第118話
~ハルが異世界召喚されてから4日目~
<魔法学校襲撃の少し前、城塞都市トラン>
城塞都市トランは王都より南東に位置し、帝国との国境を防衛している。
城塞都市というだけあって守りは王都よりも堅い。
荒野に何故かポツンと山があった。
山といっても緩やかな斜面などはなく、只の大きな石柱といった方がいい。
その石柱を背に城と城下町が築かれ、周囲を高い壁で覆っていた。城塞都市トランはまるで崖をそのまま削って造られたようだった。
壁の高さは約30メートルはある。都市の背にそびえ立つ石柱はそれ以上の高さだ。
何故この荒野にそんな石柱が1つだけあるのか、これには様々な言い伝えがあった。
大魔導時代、竜族のペシュメルガが戦争を終わらせるために天空から石を降らせたと言われていたり、神ディータが石柱の頂上に座り下界の者を覗き見ていたとも言われている。
フルートベール王国の宮廷魔道師ギラバはこの城塞都市トランで行われた帝国との小競り合いを鎮圧するため王都からやってきていた。
小競り合いというのは国境付近ではよくあることだ。血の気盛んな国境警備の兵士達がお互いを煽り合い、喧嘩へと発展する。
幸い死人はでていない為に大きな問題にはなっていない。
死人が出れば戦争になってしまう。そのことを王国兵と帝国兵は十分承知していた。
煽りに応じた1人の王国兵は帝国兵に対して弓矢を放ったが、帝国兵は見事防御を成功させ、周りにいるそれぞれの兵達は死人が出ないよう2人の戦闘を止めたのだ。
ギラバがトランへやって来たことで国境を警備している王国兵は言うことを聞き今では大人しくしている。
しかし今日、事件が起きた。
この城塞都市トランの近くにある国境の壁を帝国が突破してきたのだ。
──どういうことだ?ここで国境を越えて侵攻してきても帝国の信用を落とすだけだぞ?
ギラバは状況を確認するために、トランへ避難してきた国境警備をしていた兵士と面会した。
「帝国領から大軍が押し寄せ、国境を突破し、このトランへと向かっております」
──大軍…つまり前もって準備をしていたのか。帝国は約10日後のプライド平原での戦争をせず、最初からここを狙っていた?
帝国の狙いが読めずギラバは更に疑問を抱くこととなった。
とりあえず、王都より援軍を要請し、籠城する準備を整えたギラバだが、ここで敢えて意表を突く。
トランから兵を出し帝国軍の進軍を迎え撃つ為、うってでたのだ。
これには進軍を遅らせる意図と、トランに向かっている国境警備兵の保護を意図している。あとは帝国の本気度を測ろうともしていた。
約5千のギラバ率いる軍が向かってくる帝国軍に攻撃を仕掛ける。
虚をつかれた帝国軍は進軍を止めて、乱戦へと突入した。
─────────────────────
この帝国による侵攻の波紋は世界中に広がった。
ヴァレリー法国のシルヴィアは帝国が宣戦布告を無視して、国境を越え城塞都市トランに攻撃を開始した報を聞き喫驚する。自慢の長く美しい髪が揺れ動いた。
トランは法国からも近く、もしフルートベールと同盟を組むのならトランを拠点に帝国との戦を展開するべきだとシルヴィアは考えていた。
「む~……」
帝国の奇襲はヴァレリー法国にとっては関係がない。ここは様子を見てことの成り行きを見定めてから対策をうっても大丈夫だろうと考えた。
「もしや……先の獣人国のクーデターと何か関係があるのだろうか……」
ヴァレリー法国、最高戦力であるシルヴィアは獣人国と帝国の関係性を調査させることを決めた。
しかし、何故このような強行策を帝国がとったのかシルヴィア含め多くの者達には理解ができないでいた。
─────────────────────
「帝国が宣戦布告を無視してフルートベールへ侵攻した!?」
ダーマ王国の宰相トリスタンは声を荒げた。帝国が自らの宣戦布告を破り、侵略行為をすることは周辺諸国が危機感を強め同盟を組みやすくなる。そんな同盟を組まれても帝国はそれを迎え撃つ用意があるのだろうか。
また、侵略後の民達にも悪い印象を与えるのをマキャベリーは知っているはず。
トリスタンは帝国にくみしている為、帝国にマイナスな印象が持ち上がり、この侵攻で帝国が敗れることとなれば自分の立場も危うくなるのではと危惧していた。
─────────────────────
ハルは帝国による魔法学校への襲撃を収束させた後、ルナの安全を見届けてから城塞都市トランへと向かった。
帝国のこの奇襲は獣人国のクーデターが失敗したことがきっかけなのは間違いないが何故いま動き出すのか、ハルはその意図が全くわからなかった。
しかし、ハルには第五階級魔法がある。
いざとなればフレアバーストをぶっぱなせば帝国の軍は何とかなるだろうと考え、錬成で筋力を上昇させ、急いでトランまで走った。
それと、城塞都市と聞いてハルは心を踊らせていたのはここだけの話だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます