第112話 ストロン


 僕はストロン、情報屋クランに所属しているただの情報屋だ。クランの中でも下っ端で、色んな情報を集めてくるのが僕の仕事なんだけど、ゲーム開始からがんばってるんだけど、中々昇進させてもらえない。んー、やっぱり向いてないのかなー。


 それでも、僕は諦めない。僕は今一大スクープを追っているんだ。なんて言ったって前々大会の優勝者の情報だ。以前、何か情報が無いかと、始まりの街を隅々まで探している時に、裏路地でまさかの人物と出会ってしまったんだ。


 僕は前々大会の時、その人が優勝するのにとても感動してしまったんだ。圧倒的な強さと余裕、そしてまだまだ隠されているだろう奥の手、僕は情報屋の端くれだけど、それでも心が逸るのが抑えられなかった。


 僕は密かに追いかけていたけど、尻尾のしの字も掴めなかった。そんな時にまさかの遭遇だ、興奮しないわけがない。


 でも彼は店の中に入っていってしまった。残念だが、消えてしまった訳じゃない、まだ居場所は把握している。そして、遂に……


「はぁ、はぁ、はぁ。やっと見つけました……よ」


 店の前で出待ちする訳にもいかず、ちょうど出てくるタイミングを見計らってダッシュで駆けつけた。まあ、実際は何度も失敗したんだけどね。でも、ようやくだ、ようやく話が聞ける。


「すみません、どちら様でしょうか……」


「はっ、申し訳ありません! 私はサーフィンという、情報屋クラン所属のストロンと申します!」


 まずい、第一印象は肝心だ、良くしないと。第一印象で七割以上が決まるって途中から入って来て僕を抜いていった人が言ってたんだよな。これで印象は良く保てただろうか。



「えーっと、それで情報屋の貴方が私に何の用でしょうか。私なんかから買える情報なんてたかが知れてると思うのですが……」


 な、何を言ってるんだこの人は! 貴方から欲しい情報がどれだけあると思ってるんだ。それに、金を出しても貰えるもんじゃないじゃんかよ。ここは、しっかり貴方の情報の有用性を説明しなければ……


「いや、そんなことはありません! 貴方はこのゲーム屈指の実力者、それだけで、貴重な情報が眠っています。それに、前々回の大会では、圧倒的な勝利を納められました、貴方のその力の源や、普段のプレイ、そして、行きつけのお店などなど、聞きたいことは山のようにあります!

 今回は数少ない目撃情報を掻き集めて、ようやくここに辿り着来ました! ここでスキルをお集めになっているのですね! 私も是非通わせてもらいます!

 それでですね、まず第一にお聞きしたいのが……」


「あ、あの!」


「はっ、はい! すみません!」


 や、やらかしたー。これは僕の悪い癖なんだよな……スイッチが入ると止まらなくなっちゃうんだよな。幹部からも何度も注意されたんだよな、どうやったら治るんだろうか。


「私、この後少し予定が詰まっていまして、あまり時間が取れないので、一つぐらいなら質問にお答え出来るかと……まあ、答えられるものでしたら、ですけど」


 なんだってー! まあ、そりゃそうか、アポ無しだし、初対面だし、信頼も一ミリもないからなー。


 え? 一つだけなら質問に答えてくれるって? まじかよキタコレ、これで僕も勝てる! えー何にしよう、無難にあれかなー。


「あ、ありがとうございます! 一つだけでも充分です! で、では、好きなモンスターはなんでしょうか! 教えて下さい!」


 やっぱり好きなモンスターを聞かないとね! その人が好きなモンスターでその人の個性も分かるし、どんなプレイをしていたかも推測出来る! これが最小限で最大限の情報を手に入れられる!


「好きなモンスター、ですか。そうですね、ハゲタカ、ですかね。今までは興味も無かったのですが、最近好きになりましてね。もう愛着があったのです」


「愛着があった……ですか。その理由をお聞きしても?」


 これは特大ニュースだ。これを知ることで確実に新たな発見に繋がる!


「そうですね、最近悲しい出来事がありましてね。事故、というか手違い、というかまあ、自分が悪いんですけどもね。もう今となっては二度と会えなくなりましたね」


「そうですか……以前はハゲタカさんと仲良くしていらっしゃったのですね、それで、今はもう会えなくなってしまった、と。それはとても悲しいですね、このような質問をしてしまい、申し訳ありません。今回は質問にご協力頂きありがとうございました。代金の方を支払わせて頂きます」


 これは予想通り大特ダネ、ビッグニュースだ! 今すぐクランに持って帰らないと!

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