第190話

~ハルが異世界召喚されてから11日目~


 朝靄のかかるフルートベール王国の王都は、幻想的な風景を思わせる。恒星テラが昇り1日の始まりを告げていた。しかし、王城では緊迫した空気が漂う。


「ルナ・エクステリア並びにレオナルド・ブラッドベル、エリン・カザルム、正規軍500が聖王国に捕らわれたと思われます」


 ギラバが、起きぬけの貴族達に伝える。この報のおかげで彼等は目が覚めたようだ。


「なんということだ!」

「だから安易に引き渡してはならぬと!」

「聖王国で何があったんだ!?」


 集まった者達はそれぞれ自分の考えを吐き出し始めた。ギラバは続けた。


「チェルザーレ枢機卿が来るまでの間、ルナ・エクステリア殿達は街で歓待を受けていたが、深夜、暗殺者を伴った街の司祭がルナ殿を襲いに来たとのこと……ブラッドベル殿が彼らを撃退し、その司祭は死亡。その後、すぐにチェルザーレ枢機卿率いる軍が街に到着……その後の情報はありませんが、どんな理由であれ他国の領土で有力者を殺害するのは些か問題になりますね」


「彼等が悪いのではないか!?」

「そうだ!聖王国にも戦争を仕掛けるべきだ!」

「今の話を聞いている限り、ブラッドベルが捕らわれた情報はありませんが?どうして、彼等が捕らわれていると?」


「そもそも今回の要求は初めからおかしかった。ですから我々は聖王国が帝国と手を組んでいた或いは、帝国に脅されているのではないかと考えていたのです。それで聖王国の動向を探る為にも、ルナ殿の協力を得て相手の策に乗ることにしたのですが……初めから捕らえるのが目的だったとは……いや、ブラッドベル殿が参戦することすら奴等は計算していたのかも知れません。完全にやられました」


 いつも先読みをして行動をするギラバが珍しく溜め息をついた。


「聖王国から声明は来ていないのか!?」


「まだ何も……」


 ギラバは伏し目がちに答える。


「その司祭の独断という可能性は!?」


「もしこれが独断なら最悪の方向へ事態は進んでおります」


「ブラッドベルならば聖職者に集う兵など容易く撃退できるのでは!?捕まっている証拠はどこにもないのだろう!?」


「彼ならできるかもしれませんが、部下達は血を流すでしょう……そうさせない為にもブラッドベル殿ならば大人しく捕まることを選択するはずです」


 レオナルド・ブラッドベルならそうすると誰もが思った。イズナは沈痛の面持ちでギラバと貴族達のやりとりを聞いている。


「しかし!まだ聖王国がどのような判断を下すかわからないじゃないか!」

「そうだ!も、もし!彼等が捕らわれていたら誰が責任をとるんだ!!」

「わ、私は引き渡すなと主張したぞ!!」


 罪のなすりつけ合いが始まった。この光景を一晩中走り抜けて知らせてくれたあの兵が見たら一体彼はどんな顔をするのだろうかとギラバは気の毒に思った。


「静まれぇ!」


 座していたフリードルフⅡ世が言う。


「今ここで、言い争っていることも奴等の術中だ!それよりもこれから最悪の事態を想定しつつ行動することが重要なのではないか」


 騒がしかった貴族連中が鎮まる。


「この情報には箝口令を敷く。特に市井に広めてはならない。知らせてきた兵は戦士長以外誰にも話していないのだな?」


「そのようです」


 イズナはフランツとのやりとりを思い出しながら王に返事をする。そして考えた。このことを息子のレナードとレイに言うべきだろうかと。



─────────────


 ハルは寝泊まりしているいつもの宿屋で目を覚ました。昨日の代表選考会でのスコートの活躍をまだ鮮明に思い出すことができた。自分も魔法にもっと磨きをかけようと誓った。そしてボキボキと背骨を鳴らしながら伸びをする。


 ──今日はなんだか良い日になりそうだ!!


 トントンとハルの部屋をノックする音が聞こえる。


 ──誰だ?美少女が起こしに来てくれたりして……


 ハルは上機嫌で扉を開けた。何故なら今日は良い日になるはずだから。


 扉を開けると、レイが立っていた。

 

「ハル・ミナミノ。お前に頼みたいことがある」


 ──ほらね。良い日?になりそう!!

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