第26話
「ふざけんなー!」
「理由を説明しろー!」
「責任者出てこーい!」
翌日のこと。
あまりに急で横暴な生徒会による決行。それを一方的に受け、はいそうですかと大人しく従える者はこの学園にそう多くはない。
この日、早朝から生徒会室前に大勢の生徒達が押し寄せており抗議の声を上げていた。
そして、その集団の誰よりも前に出て誰よりも叫ぶ男子生徒。
「おいこらふざけんなよ律華ごらぁぁぁぁ!!! 俺からダンジョン取り上げるたぁどういうことだぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」
いったいいつの間に準備したというのか。 額には閉鎖反対!の文字が書かれたハチマキを巻き、首には独裁者からダンジョンを解放セヨ! の文字が書かれたプラカードを下げている。
他の生徒すらも少し引いてしまうほどのガチ抗議活動をするのは他でもない椿井天晴。
「出てこい律華ァァァァァァ!!!!」
───ダンダンダンダン!
何度も強く扉を叩くが一向に扉が開く気配はない。
やがてHRの時間が迫り退場を余儀なくされる。 天晴を含めた生徒達は皆渋々自分の教室へと戻っていく。
そして I - A 教室でのこと、姉の代わりと言わんばかりにクラスメート達から質問攻めを受ける鈴華を発見する。
「ねえ! 探索が出来ないってどういうこと!?」
「生徒会長の妹なら何か知ってんじゃねえのか!?」
「知りませんよ何も! スズだって何がどうなっているのか……」
「おい! 落ち着けよおまえら! 鈴華は関係ないだろ!」
鈴華を助けようと割って入る天晴に一同は注目。 ハチマキやらプラカードを身につけたその姿につい目を引いてしまう。
「えっと…… なにその格好……」
「ん? これか? ちょっと生徒会に文句の1つでも言ってやろうと思ってな。 おまえらも一緒にやるか?」
まだまだあるぞと同じ装備をぞろぞろ懐から取り出す天晴。
やはりそのガチっぷりにドン引くクラスメートは、こうはなりたくないと鈴華を責めることをやめた。
「ごめんなさい浅黄瀬さん。 あたるような真似して」
「こん中じゃ浅黄瀬が一番大変だもんな。辛くなったらいつでも相談しろよ」
ほとぼりが冷め、鈴華のもとから離れていく集団。 彼らはいつの間にか天晴と行動を共にしている鈴華を心配するようにまでなっていた。
「えっ、えっ? おーい、文句言いに行かねーの?」
天晴は続けて呼び掛けるが、誰もそれに反応すらしなかった。
「おにーさまっ、 助けていただきありがとうございますっ」
「お、おう! なんかよくわかんねえけど良かった良かった! ……って、そういや火夜は?」
「あれ、そういえばまだ見てませんね……」
二人が辺りを見回して探していると、すこしだけ機嫌を悪そうにした火夜が教室に入ってくる。
「……おはよう」
「おお、おはよう。 今日はいつにも増して人相悪いな。 いやぁその気持ちわかるぜ。やっぱ探索出来なくなったら嫌だもんなぁ」
「……」
絡む天晴をまるで無視して素通りする火夜。 堪らずショックを受けた天晴はその場で固まり鈴華に助けを求めました。
「お、俺なんか怒らせるようなこと言ったっけ……?」
「おにーさま。 女の子にはどうしようもなくイライラする日があるのですよ」
「……あっ、なるほどなぁ」
なぜか納得してしまう天晴。
彼は鈴華の指示通り一日火夜に話しかけるようなことはせず、放課後にはまた抗議活動へと向かって行ってしまった。
一方、朝からほぼ一言も声を発さなかった火夜。 彼女は放課後人の目を盗んではそそくさとどこかへ向かっていく。
そうして行き着いた先。 そこは前線キャンプ内に存在する訓練所施設だった。
「……」
扉を開け、緊張した面持ちで足を踏み入れる。
中は暗く、その奥まではとても見えない。
もう一歩進むか、そう考えたそのとき……
「わっ!」
「ひゃうっ!?」
背後から忍び寄り突然驚かせにきたのは鈴華だった。
予想外の出来事に咄嗟に距離を取っては振り向く火夜。
「……浅黄瀬さん。 どうしてここに」
「いやぁ、朝からなにやら様子が変でしたから、こっそり後を付けさせてもらいました。
あっ、おにーさまには内緒にしてありますのでご安心を」
「……すべてお見通しってわけね」
「いえいえ、実際のところは何も分かっていませんよ。 それで、いったいここに何が?」
「……今日の朝、匿名でこんなメッセージが送られてきたの」
火夜は自分のデバイスを取り出してその画面を見やすいように鈴華の方へ向けた。
そこにはわずか二行の文章と、複数の画像が添付されており、一先ず鈴華は文の方を読み上げる。
「えっと、なになに……? ワタシはアナタ達の秘密を知っている。 バラされたくなければ指定の場所に来い?」
続けて添付された画像を見る。
するとそこには鈴華達3人の、付け加えるならいつの日かの歓迎会のときの姿が写し出されていた。
無論、酒を飲んで酔っ払い絡み合っている姿もだ。
「これは……!」
「……いつの間に撮られたのかわからないけどこんなもの学園に報告されたら堪ったものじゃない。 だから、私はどうにか見逃してもらうように交渉にきたの」
