第5話 溺死


 俺は湖を発見した。


 湖と言えば、水。水と言えば、そう、溺死だ。


 溺死は新しい死に方な上に、現実的でもあるので、実はずっと探していたのだ。やっと見つけられた。


 湖に入るだけでいいとはなんとお手軽なんだ。今まではウサギやキノコを探さねばならなかったが、湖は何処にもいかないで、ずっとここにいてくれる。


 後は俺が飛び込むだけだな。


「よし、行きますか!」


 うぉ、少しヒヤッとしたけど、冷たすぎる程ではないな。水の中にいると、一定時間が経ち息が切れたような感覚に襲われてからダメージを受けるようになっているようだ。


 ダメージを食らい始めると最初は微々たるものだが加速度的にHPを削られてしまう。毎秒ダメージが増加しているのだ。


 計測してみると俺がダメージを食らい始めてからおよそ百秒で死ぬことが分かった。


 うん、暇だ。湖は案外深いようで、まだまだ底には尽きそうにもない。これなら余裕と思っていたが……


 五十秒を超えた辺りからキツくなってきた。現実でもこんな感じなのだろうか……


 七十秒辺りではもう、溺れてる。水もドバドバ飲んでるし、頭もクラクラするし、はっきり言ってもうやばい。


 それ以降の記憶は無かった。気がつけばもうお馴染みすぎる、始まりの広場だ。


「溺死かなりやばいな、これまでで一番現実的だけど、一番きつい……」


 そう、きついのだ。きついのが何より嫌だ。


「でも、やるしかないよなー……またスキルでもゲットするかもだし、それくらいまではやろう」


 そうなのだ、きついとかうだうだ言ってられないのだ。ここが正念場だ。


 ここを乗り越えられたら現実でもイケる気がする。


 大事なのは慣れだ。そう、慣れれば大丈夫。


 そうやって、頑張って何回も湖に潜り続けていると、


ーーースキル【素潜り】を獲得しました。


【素潜り】‥水中に潜れる時間を増加する。


 おぉー! ついにきたー! スキルゲットだ!!


 あれ? でも待てよ? 時間を増加ってことは、苦しみが軽減されるわけではない? 死ぬまでの時間が長くなるだけ?


 まじかー……まあ、しょうがないな。もう、諦めて潜り続けよう。


 そんなこんなで、ずっと潜り続けて、どれくらい死んだだろうか? 約五十回ほど死んだ頃だろうか?


ーーースキル【潜水】を獲得しました。


【潜水】‥水中で呼吸が可能になる。


 これで少しは楽になるかと思えば、死ねなくなった……


 しかも、今はまだ水中である。HPは徐々に回復しているが、ここから上に上がるのはきつそう……


 気づいたら、底まで沈んでいた。


 底は真っ暗かと思っていたが、微妙に明るい、かと言って日光が届いているわけでもない。


 どこかに光源があるのだろうか?どうせ死ねないし、探してみよう。


 んーなんか、若干他より明るい場所とそうじゃない場所がある、と思う。とても微妙だからわかんないけど……


 ここら辺が明るいところのなかでは一番明るいのかな? でもほんとに僅かな差だからなー。


「触ってみるか…」


 じっくり観察しながら、底の土を触っていると……


ーーースキル【看破】を獲得しました。


【看破】‥隠されたものを見つけることができる。


 お! 看破だ! ということは何か隠されていたのだろう。早速使ってみるか。


「看破!」


 すると、たった今調べていたところにぽっかりと大きな穴が開いていた。看破を使わないと、見えない仕掛けになっていたのか。


 せっかく見つけたんだから、勿論入ってみる。一本道だからすんなり行けるけど、かなり奥まで続いている。


 そして、かなり進んだところ、


「ん? 水面がある!? なんでだ??」


 そう、そこには水中にも関わらず、水面があったのだ。


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