第22話


 雑談もそこそこに、仕事モードに入るメイタン。

 

 「それじゃあ希望のサイズや重量、他に要望があれば聞くけどどうする?」

 

 「えっと、大きさは……」

 

 メイタンと火夜の二人が面と向かって相談をはじめた。

 ここから先は任せておけばいいということで適当に店内をブラつきはじめる天晴とその後を追う鈴華。

 

 「おにーさま、ここにはよく来るんですか?」

 

 「そうだな。 四年前はよく世話になってたよ」

 

 「ということはお姉様もこの店に……」

 

 「来ていると思うぜ。 最近のあいつらの写真見ても装備はメイタン製のものをつけていたからな」

 

 「へぇ……」

 

 店の片隅には何やらサインやら写真やらが飾られていた。

 

 それらはこの店を贔屓にする有名探索者のもので、店の宣伝のために飾られるのはよくあるること。

 

 そしてその中の一つに【やがて光を見る者】の面々とメイタンが仲睦まじく並ぶ写真があった。

 

 鈴華はその写真をじっと見て、心底うんざりしたような顔をする。

 

 「鈴華さん、お顔が怖くなってますよ」

 

 「はて、なんのことでしょう。 私は平常運転ですよ」

 

 とてもそうは見えないぞ、と天晴は胸の内でツッコむ無言の間。

 

 姉のことに関連して何かを思い出したのか、鈴華はこんなことを口にした。

 

 「……にしても、よく玄井門さんを引き入れる気になりましたね」

 

 「実力は確かだからな。 凄かったんだぜ? ゴブリンの大軍を嵐で撒き散らして……」

 

 「それは何度も聞きました。 でも、どれだけ強いのだとしても彼女はお姉様に似た危うさがあります。 ダンジョンの中で暴走なんてされでもしたら……」

 

 「そのときは俺がビシッと言って止めるだけだ。 なんせ、仲間なんだしよ」

 

 「……おにーさまはお人好しすぎます。もっと自分のことを大切にしてください」

 

 「大切にしているさ。 だからこそ一緒に戦う仲間は自分が信用できる奴がいい。

 不器用でも、弱くても、ひたすらにまっすぐで純粋な奴。 玄井門や、おまえみたいな奴が俺は好きなんだ」

 

 「……たらしですね」

 

 「ん? なんか言ったか?」

 

 「いいえ何も。さて、そろそろ向こうの話もまとまりそうですよ」

 

 

 そう言われて再び火夜達のところに戻ってみる。 するとどうやら本当に話がまとまったようで、火夜が注文した刀は二週間後に納品されるという運びになった。

 

 

 「ごめんねぇ、ほんとはすぐにでも渡してあげたいんだけど、この時期は色々予約が立て込んでてぇ~ 代わりにこの刀を貸し出すから許してぇん」

 

 赤漆の鞘に納められた一振りの刀。

 

 火夜はそれをメイタンから受け取る。

 

 「それも中々にいい刀だから、きっとお役に立てるはずよ。 あっ、壊したら弁償だからさっき言っていた大技は使わないでねクロカヨちゃん」

 

 「はい、ありがとうございます!」

 

 ということで、一先ずの新しい武器を手に入れ一行は〈メイタンの館〉を後にした。

 

 「うっしゃあ、そんじゃいよいよダンジョン探索はじめますかー! みんな、心の準備はいいかー!?」

 

 「おー!」

 

 「お、おー……」

 

 士気を高めようと発破をかける天晴。 鈴華はそれにこぶしを高くつきあげて元気の良い反応を見せるが、対照的に火夜は小さく声を発するだけだった。

 

 「おいおいどうした玄井門。 元気がないな?」

 

 「その…… もしかしたらまた皆に迷惑をかけると思うと怖くなって……」

 

 この期に及んでそんなことを言い出すものだから天晴は頭を掻いて少し考える。

 

 しかしそれで見捨てるような彼ではない。 彼はいつかのときと同じように相手の名を強く呼ぶ。

 

 「……玄井門!」

 

 「な、なに?」

 

 「強く、なるんだろ?」

 

 天晴は真っ直ぐに火夜の目を見た。

 

 そのか細くも美しい少女の目、蘭と光る目に強く訴えかける。

 

 だから火夜も今一度自分の意思を思い出した。

 

