第46話

~ハルが異世界召喚されてから6日目~


 一瞬視界が真っ暗になった。ハルの腕に誰かがしがみつく。腕の細さとゴツゴツと当たる腕輪によってアレックスだとわかった。しかし、他の生徒、そしてスタンの気配がなくなった。ハルは急いでファイアーボールを灯そうとするが、黄緑色の光がハルとアレックスを囲むようにして足元を照らす。


 その光源はどうやら壁の下部分に埋め込まれているようで、ハル達は自分達のいる空間を認識することができた。


 スタン達がいなくなったのではなく、自分達が今までいた所とは違う場所に飛ばされたようだった。


 円形の部屋、天井は光源が足りないせいでよく見えない。


 天井に何かを見つけようとするハルに対してアレックスが呟くように言った。


「ハル?」


 不安げにハルを見つめるアレックスと目があった。腕はまだがっちりとホールドしたままだ。


「アレックス、大丈夫?」


「うん…えっと……ここは?」


 アレックスの問いに対してハルは足元を見た。塔と同じ造りの床、ハル達がいるこの空間の方が幾分か綺麗に見える。


「ここは塔のどこかなんだろうね?とりあえず歩いて見よう…?」


 ハル達は壁に向かって歩いた。


 アレックスはハルの腕を更にきつく握った。


「どうしたのアレックス?」


「ど、どうもしてないわよ!」


「怖いの?」


 ハルは挑発するように言った。


「こ、怖くなんかないわよ!」


 アレックスが大きな声を発する。その声は天井へと向かって回るように反響した。どのくらいの高さがあるのか上を向くハル達は、足元の警戒を怠る。


 アレックスが天井を見上げながら一歩踏み出すと、今までとは違う音、何かを踏み付けた音が聞こえた。アレックスは予想に反した音が不意に足元から聞こえたので狼狽える。


「キャッ!!」


 ハルはかがんでアレックスの足元見る。屈むときにアレックスもハルの腕に引っ張られながら屈んだ。


 ハルはその何かを手に取った。


「紙?」


 その紙にはこう記されていた。 


【英雄よ!よくここまで来れたな?しかし、ここの宝はもう私達のパーティーが殆ど頂いてしまった!ガハハハ!どう?今どんな気持ち?……とまぁ折角来れたんだし流石に何にもないんじゃ可哀想だからお土産を置いておくよ…でもタダじゃ面白くないから…コイツ…倒してみなよ?そんな難易度高いわけじゃないからさ?頑張って。君ならできる! ランスロットより】



 手紙を読み終えると同時に、足元だけの明かりが空間全体へと拡がった。

 

 見えなかった天井が顔を見せる。ここはドーム状になった大きな部屋だった。


 ハルとアレックスはその部屋の中央と壁のちょうど間に立っていた。


 そして、ハル達以外の足音が聞こえる。


 一歩前進する度に、着込んだ鎧が音を立てた。鎧を着た戦士は両手に長剣を携えて歩いてくる。


 驚いたことにその戦士は首から上がない。


「…デュラハン?」


 アレックスが呟いた。


 デュラハンはハル達に近づくと歩みを止め一礼し、なおると直ぐに戦闘を始めた。


 デュラハンはその場所から消えたかと思えばハルの眼前に現れる。


 ──はやっ!


 右手に持ってる長剣が横一閃に切り裂かれる。


 ハルはくっついていたアレックスを突き飛ばすようにして回避させ、自分はお腹を引っ込めてその攻撃を躱した。アレックスは地面に投げ出される。あとでちゃんと謝っておこうとハルは心に決めた。


 右手にもった長剣が躱されたため、デュラハンはすかさず左手に持った長剣をハルに振り下ろした。


 ハルはその軌道を読み取って屈みながら躱し、低い姿勢のまま一歩前へデュラハンとの間合いを詰める。


 筋肉を錬成し、カエル飛びアッパーをデュラハンの胸に繰り出した。


 デュラハンは着込んだ鎧にへこみをつくり、3メートルほど後ろへ飛ばされるが、


「顔がないから効いてるかどうかわかんないな……」


 ただ、あのゴブリンジェネラルより強い気がする。ハルはデュラハンをそう評した。


 アレックスは起き上がりハルを見守った。


 小賢しい魔法を使うよりも全力の魔法を撃った方が良い。アレックスがいるんだからMPを消費しきって気を失っても大丈夫だ。もし倒せなかったら?それで倒せなかったらどちらにしろ終わりだ。


 ハルが次の行動についての計画を整えた時、もう一度デュラハンは姿を消す。そして現れた先は、


「なっ!」


 アレックスの前だ。


「ひっ!」


 ハルは超速でデュラハンに飛び蹴りを繰り出し、吹き飛ばした。デュラハンは壁にめり込むように激突する。次にまたアレックスを狙われないために、ハルは追い討ちをかけた。


 接近してデュラハンの胴体に手を置き唱える。


「ヴァーンストライク!」


 青い炎がデュラハンを滅すると、一瞬意識が遠退いた。


ピコン

レベルが上がりました


【名 前】 ハル・ミナミノ

【年 齢】 17

【レベル】 17

【HP】  158/158

【MP】  171/171

【SP】  196/196

【筋 力】 128

【耐久力】 144 

【魔 力】 161

【抵抗力】 144

【敏 捷】 141

【洞 察】 145

【知 力】 931

【幸 運】 15

【経験値】 3100/3600


・スキル

『K繝励Λ繝ウ』『人体の仕組み』『諠第弌縺ョ讎ょソオ』『自然の摂理』『感性の言語化』『アイテムボックス』『第四階級火属性魔法耐性(中)』『第三階級火属性魔法耐性(強)』『第二階級以下火属性魔法無効化』『第一階級水属性魔法耐性(中)』『槍技・三連突き』『恐怖耐性(強)』『物理攻撃軽減(弱)』『激痛耐性(弱)』『毒耐性(弱)』『受け流し』


・魔法習得

  第一階級火属性魔法

   ファイアーボール

   ファイアーウォール

  第二階級火属性魔法

   ファイアーエンブレム

   フレイム

  第四階級火属性魔法

   ヴァーンストライク

   ヴァーンプロテクト 


  第一階級水属性魔法

   ウォーター


  第一階級風属性魔法

   ウィンドカッター


  第一階級闇属性魔法

   ブラインド

  第二階級闇属性魔法

   アイテムボックス

  

  無属性魔法

   錬成Ⅱ



 ──ッハ!


 ハルはすぐに意識を取り戻す。デュラハンの居たであろうところに二本の長剣と巻物がドロップしていた。壁際で唱えたが壁は破壊されていない。


 ハルは二本の長剣をアイテムボックスに回収してから巻物を手にした。


 ハルはまた手紙かなんかだろうとあたりをつけながら、それを開いてみると、頭に入り込んでくるかのように情報が一気に脳内を駆け巡る。そして…


ピコン

新しいスキル『鑑定Ⅱ』を習得しました。


「ハルー!」


 くらくらとする意識の中、アレックスが再び抱き付くと二人はまたも転移した。


─────────────────────


<2階層から3階層へと上がる階段>


「ねぇねぇ!ハルくんとアレックスってどんな感じなの?」


 リコスがマリアに聞いた。


「ん~あの子普段は強気なんだけどここぞという時に奥手だから……」


 マリアは珍しく難しそうな顔をしながら言った。


「でもさぁ、こういうダンジョンとかに一緒に入ると…距離が近付くっていうしさぁ」


「ダンジョン効果ね!フフフそうなると良いんだけど……」


 二人が知り合い同士の恋愛話に興じていると、気配を感じ取った。初めにその気配を感じたのはレイだ。


 背筋を氷らせ、急に自分の間合いに何かが入った。レイはその気配の元に視線を送りながら光の剣を出そうとするが、途中でやめる。


 ハルとアレックスがその気配の主だったからだ。


「あっ!マリアとリコス?それにレイも」


 ハルが口を開くと、マリアとリコスは口元に手をあてて驚いている。


 ──そりゃあ驚くよなぁ、急に僕達が現れたんだから……


 ハルがそんなことを考えていると、2人の女子はハッとした表情を浮かべて言った。


「「ダンジョン効果!?」」


 2人が何のことを言ってるかわからないハルなのであった。


─────────────────────


 アレックスは眼を開けると目の前にはマリアとリコスがいた。


 戻ってこれたと安堵していたが、二人がどこか厭らしい顔をしてこちらを見ている。


 何か嫌な予感がしたアレックスは自分の状況を今一度鑑みた。


「……あ!やだ!!」


 アレックスはハルの背中に抱きついていたことを思い出した。


 ハルを突き飛ばすようにして離れたアレックスは、赤面し照れ隠しの正拳突きをハルの腹にお見舞いする。


「ぉぅふ!!」


 ハルは先程アレックスを突き飛ばしてしまったことを思いだし、これをもって帳消しとした。


 ハルがお腹をおさえているとスタン達が階段に戻ってくる。


「なんだお前ら!戻ってたのか!」


─────────────────────


 10人の生徒とスタンは塔をでて遺跡の入口付近にある食堂『妖精の隠れ家』で昼食をとることになった。


 ──妖精の隠れ家って、もうこんなに賑やかなら隠れ家でもなんでもないな。


 店名に軽くツッコミを入れるハル。ハルとアレックスは自分達が転移したことを黙っていた。いや、あのおしゃべりのアレックスが皆に一部始終を話すと思っていたのだが、まるでその時の記憶がないかのように、彼女は振る舞っている。ハルは自分が第四階級魔法を唱えたことをアレックスに悟られないように色々と言い訳を考えていたが、アレックスが何も話さないので、用意した言い訳を披露することがなかった。


 10人の生徒とと1人の先生が大きなテーブルに着いた。海が近いので魚料理がでるかと思いきや、焼きそばがでてきた。


 ──海の家かよ!まぁ強ち間違ってはいないけど……


「さっきの3階層を突破して4階層があってその上の最上階に祭壇があるんだよね?」


 食事をしながらリコスはスタンに訊いた。


「そうそう」


 スタンは麺を頬張りながら頷く。


 リコスは続けて訊いた。


「スタン先生はその祭壇見たことあるの?」


「あるぞぉー。別に何とも思わなかったけどな」


「何が祀られてたんですかね?本には祭壇があるとしか書いてないし」


「妖精族が大切にしていた何かが祀られてたんじゃない?」


 ゼルダが麺をフォークで巻き取りながら言った。


「なに?お宝??」


 アレックスが肉とその話題に食いついた。


「宝にしては、モンスター達が弱すぎるような気が……」


 リコスが呟いた。


 ──確かに……


 しかし、ハルはデュラハンの強さが相当なものであることを回顧する。


「でも一番上の階層はレベル10に近い魔物がでるよね?」


 アレンも議論に参加した。


「それは人族で考えた場合であって、第四階級以上の魔法が普通に使える妖精族や竜族、魔族には通用しないんじゃないの?」


「確かに...大魔導時代において、それぞれの部族の戦士はレベル30が当たり前だった筈だ」


 スタンがそれに同意する。


【名 前】 スタン・グレンネイド

【年 齢】 26

【レベル】 18

【HP】  132/132

【MP】  125/125

【SP】  151/151

【筋 力】 98

【耐久力】 110

【魔 力】 105

【抵抗力】 111

【敏 捷】 100

【洞 察】 101

【知 力】 70

【幸 運】 13

【経験値】 1100/3800


・魔法習得

  第一階級火属性魔法

   ファイアーボール

   ファイアーウォール

  第二階級火属性魔法

   ファイアーエンブレム

   フレイム

   ヒートヘイズ


  第一階級水属性魔法

   ウォーター


  第一階級風属性魔法

   ウィンドカッター

   ウィンドウズ


  第一階級土属性魔法

   サンドウォール

   ストーンバレット


  第一階級闇属性魔法

   ブラインド


  第一階級光属性魔法

   シューティングアロー

   ミラージュ


 ハルはスタンをぼ~っと眺めていた。先程巻物を読んで獲得したスキル、鑑定Ⅱのお陰でステータスと習得魔法が見える。


「ん?どうした?」


 ハルの視線に気づいたスタンが目を合わせてきた。


「何でもないです……」


 ハルは誤魔化しながら麺をすする。


 ──あの部屋、ランスロットの置き土産……


 ハルは思考を巡らせた。


 アレックスをチラリと見たが相変わらずあっけらかんとしていて、いつものアレックスがそこにいた。


 そんな不思議がっているハルと談笑をしている生徒達に向かって足音が近付いてくる。足音の主はハル達に向かって言った。


「おー!これは実に聡明なお嬢さんですね」


 長髪で白髪頭の老人はどうやらリコスに言ったようだ。


「えっと...あなたは?」


「バカ!この遺跡を管理、保護してる方だ!」


 スタンが急いで指摘する。


「いえいえ、急に話し掛けてしまった私が悪いのですよ。紹介が遅れましたね。私はここの管理者のグレアム・ロックと申します。毎年王立魔法学校の生徒さんがいらしてくれるので、挨拶に伺った次第です」


