第104話
◆ ◆ ◆ ◆
村を歩いているダルトン。
「お兄ちゃーん」
フィルビーが走ってやってくる。そして、ダルトンの足に激突してきた。
ダルトンは両足をフィルビーにホールドされ仰向けに倒されてしまった。
「お、おい!何やってんだよ!!」
笑いながらダルトンはビックリする。
「へへへ」
尚も足にしがみついてるフィルビーは何かを取り出し、ダルトンの眼前に差し出した。
「これは?」
糸を編んで造られた組紐だ。
「カトリーヌさんに教わって作ったの。フィルビーの手作りぃ~」
組紐は獣人族の中では、腕や足に巻き付けるアクセサリーのようなものだ。
ダルトンはそれを受け取って、腕に巻き付けた。
「ありがとうフィルビー!大切にするよ!」
「ヒュ~、ダルトンは妹離れができないな!」
ロバートはからかいながら横になってるダルトンを見下ろしていた。
「ロバートさん!」
ダルトンは恥ずかしくなり起き上がろうとするがフィルビーがまだ足に絡み付いていた。
「ロバートさんにもコレ!」
フィルビーは組紐をもうひとつ取り出してロバートにも差し出した。
「俺にも!?…えっ、えっとあんがとな」
ロバートは恥ずかしがりながらそれを受けとる。
その場をニヤニヤしながら通りすぎるイアン。
「てめぇ!なに見てやがる!!」
「別に良いじゃないか♪なかなか微笑ましい光景だったぞ?」
「バカにしやがって……」
ロバートが凄むとイアンの顔が不安げになった。
ロバートは疑問に思い、イアンの視線が自分の後ろにあることに気がつき、ゆっくり後ろを振り返ると、
「フィルビー余計なことしちゃったの……?」
泣きそうになるフィルビーの顔を見てロバートとイアンはあたふたし始めた。
「ちょっと~!フィルビーを泣かしちゃダメでしょ!?」
カトリーヌが現れ注意する。
回りにいる村の人達は笑った。
ゲラゲラという村人達の楽しい笑い声が──
悲鳴と木造の家の焼ける音へと変化した。
背中を斬られる者、髪を引っ張られ暗がりへ連れていかれる女達。銛で背中を貫かれるカトリーヌ。ダルトンはフィルビーの手を繋ぎ両親と一緒に逃げた。
◆ ◆ ◆ ◆
「よくも、俺達の村を……」
ダルトンは敵兵がイアンの尋問に答えている最中、憎しみが増すのを感じる。それに、
──俺達の村を無慈悲に襲った癖に、自分が殺されそうになったら、やめてくれだって?なんて自分勝手なんだ!
ダルトンの憎しみがかつてない程に膨れ上がったが、いつも冷静なイアンは戦争法、もしくは軍律に従い、この敵兵たちを捕虜にするのだろう。仕方がないことだが、やり場のない怒りをダルトンはもてあましていると、
ヒュンと鋭利なモノが振り下ろされる音が聞こえた。そして、敵兵の首が飛ぶ
「「うわぁぁぁぁ」」
「「ひぃぃぃぃぃ」」
捕らわれた敵兵達が悲鳴を挙げる。ダルトンはこの時、心のモヤモヤが一瞬スカッとした。
「ロバート!よせ!その行為は軍律違反だぞ」
イアンが止める。
「あ!?軍律違反だと?始めにコイツらが破ったんじゃねぇか!?」
「そうかも知れんが!無抵抗の相手に手を下すのはダメだ!それをしたらお前もコイツらと同じだ!俺達は戦争をしてるんじゃない!故郷を取り戻すだけだ!」
「ア''ァ''ァ''..なんなんだお前は!!コイツらをかばう必要はねぇ!お前は多くの仲間達が死んでいくのを見なかったのか!?あ''!!?アイツラの無念は誰が晴らすんだ!?アイツラの未来が奪われてコイツらをのうのうと生き延びさせるのがお前の願いなのか!?答えろイアン!!」
仲間の1人の首が落ち、びくびくする反乱軍の兵士達。
「お前の気持ちはわかる。だけど憎むのは彼等じゃない、戦争そのものだ。戦争がなければ俺達は殺し合いをしなくてすんだんだ。それに彼等の仲間も俺達に殺されているんだ……」
