第38話 登山


「え、猿……」


 そこに居たのは猿だった。体格はそこまで大きくないが体毛が白く、雪に溶け込む様な色合いである。なんかずる賢そうな見た目だな。


 あの猿がこの空間全部と俺個人のどちらにスキルを使っているのかはわからないがやっと抜けられそうだ。改めて頂上の位置を確認すると、今まで見ていたものよりも若干大きく見えた。実際よりも遠くにあるように見せられていたのだろう。


 取り敢えず、倒すか。猿は俺が見えるようになったことにまだ気づいてないのか間抜け面を晒している。なんかムカつく顔である。


〈Lv.70 ミラージュモンキー〉


 レベルはそこそこで俺より高い。だが別に強敵と言うほどでもない、さっさと片付けようか。俺は全速力で猿のもとへ走り、海龍の剣で袈裟斬りをお見舞いしてやった。油断している時に不意打ちはかなり効いただろう。とてもびっくりしていたようだ。


 そうして、猿が逃げる間もなく切りまくって倒したのだった。仕掛けを解くのが難しい反面戦闘に関しては弱めに設定されていたのかもしれない。レベルに対して弱かった気がする。


 これで漸く山頂にいけるな。長かったぜ、ほんと。もうずっとスキルを使い続けすぎて、俊足が神速に持久強化が超持久に進化してしまったぜ。まあ、無駄に成長出来たからよしとしよう。


 それにしても山頂からの景色はどうなんだろう。雪が積もっている所からどんどん雪が降る量も増えて、吹雪いている。積もっている高さもかなりになってきて歩き辛くなってきた。この調子だと頂上に着く頃には何も見えないのではないだろうか。まあ、それでもいいか。これで最後だしな、わざわざ途中まで行って帰るのはもったいない。


 そうして歩き続けると、吹雪もますます強くなり、地割れのようなクレバスが至る所にあり、気が抜けなくなってきた。前も見え辛く、足下にも注意をしなければならないのでかなり過酷だ。現実もこんな感じなんだろうか。いや、流石にもっときついか。俺はスキルで補正されてるしな。


 ん? 俺ってクレバスに落ちたらどうなるんだ? 寒さでも死なないし、餓死も出来ない。落ちたら登れるのか? ハーゲンとかあればいけるだろうが、こっちはハーゲンしかない。しかも寒さで行動出来ないだろうしな。その場合どうなるんだろ、身動き取れず死ねないままなのか? 血液とかも凍って結局死ぬのか? 身動き出来なかったらどうするんだろうな、もうずっとそこにいることになってしまうからな。運営にどうにかしてもらえるのかな?


 あ、空歩があるから落ちた瞬間なら空中の一歩で戻れるかもしれないな。でも怖いことには変わりないし、とっさに出来るかも不安だしな、落ちないように気をつけよう。


 登山中に変な考え事は良くないな、事故に繋がる。流石に現実世界ではこんなの出来ねーな。命の危険もあるし、過酷すぎるだろ。


 そうやって、無心を努めながら一歩一歩歩いていると突如、雪が止んだ。急に天候が回復したのだ。日差しもさしている。とても気持ちがいい。


 晴れの時の雪って気持ちがいいよな。寒さも気持ち和らいで、寝転がりたくなる。せっかくだし寝転がるか!


 そう思って振り返ると……


「わぁ……」


 そこには正しく絶景があった。


 今まで登ってきた雪山、そして奥の方に見える街並みと地平線、それらを照らす太陽。なんとも筆舌しがたい光景が広がっていた。


 もう既に頂上に着いていたようだ。頂上だけ天候が穏やかというゲーム的設定だろうか、とても粋だ。今までの過酷な道中とは一転、とても気持ちの良い気候と息を飲む絶景。最高すぎる。


 最初の頃に神殿でとても綺麗な光景を見たのを思い出した。あれがきっかけで本当に死ぬことを望まなくなって、もっと生きてみようと考えたんだった。


 やはり、これがゲームの醍醐味だろうな。こんな景色、普通に生きていたら到底見ることもできないだろう。まあ景色だけなら画像とかで観れるかもだが、この経験とセットじゃなきゃ意味がないんだなって、登ったからこそ分かる。こりゃ現実でもハマる人が出るのもうなずける。俺はこれで充分だがな。



ーーー称号《登山者》

   称号《秘境探検家》を獲得しました。

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