第87話 伝授


 えぇー……お前が強くなるってなんだよー。アバウトすぎだろー。


 俺って強い方だったんだな。イベントでの優勝はかなり偶然のおかげと思っていたんだが、ってかそれより、こいつ自分が強いっていう自負凄いな。そんな自分を基準に出来る程強かったかこいつ、まあ、他のプレイヤーもしくは、自分からすると、この人は強いんだろうな。


 強いならもうよくね? 別に俺は強くなる為にゲームをしている訳じゃないんだ、今後やるクエストには強さが必要だから、頑張るのと、今までのはもう本当に偶然だな。


「という訳で、そういうことなら他を当たってくれ。俺はお前に有用な情報を与えられる気がしない。そもそも、目的が違うからな、俺はただ強くなりたいわけじゃないんだ。

 ただ強くなりたいだけなら、もっとそれを専門にしている人達から聞いた方がいいと思うぞ? ……俺は邪道も邪道だしな」


「どういう流れでそうなったのか理解しかねますけど、私だってただ強くなりたいだけじゃないんですのよ? 目的がありますのよ、倒したい人がいるんですの。それに勝つ為に私は強くならないといけないのですわ」


 うわー、面倒臭ぇー。でも、倒したい敵、じゃなくて人って言ったよな? つまりそいつはプレイヤーってことだよな? となると、少々話は変わってくるな。


 それに、目的がある、これも大事だ。金をただ稼ぎたい、よりも何々をする為にお金がこれくらいいる。っていうのが明確にあった方がいいのと同じ原理だな。……正直よく分からんが。


「へぇー。そいつは俺よりも強いのか?」


「きゅ、急に目の色が変わりましたわね。そうですわねー、少なくとも貴方くらいの実力はあるでしょうね。なんたって、第一回イベントの優勝者なんですもの!」


 な、なんだってぇー!? ……とはならないな。まあ、イベントで俺が優勝した以上、俺より強い人っていうのはある程度限られてくる。イベントに参加してない強者か、あるいは、今までのイベントの優勝者のどちらかだ。優勝経験者はそれ以降イベントには参加できないからな。


 恐らく、ある特定の人が優勝し続ける、みたいな事を避けているんだろうな。だが、イベントに参加できない分、破格の待遇を受けれるらしい。俺は説明あんまり聞いてなくて、特に活用はしていないんだが。


 少し、話か逸れてしまったな。うーん、俺が特にコイツの面倒を見る必要性はないんだが、俺が引き受ける理由として考えられるのは……


 まず、称号の加害者を取り除く為、そして、俺と同等、もしくは俺以上の相手と戦えるかもしれない。少なくとも情報は貰えるだろう。


 俺だって、強くなるのが目的ではないと言ったが、別に強くなりたくないとも言ってないし、強者には単純に興味がある。


 最後に強いて理由を挙げるとするならば、育成ゲームっぽくて、面白そうってことだな。俺は個人的に自分が強くなるゲームも好きだが、パートナーや配下、モンスターや街を強くしていくゲームも好きだった。それを息抜き程度にするのは面白そうだ。


 ただ、俺が断る理由として、大きいのが、そう、面倒臭い。どれだけコイツに時間を割かなければいけなくなるかも分からないし、俺自身、強くなってクエストも進めたい。


 ん、いや待てよ。ということは、コイツに時間を割かずに、コイツを強くすれば良いってことだろ? そうすれば、俺は自分のことをしつつ、育成ゲームも楽しめて、称号もどうにかなるな。よし、これしか無い。これで行こう。


「うん、という訳で、取り敢えず飛び降りてこい」


「え、飛び降りる、ですの? それより、どうしてそうなるんですの? それに飛び降りて強くなれるんですの? 全く理解出来ませんわ」


「強くなりたいなら、俺の言うことを聞け。俺がお前に伝えられる情報はお前の常識から解離しているかもしれない。だから、嫌なら従わなくていい、ただ、俺がここまで強くなった方法をお前に伝授する」


「ゴクリ……わ、わかりましたわ。私も覚悟を決めますわ。そ、それで最初は何をするんですの?」


「よし、いい顔になったじゃねーか。最初にやるのは……飛び降りだよ」


「やっぱり変わってませんわー!!」

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