第245話

「すげぇ……」


 スコートは拳を握り締め、2人とのレベル差を感じずにはいられなかった。その言葉に悔しさが混ざっていることにアレンは気が付く。


「悔しがる必要はないよ」


「何故だ!?」

「何故?」


 アレンの一言に反応するスコートとデイビッド。


「あの2人の強さは王国戦士長のイズナ様と変わらないくらいの強さだと思うから。君達はイズナ様に勝つつもりかい?」


「重ねて問おう。何故イズナ様と同じくらいだとわかる?」


「僕の特技と言えば見切りの早さだからね……最近は勝つ可能性を模索するようになったけどそういう次元じゃないんだよあの2人の戦いは……それよりも今後ダーマ王国の行動に注視すべきだよ」


 男子達の会話が耳に入ったのかアレックスが口をはさんだ。


「じゃあハルとどっちが強い?」


 アレンは悩みながら答える。


「同じくらいじゃないかな?」


 デイビッドは驚いた。


「ハル殿もイズナ様と同程度の実力の持ち主だと?」


「いやむしろハルはそれ以上かも、レッサーデーモンを倒せるなんてよく考えたら世界の均衡が崩れちゃう強さじゃない?」


─────────────


 はぁ……と再び深いため息をつくシャーロット。


 ──第三階級魔法にあの剣までだすなんて……本当にあの男達ときたら!!


 シャーロットは俯くと、頭頂部が風船のように膨らんでいる帽子が彼女の目線をおおう。


 ──それに……


 シャーロットはアベルの偽名を必死に叫んでいる同い年くらいの少女を見た。


「ルベア~~!!がんばれぇ~~!!」


 少女は声が拡散するように口元に手を当て、懸命にアベルを応援している。


 ──あれってアベルがここ数日通っていたダーマ王国の魔法学校の生徒でしょ?良いの?こんなところに連れてきて?


 引率だと思われる教師はその少女の隣についていた。その表情はこれから起こる作戦を今か今かと待ち構えているようだった。


 観客が再び沸きだす。


 シャーロットはリング上に注意を向けた。


 ──あぁ~アベルも本気だ……


───────────────

 

 アベルは白銀のように輝く剣を携え、前傾姿勢でオーウェンに向かって走った。


「ようやく本気になったか!」


 オーウェンは右手をかざして唱える。


「ファイアーレイン!」


 無数の小さな魔方陣がオーウェンの背後に出現する。それぞれの魔方陣の中心から小さな炎が勢いよく射出された。その炎は熱風を伴い、火の粉を散らしながらアベルに襲いかかる。


 アベルは減速せずにそのままの速度で走る。額にむわっとした熱を感じながら、向かってくる無数の炎を、手にしている剣で次々とかき消しながら前進する。


 剣に重みを感じさせない剣さばきに多くの武人達が驚いた。


 炎は消えていく度に小さな輝きを放ち、アベルの緋色の瞳が光って見えた。数十もの炎をかき消し、持っている剣がオーウェンに届くギリギリの間合いで、オーウェンは再び魔法を放つ。


「フレイムランス」


 先程唱えた、禍々しい炎の槍がアベルの眼前に現れた。


 が、


 アベルは斜め前方へ飛び、炎の音と熱を右耳で感じながら掻い潜る。左手を地面につき、踏ん張りをきかせ、右手に持っている剣でオーウェンの腹部を斬り裂いた。そして直ぐに両足を地面につき体勢を整える。


 何故なら斬った手応えがなかったからだ。オーウェンの身体はゆらゆらと揺らめき、斬り裂いた所から身体が2つに別れる。


 ──ヒートヘイズ……


「もらったぁ!!」


 上空からオーウェンは炎の槍を身体を十分にしならせ、振りかぶって投擲する。


 槍はアベルを貫き、リング上に突き刺さった。射ぬかれたリングはそこから葉脈のように赤黒くひび割れ、爆発した。綺麗な円形から刺々しく隆起した瓦礫と化した。観客達も爆発から生じた熱を感じられるほどだった。


 オーウェンは着地できそうな場所にスタッと舞い降りて言った。


「みたか!」


 しかし、今度はアベルの身体が揺らめき始める。その様子を見たオーウェンは呟いた。


「まさか……」


「油断したな」


 背後からアベルの声が聞こえたかと思うと、剣先が首の後ろから現れた。


 オーウェンは肩を落とす。


『しょ、勝者!!ルベア・ルーグナー!!』


 実況の声に観客達は我に返った。そうだこれは魔法大会であったと。


 パチパチとまばらに鳴る拍手が徐々に伝播し、2人の健闘を讃えた。


 試合を見ていたダーマ王国騎士団長のバルバドスは呟いた。


「な、なんたる戦い……」


「ほ、本当に彼等は孤児なのですか?どこか名高い魔法使い達の子では……」


 アナスタシアが目の前で繰り広げられた戦いを未だに信じられないような面持ちでトリスタンに訊いた。


 しかし、トリスタンはその質問には答えずただ震えていた。


「だ、大丈夫ですか?宰相閣下?」


「あ、ああ……」


 そんなやり取りを見ていなかったのかバルバドスが口を開く。


「全く!これからあのような戦力を手にしてしまっては忙しくなりますな!!」


 バルバドスが誇らしげに、腰に手を当て胸を張ると、


 ドーーーーーン


 重くて鈍い音と振動がする。


 初めは観客達の声だと思われたが、遠方から煙が立つのが見えた。


 それを見たトリスタンは呟く。


「は、始まった……」

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