第69話 テッペン


 相手と一旦距離を置いた。相手は先程まで動揺していたが今はもう切り替えているようだ。流石の準決勝といったところか。


 今回の俺の武器は長剣一本、それに対して相手は短剣の二本だ。呼吸を整えながら相手の動向を探っていく。相手からも同じようにこちらの動きを探られている。


 この間に耐えきれなくなって、相手から動き始めた。


 まずは相手の左手が俺に迫ってくる。それを避けると右手の剣に当たるよう、巧妙な角度だ。


 だが、それはあくまで一般的な場合だ。相手の左手だから俺の右側からの攻撃だ。それを左側に避けると、相手の右手による攻撃、つまり俺の左側から攻撃がくる。


 ややこしくなってきたな。シンプルに言うと、避けたら攻撃が来るのだ。ただそれはあくまで左右の動きのみだ。もちろん前後にはいくらでも避けられる。


 それに俺には未来予知がある。最小限の動きで避けられる。俺は僅かに後ろに引くだけでいい。すると相手の攻撃は当たりそうで当たらない。それに、特に左右に動いてないから追撃も怖くない。


 相手も勿論驚く。当たりそうで当たらないからさらにもどかしくイライラするだろう。俺は相手の攻撃に対してギリギリに避けて反撃するだけでいい。


 ただ、相手もそんなに甘くない。更にヒートアップしてきた。攻撃速度が上がり、キレも鋭くなった。切り返しや、フェイント、両手を使ってあらゆる攻撃を仕掛けてくる。俺も避けるだけで精一杯なほどだ。


 頭が疲れる。いくつもの未来が見えてそれに対して瞬時に対応する。中々ハードだがその分楽しい。来る攻撃はわかるがその速度が速い為に起こる、ギリギリ感がたまらない。今正しく命のやり取りをしている。


 今まではモンスターと戦うことはあってもこれほどギリギリではなかったし、自分で死ぬときも命を掛けているが、こんなにヒリヒリはしない。


 この対人戦特有のスリルは病みつきになりそうだな。


 お、流石にこの凄い猛攻も長くは続かなかったようだ。まあ、ずっと続けられても困るんだがな。それなら、こちらのターンだ。


 そこからは一方的だった。相手はスタミナを使い切ったのか、動きにキレが無くなり、防戦一方となった。俺はただ剣を徐に振り、相手が短剣で防御したら、俺は空いている左手で殴る。ただそれを繰り返す。


 こちらもどんどんギアを上げていく。まだまだこれからだ。相手はAGIにかなり振っているのかスピードが速かったが、流石にもう限界といったところか。二本の短剣でこちらの一振りの剣をどうにか凌いでいる。


 もう、終わらせるか、


「……【神速】」


 俺は目にも止まらぬ速さで相手の背後に回り込む。恐らくまだ気づいていないのだろう。このスキルはいつも長距離を移動する時に良く使っているからわかりにくいが、短距離で使用するとその脅威度は跳ね上がる。


 相手の認知できないスピードで任意の場所に移動できる為、ほとんど瞬間移動のようなものになる。まあ、短距離限定だがな。だが、この試合ではそれで充分だったようだ。


 一思いに相手の首を刎ねる。恐らく斬られた後に自分の状態を知ることになるのだろう。これで終わりだ。とても楽しかったな。こんなに楽しい経験をまた、味わえるだろうか。


 それほどに良い試合だった。



ーーースキル【カウンター】を獲得しました。


【カウンター】‥相手の攻撃を避ける、もしくは弾いて、攻撃を与える。相手の攻撃力に応じて威力上昇。



 これで準決勝は終わったな。いよいよ次が最後か、長かったような気もするがあっという間だったな。


 どうせ、次の相手はあいつだろう。次こそは絶対に勝つ。丁度新しいスキルも獲得したしな。次で使うかはその時次第だが。


 ここまで来たなら、折角だし、てっぺんを獲ろう。俺は今まで何かで一番になったことはない。まあ、小さなことならあるかもしれないが、賞をもらえるもので一位になったことなどないはずだ。


 そんな俺にもそのチャンスが巡ってきたのだ。ここで獲らなければ、もう二度と獲れない、そんな気がする。

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