第55話
~ハルが異世界召喚されてから1日目~
ハルは一刻も早くクロス遺跡へ向かい、ユリを救出することを考えていたが、日が沈んだ頃にここに居なければルナが死んでしまう。
ルナの命とユリの苦痛を天秤にかける。
馬車でクロス遺跡に向かっても、向こうに着くのは日が沈んでから。
錬成で筋力を上げて、クロス遺跡に行ったとしても、MP消費によりフレアバーストはおろかヴァーンストライクも唱えられない。それではつまりレッサーデーモンに敵わない。
──でも足止めしながらユリを救出できるか?いや、MP回復薬を飲めばいける?
とりあえず、図書館へハルは向かう。
<図書館>
「レッサーデーモンの弱点?レッサーデーモンってミストフェリーズ英雄譚にでてくるあの?確かレッサーデーモン1体で国が半壊したのよね……」
「え?実際に出たんですか?」
「実際にかどうかは、わからないけどミストフェリーズ英雄譚にはそう書いてあったわ?英雄ミストフェリーズ悪魔退治第二編!」
フレデリカはどこからか、本を取り出してハルに見せつける。表紙には英雄ミストフェリーズ悪魔退治第二編と書かれていた。
「それで、その英雄ミストフェリーズはどうやってレッサーデーモンを倒したんですか?」
「それがねぇ…私の好きな第五階級火属性魔法フレアバーストで倒したのよ!!」
得意気になるフレデリカ。
「それ以外の魔法では倒せないんですか?」
「ん~そうねぇ…物理攻撃は効かないし…悪魔の魔物だから光属性、聖属性魔法なら効くと思うわ?他の属性魔法は第三階級以上じゃないと効かないかもしれない……」
「どうして?」
「たしかレッサーデーモンには耐性があるから…って書かれてた気が……」
「光属性か……」
ハルは話を聞き終わると、図書館を後にする。
このために緊急離脱用に光属性魔法を唱えるのは、少々リスクが高い。ハルはMP回復薬を購入しに行った。
<薬屋>
薄暗い店内、壁には棚が設置してありたくさんの薬品や怪しい瓶に入った薬草等が置いてあった。床には魔法陣のような模様が描かれている。ハルは入店して正面にいる店の者だと思われるお婆さんに声をかけた。
「あの…MPを回復する薬を買いたいんですけど…」
「MPポーションのことかい?」
薬屋の婆さんはいつもこの声なのか、昨日の疲労が祟ったのか、嗄れた声で答える。
「そうそれです!」
婆さんはハルを下から上へなめるように見てから言った。
「1つ20万ゴルドだよ」
「高っ!20万?」
ハルは現在2万5000ゴルドしか持っていなかった。
一旦店を出るとハルは腕を組んで考える。
──ゴブリンメイジとゴブリンジェネラルのドロップアイテムは高く売れる。もしかしたらデュラハンの長剣も売れるかもしれない。ただギルドで売るにはギルドへ登録してないと売却ができない。
武器屋で杖や大剣が売れるかどうかを確認する為、前回の世界線、4日目でAクラスの皆と買い物に来た武器屋へと向かった。
<武器屋>
相変わらず中二心をくすぐる武器が飾ってある。ハルは店主に声をかけた。
「すみません。ここでこう言う武器って売れますか?」
ハルはアイテムボックスからデュラハンの長剣を出した。
煌めく刀身は切れ味の良さを見ただけで判断できた。
「うおっ!!!!」
前回の世界線でも思ったが、この武器屋の店主はラーメン屋の店長のように頭にタオルを巻いていて、体格の良いオヤジだった。
ハルがアイテムボックスを行使したのにも驚いたが、そこから眩い長剣を取り出してきたため、店主は戸惑いながらも答えた。
「こ、このロングソードはどこから……」
「家の倉を整理してたら出てきたんです」
「ちょっといいか?」
店主はハルに断りをいれてから長剣を手にする。刀身をなめるように眺めてから、切っ先から柄の部分にかけて覗き込むようにして見ていた。最後は柄の装飾と埋め込まれた石を見てからハルに告げる。
「30万ゴルドでどうだ?」
ハルは考え込む。そしておもむろにゴブリンジェネラルの大剣を取り出す。
「うおっっっっ!!!」
アイテムボックスになれない店主はまたも驚きの声をあげた。
「これはいくらですか?」
「こ、これはゴブリンジェネラルの……」
店主が生唾を飲んだのをハルは見逃さなかった。店主はその太い腕をもってしても大剣を持ち上げるのが精一杯といった様子で鑑定する。
「これは50万ゴルドだな……」
「さっきの長剣よりも高いんですね?」
