第21話
めでたく新メンバーを引き入れた翌日の月曜日。
月曜日というのが非常に憂鬱なものというのは2075年でも変わらず。始業前のこの時間、天晴は自分の席にて一枚の書類を前にし唸り悩んでいる様子だった。
「う~ん…… う~んんんん!」
「おはよう椿井天晴。 いったいどうしたの?」
「おっ玄井門、おはよう。 ちょうどいいところに来たな。 今パーティー結成の提出書類を書いていてな」
「ああ、確か5月からは研修期間が終わって正式なパーティー登録をしないといけないんだっけ」
「そうなんだよ。 提出期限は来週、でもここの欄だけどうしても埋まらんくてな」
天晴は話しながらトントンと一つの空白欄を指で叩いた。
「パーティーネーム……?」
「そう、昨日からずっと考えてんだけどさぁ、全然決まらなくてさぁ。 玄井門はなんかいいアイデアないか?」
「ん…… なら、強者軍団なんてどう?」
「おー…… 強者軍団…… なるほどなるほど、なるほどなぁ…… まぁ候補に入れておくか」
「我ながらいいセンス。 是非とも参考にしてほしい」
「……おう!」
満足そうに鼻息を強くする火夜。 天晴は明るい返事をするも、内心、こいつのセンスやべえと戦慄していた。
と、そこで鈴華が呆れたような様子で現れた。
「なーにまた朝から目立っているんですかお二人さん」
「おう鈴華。 つか目立ってねえよ、俺ら普通に喋ってただけだろ」
「おにーさま達が普通に喋っているというだけでクラスの皆からすると衝撃ですよ。
しかも、パーティーを組むことになっていますし」
鈴華がちらっと周りを見る。
天晴も同じように見回すと、確かに彼らはクラスメイトの注目を集めていた。
「……あー、そっか、そういや俺ら先週末まで仲悪かったんだっけ」
「そうですよ、それが休日明けにはこうなっているなんて誰も予想できませんよ」
「周りなんてどうでもいい。 気にすることはない」
「こら玄井門。 そういう発言はもうしないって約束したはずだろ」
「ごめん、でも……」
火夜は教室内の一つの集団に目を向けた。 いや、目を向けたというよりかは軽く睨んだと言った方が正しいか。
目があった者達はそそくさと気まずそうに目を逸らす。
今さっきまでバレないように天晴と火夜の陰口を言っていたものだから、聞こえていたのかと焦ったのだ。
「……おまえの言いたいことはわかるよ。 今のは決して見下したりしたわけじゃないってこともな。
でもあいつらだって大切な仲間だ。 今は理解されなくても、いつか協力することだってあるかもしれない。 俺とおまえみたいにな」
「……そう、なのかな。 私はあなたが特殊だっただけだと思うけど」
「そんなことないさ。 何事もラブ&ピースの精神だぜ」
天晴が自信あり気にそう返すと、あまりその話題に興味が無かったのか鈴華は話を戻させようとした。
「……で、二人は何を話していたのですか?」
「おぉ、そうだった。 いやなに、パーティーネームを考えていたところなんだよ」
「ああ、なんだ。 そんなのもう決まっているようなものじゃないですか」
「なんだ? 何かあんのか?」
「鈴華さまと愉快な仲間達。 これしかありません」
あざとい顔で答える鈴華。
「却下!」
「ええ!? なぜ!?」
「おまえの主張が強すぎる! てか二人とも真面目に考えてくれよ! 純粋にかっこいいやつがいいんだよ俺は!」
「そう言われても…… そういうのは女の子の専門外と言いますか……
おにーさまこそ、偉そうに言ったからには候補くらい考えているんでしょうね!」
「おう! よくぞ聞いてくれた! 個人的にキテる奴が2つあんだよ! ジャジャン!」
鞄からノートを取り出し、とあるページを開いて意気揚々と二人に見せる。
そこには、迷宮探索好きなんジャーと、†黒ノ使途†の2つが書かれていた。
