第203話

 シーモアに放たれた光は躱された。老人マクムートに放たれた光は潜んでいた2人の男の子カストルとポルックスによってかき消される。チェルザーレに放たれた光はレイ達を襲った男の子ジャックによって阻まれた。


「今の魔法は……」


 レオナルドは誰が唱えたのか悟る。


 広場が混乱に陥る。集まった者達は自分達も攻撃対象になるのではないかと騒ぎ立てた。


 悲鳴が沸き起こる中、老人マクムートは3人の男の子に命令を下す。


「あの柱の上じゃ」


 3人はそれぞれ柱の上にいるレイとレナードに向かった。群衆達の頭や噴水の彫刻を足場にして、跳躍しながらやってくる。しかし、3人は見えない壁にぶつかったかのように空中で弾き飛ばされた。


 その様子を見ていたチェルザーレ、シーモア、マクムート、マキャベリーは訝しむが、またも柱の上からシューティングアローが放たれた。今度はさっきの魔法よりも威力の高いシューティングアローが数発混ざっている。


 シーモアは威力の高いシューティングアローを処刑する為に持っていた大きな大剣、通称首斬り包丁で斬る。


「むんっ!!」


 魔法と大剣が激しい音とともに衝突する。シーモアの踏ん張っている両足が多少後退していくのをレオナルドは確認した。


 ──なんて威力だ……これはレナード達の魔法ではない


 シーモアは放たれたシューティングアローを打ち消した。直ぐに威力の低いシューティングアローが追い討ちをかけるが難なく躱す。


 老人マクムートは携えている蒼い石の埋め込まれた杖に魔力を込め、水の壁を造ってシューティングアローを防いだ。


 ──なんと……これ程の魔力を


 水の壁ができた瞬間マクムートはしわがれた声で叫ぶ。


「ゾーイー!猊下を護れ!!」


 チェルザーレは向かってくるシューティングアローを眉一つ動かさず冷めた目で見続けている。


 キィィィィィン


「わかってるってじいさん!!」


 シーモアと背格好は似ているが、口調やにやけた表情は彼とは似ても似つかない。ゾーイーという青年は放たれたシューティングアローを持っている巨大な棘のような槍で突き。打ち消した。


「くぅぅぅ!!しびれるぜ!!」


 ゾーイーは槍を握っている手をブラブラさせながら言った。


 安心したのは束の間、シューティングアローと伴に明らかに脅威と言える気配が壇上に舞い降りた。


「!」

「ほぉ……」

「どこじゃ!?」

「やべぇ気配だな」


 マキャベリーは顎に手をおいて黙考している。


「……」


 ハルは自分の放ったシューティングアローをかき消した新たな敵のステータスを確認してから壇上に降り立つ。


 ──ゾーイー……レベル37


 ハルは敵にこれ以上の戦力がいないと悟り、壇上で闇属性第四階級魔法ダークネスを唱えた。辺りを黒い靄が埋め尽くす。この魔法は第三階級闇属性魔法ブラックアウトの上位互換、ブラックアウトは単体を対象にするが、ダークネスは複数を対象にする範囲魔法だ。


 エリンとルナは魔法と黒い靄にただ混乱している。広場に集まった者達は自分達の命と壇上が闇に包まれた為に更なる混乱が生じていた。


 レオナルドは壇上を嫌な圧力が覆い尽くすのを感じた。今度は黒い靄が立ち込める。すると、自分の行動を縛っていた枷が外された。


 ──誰が!?いや、それよりも……


 レオナルドは無駄な思考を中断し、エリンとルナはたった今、自分の枷を外した者に任せ、自分はレナードとレイのいる柱まで走ろうとした。黒い靄のせいで周囲が見えないシーモアは気配でレオナルドが逃げようとしていることに気付き、持っている首斬り包丁で彼を阻もうとしたが、


 ガチィィィィン


 弾かれた。

 

 その際、シーモアは衝撃で身体を大きくのけ反らされた。首斬り包丁と同じくらい大きな大剣を握っている少年が黒い靄の中で一瞬見えた。第四階級闇属性魔法ダークネスの効果により姿を消す魔法バニッシュの効果がきれたのだ。


 金属と金属が激しくぶつかり合う音を聞きながらレオナルドは脱出した。振り向き様、壇上の様子を見たが、まだ黒い靄に覆われており、中で何が起こっているのかわからない。レオナルドは自分の力では助けにならないと思い、息子達となるべく遠くへ逃げようと決心する。


 ──どなたかわかりませんが、ルナ殿とエリンのこと……頼みます。


 ハルは身体をのけ反らせたシーモアと目があった。ゴブリンジェネラルの大剣を振り上げる。


 ──殺った!!


