第78話 もう一人の俺


 もう一人の俺が提案して来た内容はこうだ。


 まず、予選の時に獲得したスキル、バーサークを使うことだ。これは予選の時、最後のラッシュを無我夢中で捌いた時の産物だろう。これを使うことで、STRもAGIも上がる。


 だが、これだけではない。これだけで勝てるかも怪しいからな。これに加えて、俺の装備している武器、海龍の怒髪の方のスキルである、逆鱗、を使うことだ。


 これもバーサーク同様STRとAGIを上げるスキルだ。ただ、倍率はこちらの方が高い。両方使うと、倍率は単純に二倍になるのかはわからないが、恐らくなってくれるだろう。まあ、ならなくても片方だけよりかは上がって欲しい。


 これのデメリットは、周りの生物を全て倒すまで、もしくは死ぬまで止まらないことだ。ただ、ぱっと見周りにはモンスターやプレイヤーもいない。恐らく大丈夫だと思う。


 それに今、ふと思ったのが、俺には並列思考がある。それによって体の指揮権を奪えないかということだ。バーサークや逆鱗状態になるのがこの本体の方だけであれば、もしかしたら……


 いや、ないな。そもそも発動が無理である。片方だけならまだしも、両方発動するとなると、バーサークもしくは逆鱗状態の俺がスキルを発動できるかどうか怪しいからな。並列思考が使えるかも分からない。


 よし、それで行くしかない。逃げるなんて嫌だ。これで負けたらまた鍛え直すだけだな。


 目の前の悪魔は邪悪のオーラを纏い、醜い笑みを浮かべている。こいつは絶対倒す。並列思考を意識して、同時に発動する。


「【バーサーク】っ!」

「【逆鱗】っ!」


 頭に血が上っていくのが分かる。体温が上昇していくのが分かる。倒すべき相手への憎悪が高まっていくのが分かる。それと同時に、今まで眠っていた細胞が覚醒していくのが分かる。


 あぁ、アイツを殴りたい、切り刻みたい、殺してやりたい。ただそんな欲望だけに支配されていく。体から、破壊衝動が次から次へと湧き出てくるような感覚だ。


 今、何故このような思考が出来ているかも分からない。並列思考の影響だろうか、少し引いて見てる俺がいる。でも、それも段々と弱く薄く小さくなっていく。そして……


 そこで記憶が途切れた。




 気がつくと、俺は恐らく、元いた火山に寝転がっていた。何故恐らくなのかというと、地形が随分と変わってしまっているからだ。クレーターのような物がいくつも出来ている。


 一体、どのような戦いが行われたのだろうか。非常に気になる。周りの生物も皆殺しにしたのだろうか。この生態系には申し訳ないことをしたな。多分いなかったとは思うが、勝手に気配感知とかも使われてたらかなりやっているだろう。


 だが、取り敢えず今俺がここにいると言うことは、悪魔を倒したということだろう。それは素直に良かった。


「レベルアップしました」


 お、今きたのか。遅くないか、とも思ったが、プレイヤーの意識が無かったら流す意味ないからな。ありがたいぞ。



ーーースキル【怒髪衝天】を獲得しました。



「【バーサーク】、【逆鱗】は【怒髪衝天】に統合されます」



ーーー称号《悪魔を見し者》

   称号《悪魔の討伐者》を獲得しまた。



「エクストラクエスト『悪魔への挑戦』が開始されました」


「SPが500ポイントあります。《修羅の道Ⅲ》を歩みますか?」

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