第117話 蜘蛛


「んんー! んんんん!」


 やばい、どうしよ。今のところ敵の姿は見えない、今のうちに取り敢えず拘束から逃れよう。


「ハーゲン、スカル、ボーン」


 俺は小声で俺の従魔フルメンバーを呼び出した。まず、最初にハーゲンを出して空中に留まってる間にスケルトンジェネラルを呼び出す事で、三体とも無事召喚成功。そして、ハーゲンの上に乗せたスケで俺を拘束している糸を切ってもらう。


「ぷはー!」


 いやー、全身ぐるぐる巻きにされてたからな、やばかったぜ。窒息無効なかったらワンチャン死んでたぞ。でも何故か目の部分だけは開いていた、ゲーム的仕様だろうか。まあ、ゲームの中で真っ暗なんていやだしな、当然っちゃ当然なのかもしれないな。


 よし、とりあえず、ここから出よう。さっきまではお花畑にいたはずなのにな、どういう仕組みで木のあるここに連れて来られたのだろうか。俺が見たときは一面お花畑だったんだぞ? 見渡す限り花と草だけだった、これは見間違いでも勘違いでもない。なのに、木がある場所、恐らく山の中だろうか、にいる。


 連れて来るにしてもかなりの距離だろうし、その間ずっと眠らされていたってことか? それとも他に別の要因があるか……


 どちらにせよ、ここから出るのが最優先事項だ。ここではハーゲンが飛びにくいだろうから歩きで移動する。勿論、神の速さでな。


「【神そ


 キシャ


 俺がスキルを発動しようとした時、背後から聞き慣れない音が聞こえてきた。それも何故か体を震わせるような不気味な音。


 体を強張らせて、ゆーっくりと、後ろを振り返るとそこには超巨大な蜘蛛がいた。


「うわっ!」


 一気に体が武者震いを起こした。いや、単に恐怖、それともキモさに反応しただけだろうか。取り敢えずデカイ、それによって顔もより詳細にリアルに間近に見える。


 よく家で見る蜘蛛は、とても小さく、顔のパーツに意識することなく、それ自体で蜘蛛、だろう。だが、この蜘蛛はデカイデカすぎるのだ、カチカチと鳴らしているハサミのような顎みたいな物がかなりおっかないぞ。


 まずいな、これは蜘蛛との追いかけっこのはじまりはじまりだ。


 そう思って神速を発動しようとして、口が動かない。そんなに怯えているのかと自分で自分を馬鹿にしながら、頭の中で発動する。そして、全力ロケットスタートを


 決めれない。


 何故だ、どうなってる? 体が動かない? そのせいで口も動かなかったのか? うん、まずいなこれは、まずいぞ。どうすればいいんだ?


 そうやったら俺が手詰まっている間に、気づくと俺の周辺に小さい蜘蛛が無数に集まって来ている。あの巨大蜘蛛に比べれば大した大きさではないが、それぞれサイズはバラバラで、中にはそこそこ大きい個体もいる。もしかしたら目に見えないだけで、ほんとに小さい蜘蛛も集合してるのかもしれない。


 ってなに冷静に状況を分析してるんだよ。そんなことしてる場合じゃないだろ。今はこのピンチをどう切り抜けるか、ただそれだけに脳みそを使え、考えて考えて考えまくれ。


 まず、俺が動けない理由を考えろ、普通に考えてあの巨大蜘蛛の仕業だろう。だが、何故奴は自分で俺をやらない? 王なのかは知らんが王として、処理は下っ端に任せているのか、はたまた食事を与えている感覚なのか。流石に蜘蛛の気持ちはわからないな。


 これはどうすべきなのか……取り巻きの蜘蛛達がジリジリと近づいてくる、あーいい考えなんてそんなすぐに浮かばないよな。もういいや、諦めよ。俺は別に死んでも損はないし、なんなら得まであるし、別にもういいよ。


 ってか、死んでも謎解明して、お前ら全員ぶっ飛ばすからな、覚えとけよ。


 俺はそんな捨て台詞を吐きながら無数の大小の蜘蛛達に噛みつかれた。巨大蜘蛛の視線を未だに感じながら。

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