第70話 決着


 俺は、もう既にもう幾度となくみてきた、そして今回が最後の試合会場、コロシアムに転移させられていた。


 これで最後だな。相手はもちろんあの盾使いだ。今もなお、大きな盾で覆われており、中の人は見えない。予選では手も足も出なかったが、今回の俺は前回とは一味も二味も違うからな。それに、相手がどんな人なのかとても興味がある。


 意図的ではないが、盾使いの試合を見ることはなかった。そのため、どんな風に敵を倒すのかについて俺は知らない。だから、正々堂々正面からぶつかり合おうと思う。


 俺は今回、初めから両手に剣を持って二刀流で行く。予選ではできなかった、攻撃速度、回数、威力の上昇を図っている。これで相手を倒せなかった場合には、俺が温めてきた奥の手で勝負を付けさせてもらう。


 もう、始まるようだ。こちらがどう動くかも大事だが、それと同じくらい相手がどう動くかも重要だ。精神を研ぎ澄まして、全てに反応していく。


「3、2、1、」


これで、イベントが終わると思うと少し寂しく思うな。それだけになんとしてでも勝ちにいく。


「GO!!」


 なっ!? 相手が試合の開始と共に、盾ごと俺に突っ込んで来た。一瞬何事かと思ったが、冷静に見ると、盾が接近していた。いや、それでもかなり不可解なのは変わりはないが。


 俺の予想だと、予選の時の様に、ひたすらに守ってカウンターを狙っていくスタイルかと思っていたが、思ったよりもアクティブらしい。いや、かなりアクティブだな。


 だが、そっちがそういう手段に出るなら、逆にありがたい。なんせ、アクティブに動くことは俺の得意としてる分野であるからな。


 迫りくる盾に対して、瞬時に横側に回り込み、反撃を試みる。


 そこで、俺は驚愕した。それも二つだ。


 一つは、盾が前面だけではなく、側面に対しても展開されており、決まると思っていた反撃の出鼻が挫かれた。


 もう一つは、その盾使いに関してだ。俺はその盾使いに対して、とても屈強で背丈も高い、ゴリゴリマッチョな人が中にいると、半ば確信の様に思っていた。


 だが、中に居たのはまさかの女性だった。いや、女子と言った方が適切だろうか。それほどに幼く、あどけなさも残った印象だった。


 俺の回り込みに対してとてもビックリしている様子だ。それにしてと全体的に動きがどことなくぎこちない。まるで、こういう攻撃をするのが初めてかのようだ。


 もしかしたら、他の試合は俺の予想通り、防御に徹して、カウンターをするという戦法だったのかもしれない。それはそれで今なぜ、この戦法に変えているのか謎ではあるが……


 取り敢えずこれで勝機は見えたな。相手がわざわざこちらの土俵で戦ってくれるのだ。負けるわけにはいかない。


 素早い動きで相手を翻弄しつつ、自動防御かと思えるあの素早い防御を切り抜けられるように、それを上回る速度で切りつけていく。


 素手だと溜めや体全体を使った捻りなどで遅れることが多かったが、剣だとそれらが無くてもある程度の威力を保てるため、防戦一方の相手にはかなり効果的だと思える。


 気づくと、相手のHPはほぼ減っていた。そこで俺はあることをふと思いだした。いや、思い出してしまった。


 そういえば、俺、奥の手を用意してたんだ、と。そして、そこからなぜか、折角だから使ってみようという発想に至り、スケルトン二体を召喚してしまった。


 女子にスケルトンといういかにもホラーなものを急に見せるとどうなるのか、という質問があるとするならば、その答えに正しくぴったりな現象が起きたのだろう。


 相手は、一瞬、現実に対して理解をしていなかったが、ようやく現実を理解し始めると、固まり、そして悲鳴を上げてしまった。


 いや、はい、私が悪いですね。


 俺は自分の失態を理解し、即座にスケルトンを元に戻し、相手に剣を振るった。


 今までも呆気ない試合はあったが、この試合ほど後味が悪い試合は今までなかっただろう。そしてこれからもないはずだ。

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