第244話
◆ ◆ ◆ ◆
「これは重要な作戦だ。例え俺と戦うことになっても本気を出すな」
誰もいない選手控え室でアベルはオーウェンに告げていた。
「当たり前だろ?なんせこれから俺達はヴァレリーとフルートベールの最高戦力達と戦うんだからな?」
「わかっているのならば良い」
「しかし見たか?最高戦力と言わしめている奴等を……全然大したことなかったな」
オーウェンはギザギザの歯を見せ付けるようにして侮辱する。
「剣聖は強い」
「ああ?さっきすれ違ったけど大したことないぜ?」
「あの相手はルカ様に任せる」
「それより、アベルはどっちいく?」
「その名で呼ぶな」
「はいはい、ルベア様。お前はどっちと戦うんだ?」
オーウェンは皮肉を込めながらアベルの偽名を言った。
「それは作戦が始まってから各々の判断でいいだろう」
「いや、今決めとこうぜ?俺はフルートベールの奴等と戦うから宜しくな?」
◆ ◆ ◆ ◆
激しい剣の打ち合いを観客達は固唾を飲んで見守る。いくら訓練用の剣だとしても、当たりどころが悪ければ死に至るはずだ。
──それもあんな速度で……
試合を観戦している格闘好きのオッサン、ロンシャンシャンは思った。
ダーマ王国の2人の選手はお互い剣の届く間合いにとどまり、剣を交錯させていく。あまりの激しさと速度に2人の剣が鞭のようにぐにゃぐにゃと曲がっているように見えた。
──あれは……残像による錯覚……
更に剣同士がぶつかり合う音もずれて聞こえてくる。
──これは嵐の夜、雷が地表に降り注ぐときに似た現象だ……光の後に轟音が聞こえる……っ!今しゃがんだか!?いやもう上段を打ち合って……いや下段に……
白髪をくたびれさせたような髪色と同じ色の顎髭をいじりながら、ロンシャンシャンは見ていた。すると、隣にいる体格の良いスキンヘッドの男がフルフルと震えているのに気がつく。
──無理もない……このような戦いを見て、武者震いせんのは男ではない!
ロンシャンシャンは隣の男から目を離し、再びリング上を食い入るように見た。
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オーウェンとアベルの立っている足元は既にボロボロだ。しかし、一瞬でもその足場を変え、移動しようものなら、あっという間に身体の一部が破壊されてしまうだろう。
しかし、この剣のぶつかり合いは後もう少しで終わりを告げる。それに気付いたのはシルヴィアとイズナ、レオナルド、バルバドスだった。
「イズナ様……」
「あぁ、そろそろだな」
ヴァレリー法国議長のブライアンはそろそろ剣による戦いが終るとシルヴィアが呟いた為、何故そう思うのかをうかがった。
「音だ」
「音?」
2人の会話を聞いていた魔法兵団副団長のエミリアは耳をそばだてる。
「本当だ!どんどん鈍い音になってる」
「それは2人が最も感じていることだ……それよりもあの2人の動きをよく見ておくんだ。これから戦うことになるかもしれぬからな……」
シルヴィアの声の残音が、エミリアの身体に纏わり付くような感触を残した。
バギィィィィィ
鈍くて、それでも一瞬甲高い音が鳴り響いた。2人の持つ剣が同時に壊れたのだ。
オーウェンはバラバラとリング上に落ちていく刀身のかけらを蹴り飛ばした。
役目を終えた剣は無数の礫となり、アベルに襲いかかる。
オーウェンの咄嗟の機転に観客、とりわけ戦闘経験のある者が叫んだ。
「「「うまい!!!」」」
アベルは手をかざしファイアーボールを唱え、今度は礫を剣になる前の状態、ドロドロとした燃えたぎる液体に変化させたのだが、
「遅い!!」
オーウェンはその隙に回り込み、アベルの背部に回し蹴りを入れた。
リング中央から場外へと、飛ばされそうになるアベルは、地面に手を付き、前転しながらその勢いを殺す。そしてオーウェンがいると思われる方向を見るようにして受け身をとった。
しかし、そんなアベルに追い討ちをかけるようにして槍を模した炎が3本、迫ってきていた。
「フレイムランス!」
リングを焦がしながら迫ってくる炎の槍。槍の形を保とうと火炎が禍々しくうねっていた。その魔法は見る者からすれば灼熱と鋭さを持つ凶悪な魔法だと感じるだろう。それが自分と同じ人間に突き刺さるのを想像した観客達は悲鳴をあげた。
「「「きゃーーーーー!!」」」
多くの女性が目を反らすことになったが、遅れてやってきた男達の歓声により、再びリング上に視線を送り込むこととなる。そして首を傾げた。
先程の打ち合いにより何も持っていなかった筈のアベルが剣を持っていたからだ。おそらく、その剣であの恐ろしい炎の槍を斬ったのだろう。
ロンシャンシャンの隣にいるカップルの女が彼氏に訊いた。彼女も目を背けた女性の1人だ。
「ねぇ!何が起きたの!?」
「いや……わかんない……ルベアの手元が光りだしたと思ったら、炎が消え去って……ルベアの手に剣が……」
戦士長イズナはレオナルドに訊いた。
「あの剣は……アイテムボックスか……?」
イズナはおそらく違うとわかってはいても自分の導いた答えを信じたくない思いでレオナルドに尋ねる。レオナルドはゆっくりと視線をイズナに向けて答えた。
「我々一族の剣と同じです……」
それを聞いていたギラバは驚く。
「な、なんですって!?」
驚くギラバにイズナが剣以外でもう一つ気になることを尋ねた。
「ギラバ殿、お訊きしたいのですが、先程の槍を模した炎の魔法は……」
言い淀むギラバに代わり学校長アマデウスがその任を引き受ける。
「フレイムランス……第三階級魔法じゃ」
この答えに今度はイズナとレオナルドの2人が声をあげた。
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