第36話 雪の中


 もう何時間経っただろうか。何回死んだだろうか。ただ雪山に寝転がるだけの簡単な作業なんだが冷たい感覚と雪が降っているという閉鎖的で薄暗い空間のせいか、どうしても内面に意識が働いてしまう。夜一人で悩み事しやすいのと同じ原理だろう。


 それにしても死ぬ瞬間というものはどうしてもまだ慣れないな。そりゃもちろん何千回も死んでいるから一般の人より遥かに慣れているが、なんというか強制的に寝落ちさせられているような感覚と言えばいいだろうか。心地良いような少し寂しくなるような感覚だ。っとそんなこと言ってると死に戻りしたな。


ーーースキル【氷寒耐性】

   スキル【持久強化】を獲得しました。


【氷寒耐性】‥寒さや氷によるダメージを軽減する。


【持久強化】‥疲れにくくなる。長時間活動できるようになる。


 おー。とりあえず耐性をゲットしたな。ここまででひと段落って感じだな。ここからは更に時間がかかるようになるが、その分ダメージが軽減されて持久力が強化されてるから楽にはなる。もうひと頑張りだな。


 俺は死に戻った後に直ぐにハーゲンを出して山の中腹まで飛び、そこからダッシュで雪が積もっている場所まで向かう。いわば1人でインターバル走をしているようなものだな。休み時間はかなりあるからそこまでしんどくはないが、それでも持久力がついたのだろう。しっかりスキルに反映されている。


 雪に寝転がるのは案外悪くない。寒さ冷たさを除けばふわふわしててとても気持ちがいい。晴れた日のゲレンデならば現実でしても気持ち良さそうだ。だか、ここは薄暗いからな、気分が晴れやかになる程ではない。


 ここで横になっている時は自然と一体となることを意識している。よくあるだろう、大自然を感じてどーのこーのだ。ゲームの世界で現実では不可能もしくは難しいような体験ができることもこのゲームの醍醐味だろう。


 このVR技術を生かして、ヨガとかそういうスピリチュアルなことをすれば環境を最高の設定でできるから案外相性は良さそうだよな。


 例えば、お坊さんとかの修行もここでやれば餓死する危険なしに、餓死する限界まで念仏唱えられたり、滝行とか危険なことができる。


 時間加速技術と組み合わせればもう完璧だろう。ブッダが解脱するまでにかけた時間の何倍という時間を費やすことができるなら、一般人でも解脱ができそうだ。


 とはいうものの、ゲームは多くの世代に需要があるから良いが、ヨガのVRをだれがそこそこの値段をだして買うのだろうか。販売元も利益がでるか怪しいしな。もうちょっとVR浸透して技術革新も起きて値段が安くなれば、爆発的に普及しそうな気もする。そうすれば色んなコンテンツが生み出されるだろう。過去に薄型タブレットが世界中に普及した時のように。


 それを考えれば俺がやってるのは正しく修行なんじゃないか? ゲームは自分の快楽の為にするのが普通だろうから、快楽じゃなくて死を求めてるからな。死ぬことは快楽とは違うだろ。


 そういえば俺は何故このゲームで死んでいるのか? 最初は現実で死ぬ為に死に慣れる為だった。しかし、今は死を望んでいない。どちらかと言うと、いつ死んでもいいから、まだもうちょっと生きてみるという感じだった。


 それも段々変化してきたように思う。強くなることが楽しくなってきたり、感謝されるのも悪くないと思うよになってきたりした。ということは俺も快楽を求めている事に変わりはないか。


 そう思えば徐々にまともにゲームをしている気さえしてくる。いずれは他のプレイヤーと交流したりもするのだろうか? まあ、当分は一人でやるだろうな。異質なプレイスタイルには変わりないし。



 思考がまとまっている様でまとまってない感じだ。あっちいったりこっちいったり同じとこループしたりする。


 何時間経ったのか、何回死んだのかもう考えることすら億劫になってきた時に、


ーーースキル【寒氷無効】

   スキル【高速思考】を獲得しました。


「【寒氷無効】と【炎熱無効】が統合されます」


ーーースキル【変温無効】を獲得しました。


【変温無効】‥温度変化によるダメージを無効にする。


【高速思考】‥考えるスピードが速くなる。

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