第47話 相対性


「レベルアップしました」


ーーースキル【過食】を獲得しました。


【過食】‥満腹時に食べ物を食べると空腹度を溜めることができる。また、空腹度を消費する事で任意のステータスを一時的に上昇させる。


 ふぅ、いつの間にか全部食べてたぜ。足と頭で歯応えも味も全然違うから飽きる事なく食べることができたぜ。足は食っても食っても生えてくるから、タコ足食べ放題になってたぜ。いやー美味かった。


 海の中で食べてるからかいい感じに塩味効いてて美味しかった。味変でタコ墨をつけて食べてみようとしたが意外と奥の方にあって取り出しにくく、量も少なくてあまり食べられなかった、一部海に流れたしな。イカ墨はよく食べられるのにタコ墨が食べられない理由がわかった気がした。やっとのことで食べたタコ墨は一口だけだった。


 その一口は食べてみると、ピリッとした味でいけなくはない感じだった。墨なのに何故ピリッとしたのかはわからない。もしかして毒でも入っていたのかもしれない。


 そうして食べ進めていたら気づいたらクラーケンを全部食べ終わっていた。レベルも上がったし、スキルも獲得していた。龍化してからは呆気無かったんだが、一つ気になる事がある。


 俺があのクラーケンを丸ごと食べたという事だ。


 いや、クラーケンを食べること自体、味もとても美味しくて、俺も夢中になって食べるほど、とても最高なことではあった。


 ただ、あのデカいタコを一般人の俺が全部食べきることなんて普通に考えて無理じゃないか? しかも足も復活してくるんだぞ? 俺はどうやって食べたんだ? フードファイターみたいな大食いの人でもきついでしょっていう量だぞ? なんでだ?


 考えられる可能性の一つは、俺が龍化していたから単純に胃の容量が増えて、食べられる量が増加したという可能性。


 もう一つの可能性は、俺が空腹無効というスキルを持っていることで空腹という概念が無くなり、それと同時に満腹という概念も無くなった、という可能性だ。


 なんか突飛なように聞こえるかもしれないが、実際あの巨体を全て食べても別に満腹とは感じていないのだ。


 例えば、朝というものがもしなくて、ずっと真っ暗な世界だったらその状態の事を夜とは定義しないだろう。朝という状態があるから夜がある訳で、夜しかない世界なら朝昼夜っていう概念は生まれないのではないのか?


 あくまで妄想の世界だからよくわからんが、その理論でいくと、空腹状態があるから満腹状態も意識できる、認知できる。つまり逆を言うと、空腹にもなれない人は満腹にもなりえないのではないか、という理論。


 いや、理論というにはおこがましいな。なんか自分で考えててもよくわからなくなってきた。別の例で言うと、身長が高い人がいるから低い人ができる訳で、みんな同じ身長なら高いという概念も低いという概念も生まれないのか?


 あー。もうめんどくさい、よくわかんないから考えるのやめよう。単純に龍になったから胃袋がでかくなっただけってことにしよう。恐らくそうだろうし、その可能性が一番高いはずだ。


 よし、気を取り直して、依頼はこれで達成したんだ。初めはどうなることかと思ったが倒せて良かったな。これで武器を買える筈だ。


 あ、龍化って任意で解けるのか? 解けるとしてもこのまま解くのは勿体無いから、少し泳いでみよう。


「おー!!」


 めちゃくちゃ速いなー! クラーケンの時は目的地があったからもうほぼ一瞬って感じだったからもはやスピード感は感じなかったんだけどこうして泳いでみると本当に気持ちい。水を切って進む感じよく分かる。海の浅い所を泳ぐと迷惑になるだろうし、見つかってモンスター扱いされるのも嫌なので、深海というかほぼ海底で泳いでいる。殆ど何も見えないが所々光ものが見えるから恐らく深海魚の目だろう。


ーーースキル【遊泳】を獲得しました。


【遊泳】‥泳ぐスピードが上がる。


 よし、このくらいでいいだろう。楽しくて結構な時間泳いでいた気がする。子供の頃プールで遊んだ時を思い出したな。場所も規模も体すらもその頃とは全く違うんだがな。


 もうそろそろハーゲンも暇してるだろうし終わろう。もう充分すぎるほど泳いでスキルもゲットしてしまったしな。お、龍化も無事解けたな。


「あ」


 海底で龍化を解いたら水圧で死んでしまった。

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