第71話 決意


 イチゴですわ。あれだけ覚悟を決めた後に迎えた試合、惨敗してしまいましたわ。


 あの、男一体何者ですの!? 私は正直言ってそんなに弱い方ではありませんし、魔法に関してはかなり鍛えている方ですのよ?


 それなのに、それなのに、あの男には一切効きませんでしたのよ? 一体どんな仕組みになっているの? スキルの効果にしてもそんなことありますの? かなり強すぎじゃなくて?


 私は正直、あの男のチートを疑いましたわ。でも、流石にこのゲームでは無いはず。ここの運営はかなり厳しいと噂らしいの。あの試合に出られているっていう時点で、潔白なのは確かなはずですわ。


 でも! それでも、チートを疑うほどに、私には何もさせてもらえずに一方的にやられましたわ……何故、何故、あんなにも強いの?


 私は、私の姉に負けたあの日から、あの背中に追いつく為に必死に今まで頑張って来たのに、それでも姉の背中は遠かった……


 おかしいわ、本当におかしいわ! なんでこんなに頑張って来た私が、あのぽっとでの男に負けなきゃいけないのよ! 理不尽だわ! あの男が私ほど本気で頑張ってるとは思えないわ!


「ふぅ、」


 あーだ、こーだ言っても仕方ないわね……一旦落ち着きましょう。ショックでちょっと気が動転してた気がするわ。こういう時こそ、深呼吸が大事ね。よし、取り敢えず落ち着いたわ。


 もう、うだうだしてても仕方ないの。次、一番になる為に頑張らなくちゃ。それにまだこのイベントも終わっていないわ。今後敵になる可能性のある人達だから、この試合を見ることはそれの対策にもなるし、戦い方も学べる。


 今までは私自身が強くなることを考えていたけど、強くなる方法、ましてや勝つ為の方法はまだまた他にも沢山ある。


 今までの私は少し視野が狭くなっていたわね。あの男に完膚なきまでに負けたせいで、逆に自分のやるべきことが見えたというか、また私自身成長できそうな気がするわ。


 そう考えると、今回優勝していても、結局まだまだお姉ちゃんには届いていなかったんだと思うわ。事実負けたもの。だからこそ、この負けを生かさなきゃだわ。よし、試合もしっかり見て行きましょう。


 あ、次はあの男が出るようね。この私に勝ったんだから、優勝してもらいたいわね、そうすれば私もいくらかましだし。まあ、せめて決勝にくらいは行って欲しいわね。



 ……いや、おかしい。おかしいすぎるわ。明らかに異常すぎるわ。あの男とうとう優勝してしまいましたわ。半分冗談のつもりで優勝して欲しいなんて言ってましたが、本当に優勝してしまうとは、一体全体、あの男は何者ですの!?


 身のこなし、一撃、一撃の攻撃、それに私の時には使っていなかった両手に持っている武器。それも見るからにかなりの業物の香りがしますわね。それほどの武器が用意できるのに、装備は初期のもの。ますます謎が深まりますわ。


 今までイベントでは一度も、少なくとも、決勝戦には出たことが無いはずですし、有名どころのクランにいる訳でもなさそうですし、あの男はどうやってあそこまでの力を手に入れる事が出来たの? それに、妙にちぐはくな感じも気になりますわ。


 これは気になる、非常に気になりますわ。私もあれ程までの力があれば、もしかしたら、あの姉に届くかもしれませんわ。


 これほどまでに圧倒的な力……私も欲しいですわ。なんとしてでも手に入れたい!


 その為には私も変わらなければいけませんわね……


 そうと決まれば、あの男を調べましょう。あの男には強さの秘密があるかもしれませんわ。皆に知られていない、秘密の方法が。それを手に入れれば私も変われるわ。それに、そんな飛び道具的な方法がなくても、少なくとも強さの由縁や、鍛錬の方法など、盗めるものは沢山あるはずです。


 少し、観察しましょう。そしてあわよくば、直接、話を聞くのも良いかもしれませんわね。ただ、今すぐと言うわけにもいきませんから、遠目に観察するのです。


 え? つけてるだけじゃないかですって? そ、そんわけないじゃないですの! これは、ただ私が強くなる為に仕方ないことですのよ!? しょうがないことですの!

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