第106話 油断
明鏡止水はバフ、花鳥風月はデバフ、そして気を拳に集めてぶん殴る。うん、爽快感もあって、なかなかいいぞ、流石にこのステータス差だと余裕だな。あっさり残り二体の騎士爵を倒すことかできた。
「ふぅ」
やっぱり余裕だったな。スキルを使わなかったら危なかったが、スキルは使うもんだからな。しっかり勝てたのでこれで一件落着だ。
あ、そうだ。あの爺さんから悪魔の心臓を取ってくるように言われてたんだった。危ない、危ない、忘れるところだったな。
悪魔の心臓を取る為には、流石にナイフみたいなものが必要だな。今は手持ちにはないから、剣で代用するか。
そうして、俺が地面に転がっている、悪魔の左胸に剣を突き刺すと、
「あれ?」
そこには心臓が無かった。
え? 心臓って左胸に無いの? あ、そういえば、心臓は胸の中心にあって左側の方が圧力が強くかかっているから、左胸にあるように感じているだけってどっかで聞いたことあるな。そういうことなら、真ん中にあるはずだよな。
グサっ
無いな、じゃあ右胸にあるのか? あ、あった。心臓はまさかの右胸に存在した。形は歪だが、恐らくこれで間違いないだろう。血管を切断し、丁寧に取り出していく。うん、上出来。
そうやって、もう一体の悪魔も終えて最後の一体の心臓を取ろうとした時、背後から声が聞こえてきた。
「あれれー? 君、何しちゃってんのー? 僕の
まずい、爺さんの話によると、相手は騎士爵だけのはず。だが、目の前にいるのは明らかに今し方戦った相手よりも格が高い。確実に騎士爵以上だ、以前戦った準男爵と同じか、それよりも強い気がする。
爵位がなんであれ、この状況はまずい。逃げるにしても戦うにしても、こちら心臓をえぐり抜こうと座りこんで、完全に戦闘モードでは無い。それに対して、相手は今にもはちきれそうな戦意を剥き出しにしている。
まずいな、不幸中の幸いなのが、剣を持っているということだ。これを使えば勝てるかもしれない。ただ、どのタイミングで行くかということだ。今から戦闘モードに移行すれば、確実に隙が生まれる。その間に攻撃されては負けてしまう。ここは相手の動きを待つしか無いか……
「おやー? 貴方、僕の
今までで一番無残な死に方、というものが多少、いやかなり気になったのだが、今は必死で頭の中から追い出す。別の悪魔にあった時でもいいだろう。今は任務中でしかも、心臓を持って帰らないといけない。今、死んでしまっては、あと一匹の心臓が手に入らないし、願わくばあいつの心臓も頂きたいのだ。
「あれー? まだそいつ生きてるのー? それはラッキーだねー。あ、人間からしたら、アンラッキーかなー? まあ、どうでもいいかー」
「え?」
悪魔の方を向いていた俺は、その声を聞いて慌てて振り返ると、まだ微かに息をしている騎士爵がいた。
最初に不意打ちを決めた悪魔である。あの一撃だけでは完全には倒し切れていなかったのだ。爺さんの油断をするな、って声が聞こえてくるぜ……まずい、二対一はかなり厳しいぞ。片方は騎士爵よりも上だしな、どうしたもんかな……
「んー、そのまま戦ってもつまんないしー、やっちゃいますかー。【強制進化】ーー!」
悪魔のふざけた声が発せられると、騎士爵の体から光が放たれて、見えなくなった。
そして、そこにいたのは先程の騎士爵よりも、数段体がゴツくなり、内包する力も大きくなった、異形の悪魔だった。
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