「いや、さっきのロングソードも相当な価値のもんだと思うが、情報が少なすぎる。正直見たことがなかったんでな、その代わりこの大剣なら知ってる。需要もそれなりあるんで相場も把握してるってことよ。これもお前んとこの倉にあったのか?」
「あ、ええ。そうですよ!」
ハルはそう答えると、続けて言った。
「とりあえず、この大剣だけお売りします」
ハルは50万ゴルドを受け取って、武器屋を出た。
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暗くて冷たい。服を剥がれ、汚い布切れ1枚を身体に巻き、寄り添い合いながら寒さと恐怖を掻き消そうとする女達。
ネネもその一人だ。
昨日ゴブリン達に襲われ、拐われたのだ。他の女達もそうだった。ネネは自分と同じ境遇の女を見やる。
昨日は運良く犯されずにすんだ。しかし、今日はどうだろうか。
足音が聞こえる。どんどん大きく聞こえてきた。どうやら目的地はここのようだ。
──ヤダヤダヤダヤダヤダ!!!
ネネは心で念じながら、目を閉じた。
足音が聞こえなくなった代わりに酷い悪臭が漂う。ネネは目を閉じていることに恐怖を感じ始める。遠くにある恐怖は目を閉じてその場をやり過ごすこともできるが、近くに恐怖を感じる時は、逆に目視をしていないと安心できないものだ。恐る恐る目を開けると眼前にゴブリンのグロテスクな顔があった。
「イヤァァァァ!!!」
ネネは叫び声をあげる。その悲鳴が気に入ったのかゴブリンは笑い、嫌がるネネを連れいていく。
「イヤイヤイヤイヤイヤイヤ!!」
拒否するが抗えない、無理矢理、頭上に担がれ連れていかれる。
洞窟の天井を見ながらもがくネネ。
木で出来た扉を潜ると、投げられ、地面に横たわる。
周囲を確認するネネは、ローブを着て杖を携えているゴブリンと目があった。
そのゴブリンにネネは無理矢理引き寄せられる。
「いやぁぁぁぁぁ!!!」
悲鳴すらもたいらげるようにローブを着込んだゴブリンメイジは、ネネのいたるところを舐め回した。
ネネは心の準備が出来た。心を壊す準備が。
すると、先程ネネが潜ってきた木の扉から、成人男性くらいはある大きなホブゴブリンが入ってくる。
それを見たゴブリンメイジはネネを舐め回すのをやめ、ホブゴブリンの元へと歩いた。
2体のゴブリンは何かを話しているようだった。ゴブリンメイジは何かを指示するように言うが、ホブゴブリンは部屋から出ていかない。
ゴブリンメイジは人間で言う、溜め息のようなものを吐き、部屋から出ていった。
──え、たすかった?いや、それでもただ時間が少し伸びただけ…どうせなら早く死なせてほしい…なんならこの待ち時間はより一層の恐怖を掻き立てる…。このまま目を閉じて死んだふりでもしていようか。いや、もしかしたらこれは夢で、目が覚めたら、いつもの自分のベッドの上にいるかもしれない。
ネネはそっと目を閉じた。
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ヒタヒタと足音が聞こえてくる。
ネネは目を覚ました。
「ハッ!!」
本当に眠ってしまっていた。状況整理をする。
──ここは…洞窟の中……はぁ、ベッドの上じゃない……
憂鬱になるネネを足音は待ってくれない。
扉の前で足音が止まる。
ゆっくりと木製の扉が開くと、
そこには、大きな剣を肩に担いでる少年の姿があった。
「き、救世主様?」
ネネは勇ましい少年の姿を見て涙を流した。少年が告げる。
「ここのゴブリン達は皆倒したから帰ろ?」
ネネは少年の元へ走った。
ハルは裸の少女が走りよってくる間に新たに入手したゴブリンジェネラルの大剣をアイテムボックスにしまった。
──はぁ、あの時よりレベル4違うだけでこんなに楽に倒せるなんて……
勿論ただ4上がっただけでなく、MPを節約し、ボスであるゴブリンジェネラルを認識しながら戦った為、前回よりも幾分か楽に倒せた。
ハルは作戦の大切さを学んだ。
裸の少女は走り寄るもその速度を緩めずそのままハルに抱き付く。裸のまま、抱きつく。
ゴーン ゴーン
~ハルが異世界召喚されてから1日目~
「うぉぉぉぉぉぉぉい!!確かに嬉しかったよ?だけど、え!?裸の女の子に抱き付かれて戻るって…ただのエロガキやないかい!」
──裸の女の子に抱き付かれて戻るんだったら……セッ○スが始まったらどうなってしまうのだろうか?