それを見て二人は間髪いれずに叫んだ。
「おまえも大概だろ!」
直後、ふみちゃん先生が教室に入ってくる。 目が合うなり天晴達三人は元気のいい挨拶をした。
おはよう、と返事をしながらもその光景に違和感を持つふみちゃん先生。
「あれ、あなた達そんなに仲のいい関係だったかしら?」
「いやぁ~、 それがカクカクシカジカで……」
「あら! それはよかったわ! 正面からぶつかって結束が深まったって感じ? いいわねぇ~、 青春だわ~」
「あの、その節はご迷惑をおかけしました……」
「なに言ってるのよ玄井門さん。 あなたが椿井君を許してくれて先生とても嬉しいわ。
というか、今の話の感じだと、もしかしてパーティー結成していたりする?」
「うっす、さっそく今日から三人で探索します」
「おっけーおっけー、把握したわ。 ……あれ? でも玄井門さん武器は大丈夫? 確かあのとき壊しちゃったのよね?」
「あっ、そういやそうだったな」
先日の決闘でのことを思い出す天晴。
ふみちゃん先生の言うとおり、火夜は捨て身の一撃のために自身の刀を失ってしまっていた。
「……実はそのことで先生にご相談があって。 せっかくなので支給品のものではなく新しい刀が欲しいなと……」
「んーなるほど。 確かに、あなたのレベルじゃあ支給武器じゃ物足りないかもね。
それならあそこに行けばいいわ。 天晴君、案内頼めるかしら?」
「あそこ? ……ああ! あそこっすか!」
その後、一日の授業をいつものように受け放課後を迎える。
天晴達はさっそくふみちゃん先生の指示した場所へと向かった。
そこはお馴染みの地下前線キャンプ。 目的地はそのはずれにあるテントだった。
可愛らしい字でメイタンの館と書かれているその看板を見て火夜が聞く。
「ここは?」
「ショップだよ、武器や防具その他もろもろを買うことが出来る。 他の店なら玄井門も行ったことあるだろ?
中でもここの店は店主がくせ者で有名だが腕は確かだ。 きっと玄井門も満足する刀を提供してくれるよ」
そう言って天晴は暖簾をめくった。
「いらっしゃーい! ……って、あっらー!? もしかしてアッパレちゃんじゃなぁい?」
「おうメイタン! 久しぶりだな!」
「久しぶりじゃないわよー! なんか色々大変なことになったって聞いてずっと心配してたんだからぁん!」
「わりぃわりぃ! でもこの通り俺はぴんぴんしてんぜ!」
「んふふ、相変わらずね! それで今日は何の用?」
「おう! 仲間の武器を見繕って欲しくてな。 こいつのなんだけど……」
天晴は紹介するために火夜を前に出させた。
当の本人、火夜とその横にいた鈴華は少しだけ緊張していた。
天晴が普通に話をしていた店主。 それがピンキーなメイド服を見に纏ったゴリゴリのスキンヘッドのおっさんだったからだ。
「ほら玄井門! 自己紹介!」
「あっ、えと…… 玄井門火夜です……」
「あんらまあ! これまたとびきりの美少女ねぇ! はじめまして、ここの店主をしているメイタンです」
きゅるるるん、と媚びたポーズを取るメイタン。
いったい前世でどれほどの業を積んだのかと疑いたくなるほど醜悪な光景で、火夜は目を逸らしたくなっていた。
「それでー? クロカヨちゃんは何が欲しいのかしらぁん?」
「あっ、その、日本刀を……」
「日本刀? そんなに細い体で刀を振るの!? メイタンびっくり!」
「メイタン、こう見えて玄井門は【サムライ】なんだぜ」
「【サムライ】! 二次クラスじゃない! すごいわぁすごいわぁ、天は二物を与えるのねぇ~ オッケー! このワタシにまかせなさぁい!」
ドンッッッッ!!!
と、力強く自らの胸を叩くメイタン。
そのとき火夜はとてつもない強者のオーラを感じ取ったという。
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