第196話
~ハルが異世界召喚されてから11日目~
レイとレナードは聖都にある宿屋にいる。窓から夕焼けの光が差し込む、刻一刻と迫る父親の処刑に焦りを感じていた。
「ハル君、遅いな……」
ハルは考えがあると行って外へ出たきり帰ってこない。レナードが横顔を夕日に照らされながら呟く。
「まだ行ったばかりだ」
2人の会話はぎこちない。普段訓練している時以外、あまり話さないからだ。
「…ハル君は何故強さを隠すんだ?」
「さぁ、ただ何かに恐れているのは確かだ」
「そうだな……あの慎重さは自分より強い者に怯えているように見える。だが、自分より強い者などいて当然だ。彼に勝てる部分はそこくらいかな」
「……死を恐れず、前へ進む力。いつも父上に教わっていたことだ」
「……」
「……」
2人は沈黙する。嫌な静けさ。レイがその沈黙を破った。
「見られているな。いつからだ?」
「おそらく、この国に入ってからだろう」
2人は顔を見合せた。
「微かな殺気が漏れたのは……ハルがいないから……」
「そう、俺達だけだと思い油断したんだ」
「ハルはコイツに気付いてた?」
「そうだな……今度は俺達が彼の試験を受ける番のようだ」
夕日が沈んだのを合図に、2人は臨戦態勢に入った。微かだった殺気が膨れ上がる。
「来るぞ!」
「ああ」
レイとレナードは部屋の入り口の扉に注意を向けた。
ドォォン
扉が木っ端微塵に吹き飛ばされ、1人の男の子が姿を現した。
「大胆だな!てっきり後ろの窓から侵入するかと思ったぜ?」
────────────
──めちゃくちゃ広いな……
夕焼けを背に、ハルはシスティーナ宮殿に潜入していた。姿を消せる魔法、第三階級光属性魔法バニッシュを唱え、堂々と宮殿内を闊歩している。
宮殿の天井や壁には神ディータやこの世界の聖書に出てくる場面を描いた宗教画が飾られている。中にはハルが日本にいた頃に見たことあるような絵もあった。絵の構造が似ているだけだとハルは考えている。
甲冑を着た聖王国の兵、所謂聖騎士、クルセイダースとも呼ばれている者達が歩いてくる。自身に聖属性魔法を唱えて、身体強化をはかる連中だ。ヴァレリー法国の魔法学校の生徒もその使い手だった。
2人の聖騎士が話しているのをハルは後ろから至近距離で尾行し、聞き耳をたてている。
「チェルザーレ枢機卿猊下の護衛……シーモアを見たか?」
「ああ……見た。アイツとは戦いたくない。あれは人の道を外れた者だ……」
ハルは黙って聞いている。
──これは良い情報かも……
「奴と同じ部屋にいたら生きた心地がしない」
「全くだ!だが、奴は我々の代わりにやってくれるそうだ」
「何を?」
「レオナルド・ブラッドベルの処刑さ。奴が首をはねてくれるそうだ」
「あぁそれが人の道を外れた者の役目のようだな。肝にめいじるとしようか」
ハルは聖騎士達の尾行をやめた。先にルナの安全を確認したかったが、宮殿内が広すぎるため、レナードが言っていた地下牢(そんなものがあるかどうかわからないが)を探すことにした。
周囲をキョロキョロと見回す。どこを見ても宮殿内は美しい装飾で溢れていた。その時、1人の男に目がいく。
小柄で痩せている男。レベルとステータスを見る限りたいした強さはなかったが、男が纏う落ち着いた空気にハルは吸い寄せられる感覚に陥った。ハルは無意識にその男のあとをつける。
──なんだこの人……
ハルは鑑定スキルで行き交う人々の情報を目にしている。いつもはその情報を覚えないが、この男に関しては記憶することにした。
──名前はクルツ・マキャベリー……
ハルはマキャベリーの後をつける。マキャベリーは地下へ続く階段に到着した。そこで待っている背の高い男、見るからに武骨で硬く引き結んだ口は長い間開かれたことがなさそうだった。ハルはその男の名前を見た。
──シーモア……
先程聖騎士達が話していた人物だ。ハルはシーモアのステータスを見て驚いた。
【名 前】 シーモア
【年 齢】 32
【レベル】 44
【HP】 370/370
【MP】 212/212
【SP】 455/455
【筋 力】 360
【耐久力】 350
【魔 力】 225
【抵抗力】 346
【敏 捷】 388
【洞 察】 386
【知 力】 32
【幸 運】 15
【経験値】 14040/450000
・魔法習得
第一階級水属性魔法
ウォーター
第二階級水属性魔法
スプラッシュ
「シーモア殿に案内していただくのは申し訳ありませんね……私のわがままで猊下の護衛が手薄になってしまうとは……」
「……猊下は構わないと仰っていた」
「すぐにすませます」
そう言って2人は地下へ降りた。ハルはシーモアのステータスを見て心拍数が上がったのを感じていた。なぜなら……
──この護衛よりも強い奴がいるかも……
護衛でこのレベル。シーモアを御している者はそれよりも強いかもしれないとハルは考えていた。
心拍数を抑えながらハルは2人のあとをつけていく、今までよりも更に慎重に。階段の底に着くと、暗い通路が広がっていた。等間隔に松明が設置されている。そこはレナードが当てずっぽうで言っていた地下牢だった。ハルはレナードが得意気になるのを想像する。
マキャベリーとシーモアはたくさんある牢屋の中から一つを選び、カビが染み付いた扉を開ける。中へと入った。予想通り中にはレオナルド・ブラッドベルが鎖に繋がれているのが見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます