第117話
~ハルが異世界召喚されてから4日目~
ハルは今後の動きについて考えた。
獣人国のクーデターを止めたことで約半月後の帝国との戦争は有利な展開に持ち込めると考えられる。勿論、ハルが戦闘に参加することが前提の話だが。
また、ハルはレベルも上がったことで昨日のAクラス生徒とスタンの前で唱えたフレイムと、一昨日の実技試験の時に唱えたフレイムが物凄い威力になっていたことを思い出していた。
まだまだコントロールが難しく、昨日スタンにフレイムを見られたのが少し気掛かりだった。
過ぎてしまったことはしょうがないと諦め、明日のクロス遺跡でユリをどうやって救出するかをハルは考え始めた。
「はぁ~ダンジョン講座かぁ」
アレックスは机にうつ伏せの状態で言った。
「どうしたの?ダンジョン好きじゃなかったっけ?」
対称的に隣にいるマリアは背筋を真っ直ぐ伸ばしてアレックスに尋ねた。
「好きだけどさぁ、座学じゃん。ますますダンジョン探索したくなるじゃん。なのに行けるのは上級生になってからって……」
──懐かしい会話だ。
「それじゃあ、明日から始まるレベルアップ演習は楽しみなんじゃない?」
「そりゃあ楽しみだよ!めちゃくちゃにレベルアップしてやるんだから!」
アレックスがキラキラした目で答えた。すると──
ガラッと教室の扉が勢い良く開いた。
「よぉ!お前ら!これから俺と遊ぼうぜ!」
スキンヘッドの男が姿を現す。
「は!?」
ハルは驚いた。
──何故襲撃が?昨日のフレイムの威力見てたろ?
ハルはそう思ったが気を取り直してスキンヘッドの男に向かって行った。
スキンヘッドの男は魔力を込めようとしたが、教室全体を覆うような殺気を感じた。その時にはもう遅かった。ハルの手はスキンヘッドの男の口を塞ぐようにして鷲掴みにする。
レイは魔法を放とうとしたが、ハルの殺気を感じとり、放つのを止めた。
──なんだ!?この殺気は……
スキンヘッドの男は口元を押さえられことを認識すると、殺気の持ち主が目の前の少年だと気付く。
「お前みたいなのが全クラスに来ているのか?」
スキンヘッドの男は恐怖で震えていた。
「急いでるから早く答えろ」
男は首を激しく立てにふった。
スキンヘッドの男の視界は縦揺れから傾き、斜めの状態となる。ハルが口元を押さえ付けている手に力を加え、顔全体を横に動かすようにして首の骨を折ったのだ。
ハルは手を離し、Bクラスへと向かった。スキンヘッドの男はドサリと音を立てて倒れる。それをただ見つめいてるAクラスの生徒は困惑していた。ハルが急に先生を殺したと勘違いしたが、レイがそうではないと説明する。
誤解は解けたもののハルの殺気から解放された者はいなかった。
─────────────────────
<Bクラス>
「どうして!どうして!俺様がAクラスじゃぬぁ~いんだ!!!あの平民達さえいなければぁ!!1人は孤児だろ!!?」
ハンスは激怒していた。体育会系のがたいに短い金髪を逆立たせているため、より激怒しているように見える。
「きっと不正をしていたんでしょうねぇ」
ハンスの腰巾着のイェーツが相槌をうつ。
ハンスはイェーツに言って教室の一番後ろの席を取らせていた。この席だと自分が一番高い場所に位置しており、平民どもを見下ろせるからだ。
ハンスは席につくと、続々と卑しい者達が教室に入ってくる。
──全員俺の魔法で塵にすれば俺もAクラスに上がれるのではないか?いやしかし俺がやったとバレれば末代までの恥だ
ハンスはできもしないことに想いを馳せた
講師とおもしき者が教室に入ってきた。ゆっくりと階段を下り教卓の前に立つと、
「さぁこれから皆さんには殺し合いをして頂きます」
「「「‥……」」」
教室が静まり返った。
はぁ、とハンスは溜め息をつく。
──何の冗談か知らんがこんな奴らがやっている教会に金を払っているのか……実にくだらん!
ハンスは襲撃者を神学の先生だと勘違いしていた。ハンスはその者に問いただす。いや、日頃のイライラを解消させるように言った。
「どういうことだ!」
机を叩きながらハンスは怒鳴る。
「こういうことです」
男は人差し指を座ってる男子生徒に向けた。
「え?ぼく?」
「ウインドカッター」
男は第一階級風属性魔法を唱えた。
白い刃の様な風が男子生徒に向かうが、その風は魔法が打ち消される音と共に四散する。
魔法を放った男は、ほぉと感嘆の声をあげ呟いた。
「どなたです?私の魔法を打ち消したの……え?」
Bクラスの教室内にえも言えぬ重圧がかかった。
ハンスだけではなく、教室にいる誰もが入り口から来る邪悪な気配を感じ取った。その気配の主が姿を見せる。
ハンスはその者が、自分が孤児だとバカにしていた者だと理解した。その者の目を見ることが出来なかった。目をみたら自分は殺されるとまで感じたのは初めての経験だ。
しかし、ハンスはその者の足元から目を離したくはなかった。何故なら常に居場所を確認していないと安心できないからだ。
静まり返る教室。
教壇にいる襲撃者の方から何やら床に倒れこむような音が聞こえた。ハンスは音の方を見やると、襲撃者が両膝をつき後ろにのけ反るようにして倒れていた。
「え?」
そして、もう一度、自分が孤児だとバカにした者の足元を見やるが、その者はもうそこにいはなかった。
─────────────────────
スタンはルナを探していた。
残るは屋上のみだ。
階段を上がりながら、あることを考えていた。
もし、ハル・ミナミノと相対した場合どうするかだ。
勝てる確率はかなり低い。魔法詠唱者なので、懐に入り拳技で何とか倒せるのではと考えていたが、昨日の嘘みたいな威力のフレイムを唱えられれば終わりだ。
あとは背後をとり一撃で仕留めるのが少ない確率の中では一番の手なんじゃないかとスタンは考えていた。
屋上へ出たスタンはそこに目標であるルナを確認したが、隣にはハルがいた。
──背後をとる
先程考えた作戦を実行しようと思い、一歩踏み出したスタンはハルと目があった。そうかと思えば──
「何しに来たんですか?スタン先生?」
背後からハルの声が聞こえる。
──なんだと!!?全く…見えなかった……
「場合によっては殺しますよ?」
まるで心臓を握られているようなプレッシャーだった。
ルナはハルが急にいなくなり、辺りを見回している。そして、ハルとスタンを見つけた。
ハルはルナの元へと歩き、なにやら話している。
「スタン先生が心配して来てくれたみたいですよ?」
ルナはスタンにお辞儀をしている。
スタンはそれに応えるように手をあげた。ハルのプレッシャーによりまだその場を動けなかった。
すると、遠くで何かが爆発する音が聞こえる。
ハルとルナはその音がした方向を見た。
王都から南東にある城塞都市トラン周辺から大きな土煙が漂うのが見えた。
スタンは思った。
──始まった…新たな戦いが……
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