第140話 価値観の破壊と再生
フェルディナンはロペスを始末したあと、布巾で返り血を拭きながら考えていた。
「この人がダーマ王国の密偵だったのか。良い人だったのに……」
これからどうするか思案していると近くの蝋燭に火が灯っているのが見えた。
「成る程、これで屋敷を焼くつもりだったのね、屋敷の外側は魔法で防護されてるけど、内側なら焼けるって考えたのかな?だけど屋敷内にもその防護がしかれていたことをロペスさんは知らなかったみたいだ。む~無念」
──ロペスはいい人だったからなぁ…生前の行動が報われるような報酬をあげなくちゃね……
「ベルセルク!」
フェルディナンはダーマ王国兵50名程を対象に第五階級闇属性魔法ベルセルクをかけた。
この戦いも今はあんまり興味がない。初めこそ、この地に来れば面白いことが起こると思ってたがそれよりも面白そうなのをフェルディナンは見つけてしまった。
フェルディナンが今最も興味があるもの、それはハルだった。
「だってさだってさ、あの年でレベル40で第五階級魔法使えるんだよ!?なのになんであんな廃人になってんの?マジうける!!」
ここ1ヶ月一緒にいたことにより、ハルが何故心を閉ざしてしまったのかフェルディナンは様々な試みを仕掛けては探っていた。
柵を壊してハウンド・ベアをけしかけてみたり、自警団にボコボコにぶっ叩かせてみたり。しかしどれも効果がなかった。唯一効果があったのは自分の行動を謝罪しハルに許しを乞うたことだ。
ハルが夢にうなされていた時に言っていた言葉などを鑑みるとフェルディナンには粗方予想がついた。
ハルはきっと自分を許せないでいる。
フェルディナンは演出していた。ハルの見えるところで自分よりも格上と思われる敵から仲間を救うところを。
狂人化したダーマ王国兵が転んでしまったモヒカン男に襲いかかろうとしている。フェルディナンはアイテムボックスから自前の弓を取り出し、ダーマ王国兵目掛けて矢を射った。
「さぁ!早く立ち上がって!」
フェルディナンはモヒカン男に手をさしのべた直後、巨大な魔力が周囲を覆いつくすのを感知した。
フェルディナンの顔が嫌らしく歪む。勿論そんな表情がハルに見えないように。
──ちょうどいい♪
ラハブとベラスケスもその魔力を感じていた。そしてそれが視覚でも認識出来るようになった。
真っ赤な炎が空を埋め尽くしている。それは次第に渦を巻き中央から炎の竜巻が広範囲にフェルディナンやモヒカン男、ラハブ、自警団とダーマ王国兵に降りかかろうとしていた。
「あれは、第三階級魔法…ファイアーストーム……」
ベラスケスは狼狽した。ダーマ王国でこの魔法を唱えられる者はいないはずだからだ。
「こりゃまずいな……」
ラハブは狂信化したダーマ王国兵を切り伏せてから炎天を仰いだ。
「ひっ!」
モヒカン男はただただ恐怖している。
「「「うわぁぁぁぁぁぁ」」」
炎の竜巻が自警団達とダーマ王国兵達を包み込んだ。
─────────────────────
ラハブは今までに何度も死を覚悟してきたが今回よりも覚悟したことはなかった。
「おわった……」
ラハブはこれから訪れる死を立ち尽くして待っていた。炎の渦が自分と自警団達に覆い被さる。ラハブはそれを只見ていた。どう足掻いてもこの渦からは逃れられないと悟ったからだ。
しかし、
暴力的な赤い炎の渦を真っ青に染める何かが掻き消した。
それは青い炎だった。
ラハブはその光景に見とれていた。
先程勇敢な行動をとった少年奴隷フェルディナンとモヒカン頭をした自分の部下の前にもう一人の少年奴隷が青い炎を身に纏いファイアーストームを掻き消していた。
「ハハハハ…やっぱり役に立った……」
ラハブは呟いた。
ベラスケスは目を疑った。この戦には帝国以外の勢力が暗躍していると悟っていたが、これまた予想外の出来事が眼前で起きたからだ。
「あの青い炎は、第四階級魔法の……フフフさっきから一体何が」
ベラスケスは自分が先程から魔法の解説ばかりしていることに可笑しくなった。
「…ハル?」
フェルディナンはハルを前にして笑いを堪えた。自分の思惑通りに事が進んだからだ。しかし、ここでボロを出すわけにはいかない。
「…どぅ…して……」
ハルのたどたどしい発言を受けてフェルディナンは聞き返した。
「え?」
「ど…う…して…どうしてこの人を助けることができた?」
またしても笑みが溢れそうになるフェルディナン。
──ここは我慢だ!フェルディナン!
「どうしてってなんでだろう。身体が勝手に動いたから?」
「敵は君より強い…どうしてそれができる。僕には……できなかった。真逆のことをしてしまった」
「失礼な!確かにほぼ負け確だったけど…でも…助けたいと思ったから……お前こそどうして俺らを助けた?」
フェルディナンは辺りを見回しながら言った。
「…君を助けたいと思ったから……どうしてそんな行動をとれるのか聞きたいと思ったから……」
「やりたいこと見付かったんだな?」
「これが僕のやりたいこと……?」
「他にやりたいことはあるか?」
ハルは今まで自分が喜んで戻ってしまった出来事を思い出した。ルナを助けたこと、ユリを地下施設から救いだしたことやフィルビーとダルトンが再会した場面を思い浮かべた。
「今まで……関わってきた人を助けたい……」
「他には?」
フレデリカのもとで魔法を練習して、習得したこと。上の階級魔法を習得できたことを思い出す。
「……魔法を……たくさん覚えたい……」
「他には?」
魔法学校の仲間達が思い浮かんだ。
「友達と色んな話しをしたい……」
「じゃあ生きなきゃダメだな?」
フェルディナンの問い掛けにハルはうつむく。
「僕に…そんな資格はない……」
フェルディナンは立ち上がった
「あのなぁハル、お前の見えてる世界はほんの一部だ。俺だって何回も逃げだした。お前が今見てるのは俺の良いところだけなんだよ……お前が何をしてしまったのかはわからない」
フェルディナンはハルに近付く。
「アナフィラキシーショック……前にお前も言ってたろ?それと一緒さ、毒を消そうとし過ぎると死んでしまう。毒を経験して初めて人は生きるに値するんだ。そうやって大人になっていくんだよ」
「え?」
ハルはフェルディナンと目を合わせた。
「いやわかんないのかよ!結構良いこと言ったつもりなのに!まぁ要は綺麗ごとばかりじゃ人生、生きらんないってことさ?自分が嫌いになるようなことをやって初めて生きようと思えるんだ!お前はいい加減自分を許してやれ!」
「僕は……生きてていいの?」
「勿論さ!お前が自分を許せないでいるその気持ちはきっとこの先役に立つ。お前の人生を彩らせる素敵なモノなんだ」
ハルの眼から涙が溢れる。
それを見たフェルディナンは手をさしのべて言った。
「ようこそ大人の世界へ、お前さえよければ俺達の国へ──」
ピコン
限界を突破しました。
ピコン
レベルが上がりました。
ゴーン ゴーン
~ハルが異世界召喚されてから1日目~
「フェルディナン……ありがとう」
そこにフェルディナンの姿はなかった。ハルはいつもの路地裏に戻っていた。そして再び涙を流した。自分に共感してくれたのが嬉しかったのか、それともフェルディナンの言う通り自分を許すことができたのか、何故戻って来れたのかはわからない。
ただ胸が軽くなったのだけは確かだった。
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