第151話

 ゴォォォォォ


 通りすぎる電車は激しい風を引き連れてきた。ナツキは前屈みになり突風に耐えた。電車に乗っているのと電車のそばにいるのとでは音が違う。

 

 真っ暗な地下鉄、線路のレール部分が怪しく光る。


 ナツキは魔力を込める訓練をしていたがミライのことが気がかりでなかなか集中ができない。地下に広がる階段を見た。奥からは誰も来る気配はない。もうどれくらい経っただろうか。まだ数分しか経っていないと思われるが場所が場所だけに何時間も経っている気がした。


 ナツキは一段一段確かめるように階段をおりる。すると奥の方からサイレンと銃声が聞こえた。ナツキは恐怖を感じながらもミライのことが心配になり闇の奥へと進んでいった。



────────



「……なんで貴方がいるの」


 ミライが腰に手を当ててナツキを問い詰める。まるで親ができの悪い子を叱るような図だ。

 

「えっと……心配だったから」


 ミライはナツキの返答に面食らい、しばし黙ってしまう。


「……ありがとう」


 今度はナツキがミライの返答に面食らった。なんだか気まずい空気が流れた。ミライは気を取り直してナツキに告げた。


「今さら引き返せとは言わないわ。行きましょう?」


「行きましょうって……これ大丈夫なの?」


 通路を照らす回転灯と倒れている護衛をチラと見るナツキ。


「じきに追ってが来るわね」


「え!?」


「でも安心して?これも計画の内だから」



 物々しいたくさん足音がナツキ達のいる通路に響き渡る。


「え!?どうすんの?来ちゃうよ?」


 ナツキは心配したが、ミライは護衛達の持っている銃を回収していた。小さな袋の中に物騒な短機関銃が吸い寄せられるようしておさまる。ミライは慌てているナツキと自分に魔法をかけた。


「バニッシュ」


 ミライはその後、ナツキの口に手を押し当てた。護衛達が通路に現れナツキ達に向かって走ってくる。ナツキはミライに口を押し当てられもがくような音しかでない。


「静かにしてて」


 ミライは自分の唇に空いている手の人差し指を持ってきた。


 護衛達は倒れている仲間達に詰め寄り安否を確認している。ミライとナツキのことが見えていないようだ。


「くそ!武器を奪われている」

「何処に行った?」


 ナツキは固唾を飲んでその場を見守る。そんなナツキのことをほったらかしにしてミライはステッキを掲げ、また魔法を唱えようとしていた。


「スリープ」


 新しくやってきた護衛達を眠らせることに成功した。ミライは護衛の持っている銃、ベレッタM9をナツキに放り投げた。ナツキは上手くキャッチすることが出来ず、まるでその銃が熱を発しているかのようにドタバタとして、掴むのに苦労をした。


「ど、どうしたらいいのこれ?」


「護身用よ?撃つときは安全装置を外してね?このタイプはフレームについてるから」


 ナツキはなんのことだかわからないが、ミライに言われるがままにその銃をしまった。ミライは他の銃を全て鞄の中にしまっていた。そんなにたくさんその小さな袋の中に入るものかと不思議にナツキは思っていたが、これも何かの魔法なのだろうと無理矢理納得させた。


 ザザァと眠っている護衛の無線が音を立てる。ミライはその無線をとり、コホンと咳払いをしてから男の声で話をした。


「実験室へ侵入されました!直ちに避難してください!」


 無線の向こう側であわてふためく声が聞こえる。ミライは無線を通路へ起き、回収した短機関銃でその無線を破壊した。ミライの躊躇ない行動にナツキはひいた。


「行くわよ」


「お、おう…」


───────────


 本来カードキーが必要な重厚な扉、昨日ミライが侵入を諦めた扉から白衣を着た者達が続々と避難していく。


 ナツキとミライは姿を見えなくする魔法がかかった状態で、彼等とすれ違うようにして扉を潜り抜けた。


 左右に扉が幾つもついている廊下をしばし歩いていると奥から機械が敷き詰められている空間が見えてきた。


 その空間には誰もいない。ナツキは様々な機械が部屋を埋め尽くしている光景に宇宙船の中もきっとこんな感じなのだろうと夢想した。その空間の更に奥には最近ネットでよく見かけるボロボロの魔法少女のステッキが台座に置かれているのを巨大な強化ガラスを隔てて観察することができた。ステッキの左右には巨大な円盤が設置されており、その円盤の中心には穴が空いていた。ナツキはその穴から加速した素粒子が射出され次元の壁を越えるのかと考察していると、ミライが既に強化ガラスの内側へいってそれを回収しようとしている。ナツキも慌てて強化ガラスの内側へ続く扉へと入っていった。


「きれい……」


 ナツキは初めて見たボロボロのステッキをみて思わず呟く。美術館等で絵や彫刻を見たときと同じような感覚に陥った。自分とそれの境界線がなくなる感じ、現実と夢の狭間にいる感覚だ。それは先程線路に降り立ったときも感じたが、このステッキには何か惹き込まれる魅力を感じる。


「偽物ね……」


「え?」


 ナツキはさっき思った魅力を直ぐに掻き消した。


「はめられたは……」


バタン


 と音を立てて扉が閉まった。2人は扉を見ると同時に強化ガラスに人がいるのが目に入る。


「捕まえたぞ?宗家の魔法使い」


 平田はいやらしく笑いながら言った。隣にはスーツ姿でサングラスをしている体格の良い護衛が立っていた。ナツキはミライに倣ってステッキを構えるが、腰がひけていた。


「まさか、もう一人いたとはな?この国の魔法使いは全部始末したと思っていたが……」


 ミライの表情が陰る。


 平田はナツキに視線を送った。ナツキは仮面を装着していたが、自分の素顔が見られている、そんな不安な気持ちになった。ミライはナツキの前に立って言った。


「貴方はどんなに恐ろしいことをしようとしているか何もわかっていないわ!」


「何を言っている?見たまえこの科学の結晶を?最早、魔法の力は古い!今は科学が上だ!私はその2つの力を使って……神になるのだ!!」

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