とりあえず目当てのローブと杖、ゴブリンジェネラルの大剣も手に入れ、レベルも2上がった。
【名 前】 ハル・ミナミノ
【年 齢】 17
【レベル】 19
【HP】 177/177
【MP】 190/190
【SP】 218/218
【筋 力】 145
【耐久力】 161
【魔 力】 190
【抵抗力】 161
【敏 捷】 160
【洞 察】 164
【知 力】 931
【幸 運】 15
【経験値】 2600/7000
・スキル
『K繝励Λ繝ウ』『人体の仕組み』『諠第弌縺ョ讎ょソオ』『自然の摂理』『感性の言語化』『アイテムボックス』『第四階級火属性魔法耐性(中)』『第三階級火属性魔法耐性(強)』『第二階級以下火属性魔法無効化』『第一階級水属性魔法耐性(中)』『槍技・三連突き』『恐怖耐性(強)』『物理攻撃軽減(弱)』『激痛耐性(弱)』『毒耐性(弱)』『受け流し』
・魔法習得
第一階級火属性魔法
ファイアーボール
ファイアーウォール
第二階級火属性魔法
ファイアーエンブレム
フレイム
第四階級火属性魔法
ヴァーンストライク
ヴァーンプロテクト
第五階級火属性魔法
フレアバースト
第一階級水属性魔法
ウォーター
第一階級風属性魔法
ウィンドカッター
第一階級闇属性魔法
ブラインド
無属性魔法
錬成Ⅱ
──とりあえずもう一度サザビーに向かおう。彼女達を助けないと
<武器屋>
タオルを頭に巻いた武器屋の店主は冒険者の面構えを見て憂いていた。
「ふぅ、最近は冒険者も女や男にモテる為に見てくれを大事にする奴が増えちまった……俺が善意で安くて良いものを薦めても見た目が気に入らねぇっつって購入しやしねぇ……」
店主が呟いていると、店の戸が開き、1人の少年が来店してきた。
──なんだ?貴族の子供か?あぁ~なるほど…明日の魔法学校の試験を受けに来たのか?
少年は真っ直ぐ店主のところまでやってくると何もない空間から巨大な剣を取り出し、カウンターに置いた。
「これを買い取ってください」
「うおっっ!!」
──こ、こ、これは……落ち着け俺!!
「こ、この大剣は…ゴブリンジェネラルの…?」
「そうです」
「これをどこで!?」
「家の倉を整理していたら出てきました」
淡々と答える少年。
──この大剣が倉に?それよりもこれは商機だ!王国に卸せば、80万ゴルドで売れる!!
店主は大剣を手にして一通り状態を確認してから言った。
「50万ゴルドでどうだ?…ですか?」
普段使い慣れていない敬語を使って訊いてみる。
「じゃあその金額で売ります」
少年は何の躊躇いもなしに了承した。少年の去り行く姿を見ながら店主はガッツポーズを決める。
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ハルの現在の所持金は102万5000ゴルドとなった。
薬屋へ行きMPポーションを2つ購入する。
そして、日が沈むのにまだ時間はあるが、クロス遺跡に行き、ユリを救出して帰ってきてからルナと合流するには時間が足りない。
ここは、ルナと合流してから深夜、ユリの元へ行こうとハルは作戦を立てた。
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