第189話

 レオナルドは直ぐに隣室にいた兵フランツを起こした。フランツの部屋にも毒煙が立ち込めていた。なんとか覚醒したフランツに事の顛末を知らせ、フルートベールへ向け馬を走らせた。


 レオナルドはエリンに何を言われても攻撃をするなと指示をする。


「仮に私が捕まってもお前はルナ殿をお守りしろ!なんとしても!」


 宿の階段を上がる音が聞こえる。その音がレオナルド達とゲーガン司祭の死体がある部屋の前で止まった。


 緊急を知らせるような慌ただしいノックをしてから扉が勢いよく開いた。入ってきたオレンジ色の髪をした青年は驚きの表情を見せる。


「宿の様子を見に来たが、一階が荒れていたので……ここまで来ましたが、これは……どういうことですか?」


「あなたは……」


「私はチェルザーレ・ゴルジア……今は訳あってこの国の代表をしております……そこに倒れているのはゲーガン司祭ですか?まさか……」


「違います!話を聞いてください!!」


 レオナルドは弁明の余地を与えてほしいと懇願するが、遮られた。


「この者達を捕らえろ!!」


 続々と部屋に押し入る聖王国兵がレオナルドとエリンを乱暴に押さえ込む。


 エリンが反抗しようとしたが、レオナルドは激しい目力で、"私もお前と同じ気持ちだが、今は堪えろ"とでも言うようにエリンを諫めた。


「待ってください!!」


 ルナは叫ぶが、チェルザーレにより遮られる。


「とにかく……貴方が無事でよかった。話は我々の宮殿でしましょう」



────────────


 早馬に乗り急いで国境を渡る。フランツは一刻も早くフルートベール王国へ向かわなくてはならない。


 フランツはレオナルドから事の顛末を聞いたとき自分を恥じた。宿屋の警備は万全であり、近くにはレオナルドとエリンがいるために慢心していたのだ。


 ──俺はなんて馬鹿なことを!!


 馬が大地を踏み締める力強い音。その音がまるで自分を責めているように聞こえた。


 ──早く!早く知らせないと!!


 このままではレオナルドの命だけでなく王国が危ない。これは偶然の産物なのか仕組まれた事なのかフランツにはわからない。しかし、敵となりうる聖王国の領地でそこの司祭を殺害したのはどんな理由であれ不味い展開になるのは外交に疎いフランツでも理解できた。


 ──レオナルド様は最悪、死罪になりかねない。ルナ様とエリン様も危険な立場に置かれる。それに野営している兵達も危ない……



 夜が明け、朝の光が美しく景色をうつしだす。馬は夜通し走りっぱなしで限界のようだ。しかし──、


 ──もう少しで!国境だ!!


 その時、馬が躓き倒れた。フランツは受け身をとりなんとか着地した。すぐに馬を起こそうとするも、なかなか立ち上がらない。おそらく怪我をしたのだろう。


 フランツは馬の逞しい脚に手を触れ、ここまで運んでくれたことに感謝する。そして走り出した。



~ハルが異世界召喚されてから11日目~


 ブラッドベル兄弟は朝の訓練をしていた。お互いに光の剣を出し、型の確認をしている。2人で訓練をするなど久しぶりだった。


「スコートと戦ってわかったんだけどさぁ?俺の癖とか教えてたろ?」


 レナードがレイに訊いた。


「教えていない」


 レイは型の集中を崩さないよう注意しながら答えた。


「じゃああれか?スコートはレイとよく訓練してたんじゃないか?」


「数回ならある」


「そうか……やるなスコート……大会までの間アイツとも訓練していいか?」


「俺に訊かないで、スコートに訊いてくれ」


「そりゃそうか」


 型の確認を終え、訓練用の剣に持ちかえ、2人は向き合った。


 レイは大上段の構えからレナードに向かって一気に振り下ろす。レナードはそれを剣先でそっと触れながら軌道を反らし受け流した。


 剣を受け流されたレイは何の感触もしないまま剣を振り下ろすこととなった。そんなレイの胴体目掛けてレナードは剣を横薙ぎに振るう。


 レイは斬り上げるようにレナードの攻撃を弾いた。


「良い反応だ♪」


 レナードは弟を褒めたたえる。


 攻撃を弾かれたレナードはのけ反った体勢から元の姿勢に戻る力を使って、上段からレイに斬りかかる。レイも同じくレナードの薙ぎ払いを弾いたことにより浮いた片足をもう一度踏み締める力を使って、レナードの胴体を横一閃に斬りかかった。


 ギィィィィン


 2人の剣がぶつかり合った。体勢を崩したのはレイの方だった。剣が手から離れ、レナードの剣が眼前で寸土めされる。


 「俺の勝ち♪なんで負けたか明日まで……」


 レナードが嫌味を言おうとしたとき、訓練場に父レオナルドの部下であるフランツが息も絶え絶えの様子で入ってきた。

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