「私はリコス・シーカーです。私達、魔法学校の生徒を快く受け入れて下さってありがとうございます」


「おぉ素晴らしい。貴方のようなお嬢さんがいれば王国も安泰ですなぁ。それよりも先程のお話……」


 温厚な雰囲気の老人の目付きが一瞬鋭くなった気がした。


「あぁ、何かを祀る大切な場所の割には障害となる魔物のレベルが低すぎると思いまして……」


 リコスが言葉を選びながら言った。


「成る程...あなたも気付きましたか。実は最近の研究でここは何かを祀ると同時に幽閉を目的に建てられた塔だと考えられているのです」


「幽閉?」

「幽閉...」


「ゆーへーってどういう意味ですかー!」


 アレックスがなんの恥じらいもなく聞く。スタンは少し頭を抱えていたように見えた。


「監禁するって意味だ」


 スタンはアレックスにそう伝えると老人グレアムは続けた。ハルは自分も幽閉について何なのか訊かなくて良かったと思う。


「ちょっと待ってください!祀られているものって妖精族の誰かってことですか?」


「はい、現在ではそのように考えられております」


「それは知らなかった……」


 リコスが感心しながら頷く。


「何のために?しかも閉じ込めるって……」


「妖精族にまつわる文献にこう記されています。妖精族は涙を流すことにより全ての傷を癒したと」


「涙?」


「そうです。その妖精の涙には全てを癒す効果があると言われているのです」


「それって強すぎじゃない?」


 アレックスが人族と妖精族の違いに圧倒的な差を指摘する。


「はい。第一次妖魔戦争の際にこの効果が発揮され、魔族の領土を広範囲に奪ったそうです」


「やっぱりズルい!」


「しかし、魔族の涙にも同じような特殊能力があるのです。それが魔族の涙はあらゆるものに死を与えると言われています」


「妖精族と真逆じゃん」


「お前そろそろタメ口やめろ」


 スタンがアレックスに注意する。


「構いませんよ先生」


「それでそれで!?」


 リコスが先を促す。


「次の第二次妖魔戦争は、その涙のお陰で魔族は盛り返しました」


「どうして魔族は第一次妖魔戦争でその涙を使わなかったんですか?」


 ゼルダが質問する。


「魔族は武力に自信があり、その上、涙を流すことはあまり好ましくなかったようなのです」


「戦士としてそれは当然だな」


 スコートが頷く。


「しかし、両部族のこの涙を流す行為は内紛へと拡がっていきます」


「どうして?...ですか?」


 アレックスはスタンに注意されたのを思い出して敬語で喋った。


「皆さんは涙を流すときはどんな時ですか?」


「悲しかったり苦しかったりする時?」

「嬉しいときにも涙がでます」


 アレックスとマリアが答える。


「そうですね...ですが無理矢理涙を流すにはどうしたら良いですか?」


 しばしの沈黙がAクラスの生徒と老人の間に広がった。それをレイが破る。


「…痛みだ」


 レイが静かな、そして響く声でそう言った。


「その通りです。妖精族も魔族も涙を流させるため、同族に拷問まがいの行為を繰り返したのです」


「「「「......」」」」


 辛い顔をするアレックス、マリア、リコス、クライネ。


「ある者は無実の罪を着せられ、ある者は家族を人質にとられて涙は集められたそうです。戦争をして他族を滅ぼそうとしただけでなく同族にすら手をかけ、滅びかけた所、現れたのが神ディータでした。神ディータは両部族の涙を止めました」


「あっ!絵本に書いてあったやつ!」


 ハルがマキノに読んだ『竜の王』にそう書いてあったのを思い出した。


「そうです。いくら痛みや悲しみを加えても涙を流すことが出来なくなったそうです。そして両部族の内1人だけ涙を流すことを赦された者がいたとか……」


「その1人をあの塔に?」


「我々はそう考えております」


「でもさ...神様も意地悪だよね...涙を止めるんじゃなくて戦争を止めてくれれば良かったのに」


 アレックスが呟くと周囲が静まる。


「バカ野郎!そんなこと言うんじゃない!」


 スタンが慌てて止めにはいる。


「だって...」


「いえいえ、良いのですよ」


「し、しかし!」


「少し長く話してしまいましたね。皆さんどうかお気を付けて」


 グレアムは去っていった。姿が見えなくなったのを確認してからスタンは言った。


「アレックス。気を付けろよ。ロック様は司祭様でもあるんだからな」


「そうなんですか?」


 ハルは訊いた。


「そうだ。一応大魔導時代の遺物は国の管理下にあるんだが、あの時代は神が直接裁きを加えたこともあり教会関係者が取り仕切ってんだよ!ロック様が寛容だったから良かったものの...」


「気を付けます...」


 いつものアレックスならごめんなさいーとか言って頭を掻きながら誤魔化すのに今はとてもしおらしくしている。


 ──神を冒涜するような発言は流石に不味かったのかな?


─────────────────────


 水着!水着!スクール水着?


 マリアとクライネとリコスの順に目が移る。


 レベル上げも終わったAクラス一同は海に来ていた。


 海にはしゃぐ女子達。


「……マリアとクライネ……」


 デイビッドがオールバックにして後ろ一本に結んだ長髪を垂らしながら呟く。


「え?どうしたの?」


 ハルは訊いた。


「いいや!何でもない!!」


 二人の会話は弾まないが、視界にうつる女子達の色々なところが弾んだ。


「ハル~!!」


 アレックスがハルを呼ぶ。


「みんなでビーチバレーしよー」


「フン、そんな遊びしてたまるか」


 スコートが言った。


「じゃあ!あんたは参加しなくていいよ!マリアとクライネもやる?」


「やる!」

「やります!」


「…レイもやる?」


 マリアが誘う。


「やらん」


「…そう」


 腕を組ながらそっぽを向くレイ。


 一応水着には着替えてる。


「どうしたのマリア?」


 アレックスがマリアに駆け寄った。


「レイを誘ったんだけど」


「断られちゃったのね?残念!誰かがマリアのこの柔らかい身体を触っても仕方がないよね~?だってスポーツだもん!行こうマリア?」


「……」


─────────────────────


 ネットを張って、皮のボールを準備した。3対3の試合をするのだがレイがコートに入っている。どういう訳かアレックスの説得に効果があったようだ。


「そんで?なんであんたも参加してるのよ?」


 アレックスはスコートに言った。


「フン!事情が変わってな!レイ・ブラッドベル!俺はどんなことでもお前に勝ってみせる!」


 そう言ったあと、チラとゼルダに目線を送るスコート。


 ──これでアイツに勝って良いところをゼルダにみてもらうぞ!


 ゼルダは体育座りをして見学している。がんばれーと口元を拡張するかのように両手で囲いながら言った。


 レイは剣技の剣気を使って身体能力を向上させる。レシーブがネット際に上がった。


 少しだけ助走をとり、両腕を翼のように見立てて後方に持っていく。立っているだけで沈み混む砂浜を蹴るのとほぼ同時に、両腕を前方へ押しやり、飛び上がった。


 そして空中で円を描くように右腕を回し、ボールをよく見ながらコースを決め、一気に振り下ろした。


 ボールは破裂するような音を立て、スコート目掛けて一直線に飛んで来る。


 スコートはそれを顔面に受けて後ろへ倒れた。

 

「ダッサ……」


 ゼルダの呟くような声はスコートの鼓膜を刺激する。ゼルダの呟きとレイのアタックの衝撃で砂浜にうずくまるスコート。


 マリアはレイを見つめてる。レイはというと、狙いとは違うところへボールが行ったことにショックを受けていた。


 スコートにぶつかったボールは遠くの岩場まで飛んで行ってしまう。


 ボールを捜索するハル。


「あ!あった、あった!」


 岩と岩に挟まっているボールを取り上げるとその近くに、岩場に引っ掛かるようにして、女の子が力なく波に揺れているのをハルは発見した。

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