イアンの言い分もわかる。しかし、仇が目の前にいるとダルトンは自分の憎しみを抑えることができない。
それは敵兵達を囲んでる殆どの者がダルトンと同じ、いやロバートと同じ気持ちだった。
「う、うぉぉぉぉ!!!」
ダルトンの前にいるポーアが戸惑いながら雄叫びをあげ、槍で膝まづいている敵兵の頭部をかち割った。
その行為に続くように1人、また1人と無抵抗の敵兵達を切り伏せる。
虐殺が行われた。
その光景をただ見ていたダルトンはこれが本当に自分の望んでいる結末なのだろうかという考えが頭に過る。
無抵抗の反乱軍の兵士達は殺されるのを待っている。恐怖の顔が虚ろに変わる。
オセロ村の、同郷の仲間達が恐ろしく見えた。
──これで良いのか?皆がやってるなら俺も……
ダルトンは持っている短剣に力が入る。
泣き叫び死んでいく者。泣き叫んでいるかのように声を荒げて殺す者。
ダルトンは自分もその虐殺に加わろうとして近付いた。しかし、イアンが視界に入り、歩みを止めた。
イアンはこの光景をみて呆気にとられている。やがて膝をつき俯いた。
「な、なんてことを……」
ダルトンはイアンに気を取られていると、叫び声が聞こえなくなり、荒くなった呼吸を無理矢理整えるような音が聞こえるようになった。
虐殺が終わり、ロバートが一言イアンに告げた。
「これが皆の答えだ」
ロバートは背を向けるとイアンを置いて、ダンプ村にある大きな家に向かった。
他の者達を引き連れるようにして去る後ろ姿は獣人成らざる存在感を醸し出していた。
ダルトンも引き寄せられるようにロバートの後ろをついていった。
大きな家はかつてダンプ村の村長が住んでいた家だ。
その家の居間にイアン以外の全員が揃った。
「お前ら!これから待ちに待ったオセロ村だ!だがもう日が暮れ、疲労もたまったことだろう!すぐに取り戻したい気持ちは、わかるがここで休息をとって明日の朝一番に出るぞ!」
ロバートが語りかける。
「「おおおお!」」
その言葉に応える皆。
「村を...仲間を奪われたこの恨み!思い知らせてやるぞ!」
「「おおおお!」」
皆の士気が上がる。
「ところでロバート?イアンはどうする?」
「あぁ、アイツはもう使い物にならん。ここに置いていくつもりだ」
「でも今回のことを本部に言うんじゃ?」
「大丈夫だ。俺に考えがある」
「頼もしいぜ!流石俺達のリーダーだ!」
「「おおおお!!」」
ダルトンはこの決起を居間の隅で聞いていた。皆に置いてけ堀にされているような気持ちになった。
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<オセロ村>
乾燥した草を剣山のような道具で砕き、紙に巻いて火をつける。
辺り一体に煙と異臭がたちこめる。
片目の潰れたハイエナのような獣人シェンジは、煙を肺に入れて吐き出した。
そのすぐ隣でカタカタと震えている、捕らえられた女達。木でできた牢屋に入れられ、毎夜毎夜と相手をさせられる。
ベッキーが震えているのを見てシェンジは満足気だった。
──あ~愉快だ…しかし……
シェンジはこの村を襲った時に勢い余って殺した女のことを思い出していた。
「あの女、殺さなきゃよかったな」
ふぅ、とまた煙を吐き出した。
「なかなかの上玉だったのに」
シェンジは覚えていた。あの女の強い眼を。そんな眼で見つめられると、殺したくなってしまう。もしくは、その眼を散々犯し尽くして恐怖の眼に変えていくのも面白い。
想像したシェンジの顔がいやらしく歪んだ。
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