第92話 壁
「ルールは簡単だ、この儂に触れる事ができたら、お主を認めてやろう。ただし、日暮れまでに触れられない、もしくはお主が戦闘不能になった時点で、負けじゃ。その時は潔く去れ。では、行くぞ」
え、いや、ちょっと待て、色々急すぎるぞこのジジイ。ルールは俺があの爺さんに触ればいいだけだと、それでいいのか? 相当舐められているのか、それとも、自分に圧倒的な自信があるのか。
んー、触ればいいんだろ? 取り敢えずやってみるか。よし、取り敢えずこの三つを発動しておこう。
「【ゾーン】、【神速】、【未来予知】、」
では、いこうか、まだ相手は動いてない。ならば先手を頂こうか。
俺は一瞬にして爺さんの目前に迫る。それでも相手は動かない、動揺している感じも見せない。ただ、余裕そうな表情で突っ立っている。ん、おかしいぞ? 普通に触れられるぞ? 触るぞ? 触っちゃうぞ?
そう思って徐に手を伸ばすと、急に体が動かなくなった。
「なっ!?」
「ふぉっふぉっふぉー! そんなに甘くはないぞ、若造! そんなに簡単に触れると思うなよ?」
何故だ? 何故触れない、後数センチの所で手が止まってしまう。その後も至る所から角度を変えて近づいても同じ結果だった。もしかしてバリアのような物が展開されているかと思ったが、どちらかと言うと、俺の体の動きを封じられているように思える。どうやって?
自分の感覚を研ぎ澄まそう、まず、体が動かなくなった時、本当に動かない部分はどこか。こうやって、ヒットアンドアウェイをしているように、足は動いているのだ、ならば、手は? 胴は? 腰は? 全てを逐一確認する。
何度目かの接近で、粗方その全容が判明してきた。俺の体への拘束は、あの爺さんに近づけば近づくほど強くなるということだ。
試しに魔法をぶっ放してみる。やはり効果がない、爺さんの近くにいくと、どうも無力化され、すぐに霧散してしまう。剣で攻撃しても何も変わらなかった。
これはどうしようか、もう結構手詰まりだ。こうなると、龍化でもしてゴリ押すか? いやそれで無理だった時の代償がデカすぎるし、この家も無くなってしまう。
「どうしたかの? もう終わりかの? ならばこちらから行かせてもらうぞ?」
まずい、爺さんが近づいて来た。特に得物は持っていない為素手だろうか、素手での攻撃なら特に問題は無いはずだ。
「えっ!?」
大丈夫だと思って受けた攻撃だが、余りの強さ、速さに拳によるダメージは受けなかったが、それが体に当たる振動で脳が揺れた。
「ほぅ、この一撃に耐えられるのか。だが、いつまでもつかの?」
更に攻撃が飛んでくる、スキルを全開して避けていく。掠っても危ない、全て避ける。それにしても、速い、速すぎて予知がぶれている。確定した頃にはもう手遅れだ、両方に対応出来るように構えながら後は反射神経だけだ。
今のところ運良く避けられているが、この調子がいつまでもつかも分からない。それに、爺さんはまだ本気じゃないだろうから、ギアを上げられても恐らく詰む。早く打開策を見つけなければ……
ゾーンに意識的に入り、更に体感時間を伸ばそうと試みる。伸びているかは知らんが出来ることはやる。そして、並列思考で策を練る。
よし、回避はもう一人の俺に任せた。そして俺は状況整理だ。もう、回避のことは考えない、考えてもどうせ時間とあのジジイの問題だ。
なら、どうやって攻撃を通すかだな。いや、最悪、攻撃は通らなくても触れられればいいんだ。何か何かないか? 考えろ、考えろ、脳が焼き切れるまで考えろ、全細胞を使って突破口を見出せ。
「……はっ!」
なんだ、簡単なことじゃねえか。もう、既に通ってたんだな。
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