「おにーさまに知られたくなかったのは余計な心配をさせたくなかったということですか。 まったく、水くさいですね」
呆れながらも満更でもない顔で溜め息をつく鈴華。
そんな話をしていると部屋の奥からこちらに近づいてくる足音が聞こえてくる。
深く注意して相手の姿が見えるのを待つ。
すると、現れたのは生徒会長の浅黄瀬律華だった。
「お姉様……? まさか、呼び出したのはあなたですか?」
「鈴華…… やっぱり二人で来たのね。 いいわ、計算どおりよ」
「……浅黄瀬律華。 こんな脅すような真似をしていったい何の用?」
「これでも先輩よ。 口の効き方には気をつけなさい」
「黙れ! 何の用だと私は聞いているの! 四の五の言っていないで大人しく答えて!」
「……はぁ、いつになってもこの時期の新人はお転婆で困るわね。
いいわ、それなら最初に答えてあげる。 玄井門火夜、そして鈴華。 あの画像データを公にされたくなかったら今すぐ椿井天晴と縁を切りなさい」
「なんですかそれ! そんな要求をしていったい何になるんですか!?」
「天晴、あの男には大人しくしていてほしいの。 けど、あの調子じゃ警備を突き破ってダンジョンに入りかねない。そうなると私達の作戦に支障を来す。
だから出来る限り彼の協力者は排除しておきたい。 単独だったら流石にあの男もダンジョンに入ってきたりはしないでしょう」
「作戦っていったいなんなんですか。 昨日の〈ミノタウロス〉が関係あるんですか!?」
「……あなた達も薄々勘づいているんじゃない? ここ最近、ダンジョン内で異変が起きていることに」
「異変……?」
「もしかして、モンスター達の生息分布が乱れていること?」
「そうよ玄井門さん。 ここ最近下層のモンスター達が自分の縄張りを捨ててまで上層にやって来る事例が頻発している。
これはこの50年間の歴史の中でも前代未聞のこと。 はっきり言って異常事態なの」
「そ、それがなんだって言うんですか」
「つまり今ダンジョン内はとても危険だということ。 予想していなかったタイミングで自分達の手に負えないほど強力なモンスター達と遭遇する可能性が限りなく高まっている。
この状況を私達生徒会執行部としては見過ごすことは出来ない。 だからこそ非常事態宣言を起こした」
「それで、作戦っていうのは?」
「昨日の連絡で告知したとおりよ、生徒達の安全を確保した上で迷宮内の調査、そして事態の解決。 具体的には〈隻腕のミノタウロス〉を討伐することが目的の1つね」
「……本当にそれだけ?」
「……どういう意味かしら?」
「一時的にダンジョンから探索者を締め出したいだけなら特別あっぱれや私達に手を出す必要はない。 それをこんな回りくどいことして呼び出して、私には何か別の思惑があるようにしか思えないって言ってるの。
……そう、例えばこれを機にあっぱれには一切ダンジョンに関わらせないようにさせたい。とかね」
「……へえ、報告じゃ剣以外はまるで無知な田舎出の脳筋娘だって聞いていたんだけど、思いの外頭が回るようね。
けど、だとしたら何? さんざん話をさせておいて、結局私の要求を飲むの? 飲まないの?」
「それは……」
返答に詰まり、火夜は苦しい表情で鈴華に視線を送る。
それを受けた鈴華。彼女もまた決して明るくはない表情でありながらも確りと頷くことで応えた。
鈴華は律華の冷たい目をまっすぐ見て口を開く。
「……では、こういうのはどうでしょう。 お姉様、スズ達と勝負をしませんか? もしもあなたが勝てば素直に要求を飲みます。
けど、もしもスズ達が勝てばあの画像データは破棄してもらいます。 当然要求も拒否します」
「その誘い、私にはまるでメリットがないのだけれど?」
「……そうですね。 ならもう1つ。 もしもスズ達が負けるようなことがあれば今後一生スズはお姉様の言いなりになると約束しましょう」
「……言いなり?」
「ええそうです。 例えば家と絶縁しろだとか、二度と目の前に現れるなだとか、好きなことをなんでも命じていただいてかまいません」
「……へえ、それは面白いわね。 いいわよ、そこまでの覚悟があるなら受けてあげても。 それで? 勝負っていったい何をするの?」
「そりゃ、おあつらえ向きに訓練所なんて場所に集まったわけですし? ここは探索者らしく真っ向面の実力勝負ということで」
鈴華が口にしたその言葉に、少しだけ不服な表情を見せる律華。
彼女は腕を組み直して威圧するように問い直す。
「あら、聞き間違えかしら。 鈴華、あなたもしかして実力勝負って言った?
誰と誰が? まさか、ルーキーのあなたと生徒会長の私なんて言うんじゃないでしょうね」
「……そうだと言ったら?」
「舐められたものね。 そんなの私の威信に関わるわ。 邪魔くさい、あなた達二人でかかって来なさい」
「あら、それはそれは…… ならご厚意には甘えることにしましょう。 玄井門さん、協力してくれますか?」
「もちろん」
鈴華と火夜の二人は顔を見合せ得意気な表情を見せる。
そのとき、律華が不敵な笑みを溢したことに気づきはしなかった。
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