 なんのためにダンジョンに潜るのか、なんのために仲間と戦うのか。

 

 「……うん!」

 

 「いい返事だ! さあ行こう! 無限の冒険が俺達を待ってるぜー!」

 

 少女二人を背に天晴は天高くを指差した。 これから起きるドキドキとワクワク、それらに心を馳せていた。

 

 「……と言っても、今日は試用として6階層の探索ですけどね。 無限の冒険には程遠いかと」

 

 「鈴華ぁ~ それは言わねぇ約束だろぉ~」 

 

 「あら、それは失礼」

 

  出盛り上がろうとしたところ出鼻を挫かれるが、なんにせよ新パーティー初めての探索が開始された。

 

 設定した目標は奥地にある泉から取れる〈フィート・アーカー〉。

 

 液体であり、アルコール度数17パーセントの天然の酒でもある。

 

 その味はとても美味であると称され、スッキリとした味わいが評価され地上世界では広く流通し食前酒として重宝されている。

 

 ただしこの〈フィート・アーカー〉、ダンジョン内のモンスターにも人気である。

 

 特に大型の猿型モンスター〈鮮紅ザル〉は誰にも寄越さんと泉周辺を縄張りにしておりエンカウトしてしまうと非常に厄介。

 

 その推定レベルは10。 パワフルな物理攻撃、そして泉の酒を利用した攻撃が強力だ。

 

 しかし……


 

 「鈴華! 〈スモッグ・ボール〉絶やすな! 玄井門は配置についたか!?」 

 

 「大丈夫! いつでもいける!」

 

 「よし!」

 

 たなびく煙に視界が奪われる。

 

 地の利を奪ったその状況で、天晴と火夜の二人はそれぞれ前と後ろからモンスターに接近した。

 

 事前に打ち合わせをしたのだろう、そのタイミングには少しズレがある。が、それは彼らが狙ってのことだ。

 

 突然目の前に現れ身構えた〈鮮紅ザル〉。だが、そのせいで直後火夜が仕掛けたうなじへの一撃をノーガードで受けてしまう。

 

 「キィエアアアアア!?!!」

 

 それが致命傷となって〈鮮紅ザル〉は力尽きた。

 

 〈鮮紅ザル〉その名の由来は死後の肉体変化にあり、全身の白毛に血液が回り赤く染まることからそう名付けられている。

 

 赤くなったモンスターを見守ること数秒、じきに死体は消え素材がドロップされる。天晴達は見事な連携で無事に勝利をおさめた。

 

 天晴はすぐさま周辺を確認、新手の気配はない。 そこで彼は途端に体をうずかせて火夜に迫るのだった。

 

 「うぇーい! ナイス玄井門!」

 

 ハイタッチの素振りを見せ、控えめに構える火夜の手のひらを強く叩く。

 

 少し戸惑う火夜。 そんな彼女に天晴は訊ねた。

 

 「どうだった? 初の協力プレーは?」

 

 「どうって言われても……」

 

 火夜は一瞬返す言葉に困った。

 

 ふと相手を見る。

 

 とても笑顔だ。 普段の彼も相当に明るいが、ダンジョンの中では特に笑っていることが多い。

 

 火夜はその笑顔の理由が今までわからなかった。 それはずっと一人で戦ってきたからだ。

 

 少し鼓動が早くなる。心が逸るのがわかる。

 

 たかが一撃、たかがレベル10程度のモンスター。

 

 しかし、そのとき彼女は気がついたのだ。 さきほど降り下ろしたその一撃は、今までのものとはまるで別物だということが。

 

 仲間とともに協力し、仲間が作ってくれたチャンスに応えたこの一撃は、何よりも価値のあるものなのだということが。

 

 そして火夜は天晴の質問にとびきりの笑顔でこう答えたのだ。

 

 「……楽しかった! 一人で戦うよりもずっと!」

 

 「へっ!そうだろう!」

 

 「ちょっとー! 二人だけで盛り上がらないでくださいよー! スズ、アイテム投げていただけなんですけどー!」

 

 「ははっ! わりぃわりぃ!」

 

 その後、三人は〈フィート・アーカー〉を瓶に詰め無事に帰還した。

 

 納品クエストのためキャンプにて納品。

 

 その後、新メンバー加入を祝うために学生寮の共同食堂にて歓迎会を行うこととなった。 

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