなのは別にいい。恐らく仙人と思われる人だから、若い男性なんかよりは信頼出来る。


 それは、別に構わない、構わないのだが、水をくれってどういうことだ? 仙人ってそんなに貧乏で困窮してんのか? 仙人といえば、余裕があって、気品があって、それでいて自他共に厳しいようなイメージなんだが、仙人って水も飲めないのか? まじかよ、イメージ台無しだな。


 それにしても、今すぐ水を用意するのって難しくないか? 俺、水魔法とか持ってないしな、ゲーム中に飲む事もないから、持ち歩いてもいない、なら、街に引き返すしかないな。歩いてきた道を引き返すのはそんなに好きじゃないが、クエストの為なら仕方がない。さっさととってくるか。


「ほんのちょっとだけ待っててくれないか。爺さん、今すぐとってくる。【神速】」


「ん? あ、ちょっと……行ってしまったか。それにしても、さっきのからは、儂と同じにおいがしたの、もしかしたら彼が儂の……」


「ん? 俺は爺さんのなんなんだ? まあ、いいか、はいこれ、りんご」


「ぬぉお! お、お主早いのう、ってか早すぎんか? おぉ……助かる、この恩は一生忘れんぞ、ありがとう」


 速攻で第四の街に戻って、市場に置いてあったりんごをとって、金貨を一枚店の中に放り込んで、またここにやって来た。


 神速発動中に、ゾーンも発動して、確実に市場を見つけ、りんごをとり、投げ銭して帰ってきた。一番難しかったのは人を避ける事だな。ほぼ止まってるように見えたけど、ぶつかったら、大変だからな、すれ違った人は突風にびっくりしてるのかもしれないな。


 それより、爺さんがとても気になる発言をしていた、俺があの爺さんの何かみたいな話だ。途中で終わっていたし、俺がそこに割り込む形になったから聞けなかったのだが、気になるな。爺さんは今りんごを一生懸命に食べてる。


 お、りんごを食べ終わったようだ。ってかタネも何も残ってない。そんなにお腹空いてたのか?


「大丈夫ですか? 他に食べ物とか持ってきましょうか?」


 今まで気づかなかったが、よく見てみると、とてもガリガリで生きている感じがしない。今までどうやって生きてきたのか疑問になるレベルだ。


「気遣い感謝する、ところでお主、儂の弟子にならんかの? 見たところお主は修行僧のようじゃ、それもかなり強い。もしかしたら儂の後継者になれるかもしれん。どうじゃ、仙人への道へ歩みたくはないか?」


 いや、あのー、うん、まあ、クエスト的にはその流れなんでしょう。天の声を聞いて、師匠に出会って、そこから仙人になっていく、うん、問題は何一つない。


 ただ、ただ、一つ言えるとするならば、こいつの格好どうにかしてくれ、最初は勢いで流してたけど、冷静になって見てみると、杖を持った、肌の色が茶色のヨボヨボゴブリンみたいな身なりだぞ? こんな奴を師匠として迎えるなんて……なんとなく、嫌だよな。


「と、取り敢えず、ご飯を食べましょう! 腹が減っては戦も出来ないといいますし……」


「ん? そうじゃな、ご飯を食べながらゆっくり話すかの。仙人や修行僧について、お主もまだまだ知らぬことが沢山あるはずじゃからの。まずは、己を知ることがなによりも大切なのじゃ。だからそれをもって最初の指導としようかの」


 いやいやいや、なんか勝手に俺が弟子になること決定してるし。しかも、なんか良いこと言ってそうだけどその見た目じゃ全然説得力ないから、それだけは譲れないから。


 でも、修行僧と仙人については気になるな、取り敢えず飯を食うか、ゲーム内で食事とかした事ないからな、少し楽しみではあるが、なんで、ゲームで最初の食事がほぼゴブリンメイ爺みたいな奴と一緒なんだよ、どういう苦行だよ。


❇︎


 なんか、勝手にドラゴンステーキっていう店に入りやがって、引くくらいの枚数ステーキを食いやがった。ドラゴンと店の名前にあるが実際は、オーク、オーガ、ミノタウロスの肉を取り扱っており、好きな量を選択して、食べることができるらしい。


 そして、このじじいはミノタウロスの最大サイズで、それも十枚食いやがった。食べ終わった後はあのガリガリの姿はどこかに行って、いつの間に筋骨隆々のマッチョ爺さんになっていた。うん、もう突っ込まないぞ。






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