第197話

 マキャベリーとシーモア、その後にハルが牢屋へと入った。ゴツゴツとした床は、この地下室を造った時に岩を削り取ったままのようだった。鎖に繋がれてるレオナルドはその床に腰をおろし、衰弱しているように見える。


 レオナルドは訪問者を見やると、驚きと落胆の狭間にいるような表情を浮かべた。


「貴様がやはり関わっていたか……」


「お久し振りです。レオナルドさん」


 ハルはこのやり取りを見て、2人は知り合いなのかと思った。


「ということはもうこの聖王国は帝国に落ちたのだな……」


 ──帝国!?このマキャベリーって人は帝国の者か!!


「いえ、落ちてはいません。我々は共通の敵と立ち向かうために共闘しているだけです」


 レオナルドはため息をついて、マキャベリーに何故ここへ来たか訊いた。


「私を嘲笑いに来たのか?」


「いえ……まずは貴方を安心させに来ました。それと質問があります」


「ならばさっさとすませろ」


「まず貴方は表向きに司祭の殺害、聖王国に脅威をもたらした者として処刑されますが、貴方の部下のお陰で、ゲーガン司祭の殺人、強姦未遂の正当防衛という真実がフルートベール王国に知らされました」


 レオナルドは無言で険しい表情をしていたが、どことなく安堵を覗かせていた。


「しかし…貴方の部下は王都よりも先に貴方の家に向かい、その事実を息子さん達に話しました……貴方の息子達は今この聖都にいます」


 レオナルドは驚嘆する。そして不安が募る。


「息子達には手を出すな!!」


 繋がれている鎖が届く目一杯の所までマキャベリーに近付き、レオナルドは言った。


「落ち着いてください……レナード君は交友関係に広いが、私情をあまり他人には漏らすタイプではありませんね?レイ君は交友関係を築くのがあまり上手ではない……」


 息子達の分析を聞いてレオナルドは更に訝しむ。


「何が言いたい?」


「ここで質問です。息子さん達と一緒にもう1人この聖王国にやって来ました。誰か心当たりのある人物はいますか?」


「知らん。例え知っていたとしてもこの場で言うわけがない」


 レオナルドは言った。マキャベリーはレオナルドの目を真っ直ぐ見ている。


 ハルはこのやり取りを聞いて焦る。このマキャベリーは自分達の動向を知っていて、更にはレイやレナードのことまで知っていた。そしてよく分析をしている。固唾をのんで見守るハルはマキャベリーの次の質問で心臓がとまりかけた。


「ハル・ミナミノ……この少年をご存じですか?」


「ミナミノ……知らない!頼む!息子達には手を出さないでくれ!!」


「わかりました。ただ手を出さないというのは承諾しかねます。もうチェルザーレ枢機卿の手の者が向かっておりますから……」


「……そんな」


 ハルはそれを聞いて直ぐに地下牢から出ていった。ハルが走り去ったことにより、地下牢ではありえない程の風が舞った。入ってきた扉がギシギシと音をたてながら揺れている。


 レオナルドとシーモアは不思議な顔をしたが、マキャベリーは地下牢の扉をただ黙って見ていた。そしてレオナルドに向き直り言った。


「安心してください。ほんの脅かすだけです……殺しはしないと思いますから」



─────────────


 レイとレナードは自分よりも年下で小柄な男の子と対面している。男の子は髪が腰まで伸びており、その長い髪の隙間から、にやけた顔を覗かせた。


「いやな感じだ」


 レナードがそういうと男の子は2本のナイフを各々に向けて投げた。


 2人はナイフを躱す。レナードは男の子に突っ込み、膝蹴りをくらわせた。男の子は其れを躱す。その直後にレイがシューティングアローを放つが、ナイフで防御された。


「いくつナイフ持ってんだよ!」


 男の子ジャックは激しい動きをすることで長い髪が揺れる。ジャックは今失意の底にいる。尊敬し、兄のように慕ってきた暗殺者仲間メルが死んで全てにやる気が起きない。しかしこれは長老マクムートの命令だから従わなければならない。なんて退屈な任務なんだとジャックは嘆いていた。


 レナードの飛び膝蹴りを躱し、レイの魔法を防御したジャックは欠伸がでそうになる。レナードは持ち上げた膝を床に着地させ、それを軸足に上段後ろ回し蹴りを放つ。レイは魔法を放った瞬間、身を屈めながらジャックに接近し、下段回し蹴りをくらわす。


 ジャックは地面を見るように首を前に倒し、ピョンと障害物を避けるようにジャンプして2人の攻撃を躱した。


 その攻撃を躱されると読んでいた2人は攻撃を繰り出した足を地面にしっかりつけ、今度はその足を軸足にして回転し、光の剣を握りしめ、まだ空中にいるジャックを切り裂く。


 ──剣技『回転斬り』


 迫り来る光の剣をジャックは2つのナイフをそれぞれ手に持ち受け止める。衝撃でジャックの服が破れ、右肩に杖のような刺青が見えた。


 光の剣を通常の武器で受け止めるのは不可能だが、武器に魔力を込めることによってそれが可能になる。


「こっちは両手で打ち込んでるってのに!」


 レナードは相手の強さに驚き、一度距離をとった。レイも同様に後退する。


 ジャックはナイフを2本ともレイに向けて投げた。その隙にレナードは手首をぐるりと回し光の剣を回転させ勢いをつけて、ジャックに振り下ろしたが、躱され、光の剣は床に刺さった。


「ぐっ……」


 レイの呻き声が聞こえ、レナードは慌てて振り向いた。肩を押さえて血を流している。どうやら先程投げられたナイフが当たったようだ。しかし妙だ。レイならあの程度の攻撃ならばなんなく躱せる筈だ。床から光の剣を引き抜き、再び間合いを取り合う。そしてまた妙なことに気が付く、先程投げた筈の2つのナイフをジャックが持っていたからだ。


 ──……一体どんな仕組みが?


 今度はレナードに向かって2本のナイフを投げるジャック。レナードは飛んでくるナイフの軌道を冷静に見極め、躱そうとしたが、ナイフは消えた。


 ──なにっ!!


 そしてあらぬ方向からナイフが出現し、レナードは1本をなんとか躱したが脇腹目掛けて飛んできたもう1本のナイフは躱しきれないと悟ったが、レイがシューティングアローをそのナイフにぶつけて軌道を反らした。


「ありがとう!レイ」


 レナードはレイを見ると、レイはジャックにより腹部を刺されていた。

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