 そう思った直後、ハルは後ろから気配を感じた。先ほどの金属音のせいで、新たな刺客ゾーイーが向かって来ていたのだ。ハルは振り上げた大剣をアイテムボックスにしまい、振り向き様にデュラハンの長剣を2本取り出してゾーイーの腹部とシーモアの胸部に狙いを定め回転しながら斬撃を繰り出した。


「ぐほぉ!!」

「くっ!」


 ゾーイーは腹部から大量の血を吹き出し膝をついて倒れる。シーモアは筋肉により張り出した胸が裂かれ血を流した。


 ──浅かったか!


 ハルはシーモアに向き直り、柄物をゴブリンジェネラルの大剣に持ち返え、斬りかかろうとした。


 が、大剣が動かない。


 嫌な気配がする。


 ハルは冷や汗をかいた。後ろを振り向くと、ゴブリンジェネラルの大剣を片手で摘まんでいるチェルザーレがオレンジ色の長い髪をもう片方の手でかきあげながら、ハルを冷たい目で見ている。


 第四階級闇属性魔法ダークネスは目眩ましになると同時に、バフやかけられた魔法の効果をかき消す効果もあった。その為、チェルザーレのステータス数値を偽装していた魔法が解かれ、本来の彼のレベルとステータスが明らかとなった。


【名 前】 チェルザーレ・ゴルジア

【年 齢】 125

【レベル】 76

【HP】  626/626

【MP】  599/599

【SP】  610/610

【筋 力】 680

【耐久力】 577

【魔 力】 661

【抵抗力】 620

【敏 捷】 680

【洞 察】 651

【知 力】 1800

【幸 運】 80

【経験値】 24910/780000

 

・魔法習得

  第一階級火属性魔法

   ファイアーボール

   ファイアーウォール

  第二階級火属性魔法

   ファイアーエンブレム

   フレイム

  第四階級火属性魔法

   ファイアーストーム

  第四階級火属性魔法

   ヴァーンストライク


  第一階級水属性魔法

   ウォーター

  第一階級水属性魔法

   スプラッシュ

  第三階級水属性魔法

   アクアレーザー

  第四階級水属性魔法

   ショックウェーブ

  第五階級水属性魔法

   スプレッドスウォーム

  第六階級水属性魔法

   タイダルウェイブ


  第一階級風属性魔法

   ウィンドカッター

  第二階級風属性魔法

   ウィンドスラッシュ

  第三階級風属性魔法

   トルネイド

  第四階級風属性魔法

   エアブラスト


  第一階級土属性魔法

   ストーバーレッド

   サンドウォール

  第二階級土属性魔法

   ストーンブラスト

  第三階級土属性魔法

   プロジェクション

  第四階級土属性魔法

   ロックレイン

  第五階級土属性魔法

   アースシェイク

 

  第一階級闇属性魔法

   ブラインド

  第二階級闇属性魔法

   アイテムボックス

  第三階級闇属性魔法

   ブラックアウト

  

  第一階級光属性魔法

   シューティングアロー

   ミラージュ

  第二階級光属性魔法

   プリズム

   イリュージョン

  第三階級光属性魔法

   サンシャイン

  第四階級光属性魔法

   テクスチャー

   シャイニング



 ハルは胸が締め付けられる。吐き気をもよおしたが、咄嗟に聖属性魔法を唱えた。


ピコン

新しい属性魔法を発現させました。


ゴーン ゴーン


 ハルは1日目に戻った。路地裏の壁に手をついて、胸を抑える。動悸がおさまらない。ハルの脳裏に白髪ツインテールの少女が浮かぶ。


 両手、両足に痛みを感じた。


「はぁ……はぁはぁ」


 内側からこみ上げる胃の内容物が食道を逆流してのぼってくる。ハルは咳き込みながらそれを吐いた。


「オイ!きったねぇなお前!!ここは俺達の場所なんだよ!?そこを汚したからには代金を支払……」


 ハルは物凄い殺気を込めて不良達を睨み付けた。


「「う、うわぁぁぁぁぁ!!!」」


 不良達は逃げ出した。


 ハルは水属性魔法を使って口元を拭う。


 自分が奴隷になった時のことを思い出す。あの時のように戻りたくないが、足が震える。


 生きることを肯定できるようにはなった。しかし、恐怖に立ち向かうことができない。


 そしてこれからのことを考える。ロドリーゴ枢機卿が暗殺されてからおかしくなったのだと結論づけた。しかし、何をしても結局は白髪ツインテールの少女や今しがた恐怖を感じさせたチェルザーレと戦わなくてはならない。


 ハルは恐怖と対面するのを先送りしているだけにすぎない。それは理解していた。


 ──でも……まだ、奴等と戦う勇気が僕には……

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