第86話 取引
な、なぜ気づかれた? 途中までは完全にバレていなかったはずだ。
「どうして、そう思う」
「だって貴方、臭いじゃない。私もあの場に居たから、あの臭さは体験してるのよ。それにあの臭い攻撃をモロに食らった貴方が臭くないわけないじゃない。まあ、私が途中で嗅覚強化っていうスキルを手に入れたお陰なんだけどね」
う、においか……まあ、それならしょうがないか。あの場に居て、あのにおいを嗅いだことがあったなら、そりゃバレるのも仕方ない。
いや、待てよ? 今こいつは嗅覚強化を手に入れたと言ったな? うん、それを持っていることは別に特段おかしいことではない、俺も持ってるし。ただ、それを手に入れた、それも途中で、つまり俺が死んでる最中に手に入れたってことだろ?
つまり、俺が死ぬのを見ていたってことか?
別に、死ぬ瞬間をたまたま見られることくらいなら気に留めない。ただ、嗅覚強化を獲得するほど俺を見ていたとなると話は別だ。万が一全く違くて、たまたま何かの途中で手に入れた可能性もある。ここはカマをかけるか。
「おい、お前はいつから俺をつけていた?」
そう、こいつが俺のことをつけていて、それで殺したってことにすれば良い。そう勘違いすれば、向こうに非があるように思える。実際、俺が死ぬのを何もせずただ見ていた、それもスキルを獲得するほどに。違かったらどうしようもないが。
「へぇ、気付いていたんですわね。貴方が火山に入る直前、山の麓ら辺からですわ」
そうか、やはり俺の推理は正しかったようだな。よし、これなら俺が殺したのも自分が悪いと思ってくれれば一件落着だな。
「だろうな、だから俺はお前を殺したんだよ。やりたくはなかったがな。ここは尾行してきたお前も悪い。どうだ、ここはおあいこということで終わらせないか?」
これで良いだろう。どうなることかヒヤヒヤしたぜ。向こうも悪いならおあいこだろう。
「そうですわね。まあ、私も悪いのは認めるわ。ですが、尾行と殺人がおあいこってのは認められませんわね。明らかにそちらの方が罪は重くってよ?
ですので、取引を致しません? 私はある情報が欲しいんですの。その情報をくれたらこの件は無かったことにしましょう。もし、くれないということならば、その称号を抱えたまま、これからのゲーム人生を歩んで頂くことになりますわ」
ほう、取引か。それに俺の持っている称号も知っていると。まあ、粗方対になっているのだろう。こちらが加害者ならば相手は被害者だ。こっちが好感度が下がるなら向こうは上がるはずだ。それなのに、この取引を持ちかけるってことは、それ以上の価値がある情報ってことだな。
ん? そんな情報持ってるか? 俺の持っている情報と言えば、爺さんの店とか? いや、流石にみんな知ってるよな? あとは何がある? んー、でもこいつが知ってる俺の情報で気になることと言えば装備くらいだから、やっぱり爺さんのことか?
まあ、俺が散々死に戻ってるところ見てるからそれの理由は聞かれるかもしれないが……
「そうか、情報によるな。俺が知らない、提供できないものなら、どうしようもないだろう? 聞きたい情報によって取引をしようじゃないか。別に俺はこの称号をずっと持っててもそんなに大した害はないだろうからな」
「そうですわね、分かりましたわ。では、私が知りたいことを教えますわね。それは、貴方の強さの秘訣ですわ」
え? なにそれ? 強さの秘訣? そんなのあるか? 俺はただ適当にプレイしているだけだぞ? 少し横道それたプレイしてるとは思うが……強いってほどでもないだろ?
「俺ってそんな強くないぞ?」
「そんな訳ないですわ! 貴方はイベントでも優勝しましたし、何よりこの私を倒したんですのよ!? 貴方はこのゲームでも三本の指に入るほどの実力者ですわ!」
「お、おう。そうなのか。それは良かったな。でも、本当に強さの秘訣なんてないぞ? 別に大したことしてる訳じゃないし。もっと見習うべき人は多くいると思うぞ?」
「私に勝っておいて、そんな言い逃れは出来ませんわ! わかりましたわ、貴方がどうしても教えたくないと言うなら、私にも考えがありますわ。私が強くなるまで、貴方について行きますわ、それで私が強くなったら、貴方の罪を許しましょう」
え、えぇー……
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