第126話
フェルディナンは自分の荒ぶる心を宥めながら年上の先輩奴隷達の元へ、少年も連れて向かう。道中宥めた成果は出ていない。
「俺達の畑にハウンド・ベアが現れたんだ!!」
「そ…そうなのか……」
仲の良い先輩奴隷ロペスは後ろの連中を意識しながらフェルディナンの話を聞いた。
「死にかけたんだよ!!」
他の青年奴隷達も集まってきた。
「嘘だろ?」
「そんな魔物ここら辺じゃでないぞ?」
「フェルディナンは物事を大袈裟に言うからなぁ」
フェルディナンの言うことを信じる者はいなかった。
「本当なんだって!?柵が壊れてた!それにハウンド・ベアをおびき寄せるような人間の足跡も2つあったんだ!」
その事を聞いたロペスはカレーラスとクアトロの方を見た。
2人は素知らぬ顔をしているが、思ったよりも事態が深刻化したのと、自分達の足跡が残っていたことに内心ヒヤヒヤしていることだろう。
その心の動揺をフェルディナンは見逃さなかった。フェルディナンはロペスを通り過ぎ、カレーラスとクアトロに詰め寄る。
「お前らがやったのか?」
「ど、どうして俺達なんだよ!?」
「そうだ!何で俺達を疑ってんだ!?」
「目を逸らしたから……」
「そんなんで疑われたらたまったもんじゃないぜ!なぁ?」
カレーラスはクアトロと他の青年奴隷達の同意を求め、頷かせることに成功した。
「じゃあ足跡を取らせてくれ」
フェルディナンは2人に詰め寄ると、
「俺達は忙しいんだ!」
と言ってカレーラスはフェルディナンを突き飛ばした。
無様に尻餅をついたフェルディナンを見て何人かが笑った。本日二回目の尻餅だ。
「よせ!取り敢えずお前達はこの事を自警団に知らせるんだ。まだ近くにハウンド・ベアがいるかもしれないんだろ!?」
先輩奴隷ロペスは尻餅をついたフェルディナンに手をさしのべて起き上がらせながら言った。
「本当にいるのかぁ~?」
「どうせ嘘だろ?」
他の青年奴隷達が相手にしないのをロペスは黙らせてフェルディナン達の後ろ姿を見送った。
「くそ!絶対アイツらだろ!?」
自警団の元へ歩きながらフェルディナンは口をきかない少年奴隷の方を向いた。
「どうして怒らないんだよ!?」
少年の肩を握り揺するフェルディナン。
「……」
「口が聞けないなら態度で示せよ!悔しくないのかよ!?」
「……」
「あ"ぁ"もう!!」
フェルディナンは少年を連れて自警団の元へ向かった。
<自警団訓練所>
「お願いです!ハウンド・ベアが出たんです!信じてください!」
野外に設置してある木製のテーブルに食べ物と酒を置き、だらしない姿勢で丸太を椅子がわりにして座ってる自警団連中に声をかけるフェルディナン。
「証拠を持ってこいよ?今訓練で忙しいんだ」
ガハハハと周囲の自警団の団員は笑っている。彼等は明らかに休憩中で、酒を飲んでいた。
「お願いします!」
「うるせぇ!」
またしても突き飛ばされ尻餅をつくフェルディナンに嘲笑と爆笑の間の下品な笑い声が響き渡る。
「まぁまぁ、それよりもさぁ、お前らが強くなればいいんじゃないか?」
自警団の1人のモヒカン男が剣を肩にのせながら近寄ってきた。
「ほら立てよ?俺が鍛えてやっから」
フェルディナンは立ち上がると木剣を渡された。
「おら?こいよ?」
フェルディナンは今までの三回も尻餅をつき、誰も信じてくれないことへの不満から木剣を強く握りしめ、モヒカン男に突撃する。
「うぉぉぉぉぉ!!」
フェルディナンは大上段からモヒカン男に木剣を振り下ろした。
しかし、モヒカン男の持つ木剣によりフェルディナンの打ち込みは弾かれ、手から離れた。フェルディナンは自分の木剣の行方を追っていたが、その隙に肩に一撃が入る。
「ぐっ!」
「へなちょこ剣だな」
「「「ガッハハハハハハ」」」
ひざまずき肩を抑えるフェルディナン。
「そこのつっ立ってるお前もどうだ?」
「……」
モヒカン男は口をきかない少年奴隷に提案する。
フェルディナンは顔を歪ませながら立ち上がると少年に木剣を持たせた。自分だけがやられ、恥ずかしい気持ちが少なからずあったようだ。
「お前もやれよ!」
フェルディナンは少年の背中を押してモヒカン男の前に立たせた。
──コイツのせいで俺は他の奴隷から嫌がらせを受けている!コイツのせいで恥をかき肩を痛めたんだ!
少しくらい少年奴隷にも同じ目にあってほしいとフェルディナンは考えていた。
「おら?構えろよ?」
「……」
モヒカン男の言うことをきかない少年奴隷。
「だったらこっちから行くぜ?」
少年奴隷は両手をダラリとさせ、片手に木剣を力無く握っている。モヒカン男は先程のフェルディナンと同じように大上段から一撃をいれようとした。勿論フェルディナンより早く、そして強く。
木剣を握っている少年の手が一瞬動いた気がした。木剣を強く握るように見えたが、少年の肩にモヒカン男の一撃が決まる。
「「「ガッハハハハハハ!」」」
自警団連中の下品な笑いがまたしても響き渡った。
フェルディナンはその光景をみてスカッとした。
──ざまぁ見ろ!
しかし渦中のモヒカン男は不思議に思っていた。
目の前の少年がひざまずきもせず痛がりもしないからだ。
周りを取り囲んでる自警団の1人。金髪で格闘ゲームに出てくるとしたらソニックブームを撃ちそうな髪型をしていた男が口を開く。
「おいおい!お前の攻撃がきいてないんじゃねぇか?ガッハハハハハハ」
モヒカン男をたきつける。
「う、うるせえ!」
バカにされたモヒカン男は少年の腹を突くようにもう一撃入れた。モヒカン男の経験で、自警団団長のラハブにこのように腹に突きをくらって1日悶えた記憶がある。
──これでも食らいやがれ!!
フェルディナンは目をそらした。恐る恐る少年をみやると、やはり平然と立っていた。
モヒカン男は躍起になり何度も何度も少年に攻撃を加える。
鈍い音が絶え間なく訓練場に響き渡る。
「おい……」
「いいのか……止めなくて?」
自警団の団員達はモヒカン男の容赦ない攻撃に焦り始めた。しかし、少年奴隷は全く動かない。フェルディナンは口を開けて目の前の光景をただ見ているだけだった。
騒がしく周りにいた団員達も次第に攻撃を受けている少年奴隷と同じように無言でその光景を見始めた。
「はぁはぁはぁ……なんで倒れねぇんだよっ!」
一際鈍い音が聞こえた。渾身の一撃が少年奴隷の脳天に入る。
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