第45話 クラーケン


 ん? なんか足に違和感があると思ったら、クラーケンに足を掴まれてる! 人が優雅にダイビングしてるっていうのになんて失礼な奴なんだこいつは!


〈Lv.84 クラーケン〉


 いや、うん。名前は知ってるよそりゃ、今から倒すし。それにしても意外とレベル高いんだな、ってか、でっかいな! めちゃくちゃめちゃデカいぞこいつ、ほとんど全貌が見えないぞ。


 いやーデカすぎないか? これはどこを攻撃すればいいのか? 八本ある足は動きも素早いし、あのタコの末端だから攻撃してもあまりダメージは与えられないだろう。


 だがかといって、頭の部分を狙おうにもデカすぎてかなり遠いし、その間に足が俺を狙ってくる。んーどーしたもんかなー。


 水中だから俺の拳の威力も落ちるし、今回は武器を使うか? いや、剣も結局水の抵抗を受けて威力は落ちる。どうすればいいんだ……


 そうやって俺がタコを倒す算段を立てようてしてる間にも八本の足で俺を襲ってくる。避けきれなくて捕まってしまう場合は武器で切断しているのだが、ほぼ一瞬で再生するし、吸盤が張り付いて切ったあとも取るのに手間がかかる。


 んー報酬がよくて、コスパ良いと思ったんだが、報酬が高いのにもちゃんとした理由があったんだな。これはめんどくさいし、何より倒す方法が見当たらない。


 ずっとこうやってても埒があかないので一旦距離を取る。タコ自体は大きすぎる為移動速度は遅い。その分足は早く動かせるから、足の射程圏外にいけば取り敢えずは安全だ。


 だが、タコ自体も動くし、海流などによって気づかぬうちに流されていることもあるからな。飛び込んだ時はまだ陽の光も結構入ってきてて視界も良かったんだが、クラーケンと戦っていたら気付いたら光が余り入ってきておらず、他の生物も見当たらない。これがクラーケンの縄張りということだろう。


 取り敢えず、タコから距離をとったんだがらどうしたもんかタコに捕まえられると、足で縛られているからか継続ダメージが入る。だから俺でも死ねるのだ。


 いや、でも今は依頼中だから死にたくないし、しかも敵と認めている奴に殺されるのもなんか嫌だ。くそー、どうしようか。何か良い手段はないのか?


 そう思って何気なくステータス画面を見てちると、


「ん? 龍化? あ! これいいかも!」


 龍化とは、ステータスを上昇させて龍の姿になれるというスキルだ。今まで一度も使ったことがなかったなそういえば。なんか物騒なスキルと思ったしそんな人目があるところで使ったら要らぬ誤解を生んでしまうかもしれないからな。それに、今まであんまり苦戦してなかったから使おうとも思わなかった。


 だが、今回はいいタイミングと言えるだろう。人目のない水中、少し面倒で倒しにくい敵、そしてなにより使ってみたい! これはもう使うしかないだろう!!


「いっけー!! 【龍化】ぁあああ!!」


 すると、俺の姿が徐々に形を変えていった。視界はいつもどおり、他の感覚気管はわからないが触覚が水をダイレクトに感じている。恐らく服を着ていない、裸の状態になったのだろう。といっても鱗があるだろうしなんらやましいことはない。


 よし、これであのタコを倒そう。そう思って泳ごうと手足を動かそうとすると、


「グァ?」


 何故か進まない。おかしい。流石に龍の姿になっても泳げるはずだ。龍に変わったからといって急に泳げなくなるなんてことはないだろう。


 そう思って泳ごうとしても進まない。ってか体が動いている感覚がない。あれ? なんだこの感じ? 体の意識できる部分が人の部位で言うと肩くらいまでと、足はなんかくっついてしまっているような感覚と言えばいいのだろうか? まるで寝袋にはいっているかのような感覚。……もしや、


 なんとか体幹を意識して体を捻り、上に上昇し、下を見てみると、そこにあったのは、


 どこまでも長く続いている龍の鱗が見えるのだった。



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