第44話
~ハルが異世界召喚されてから5日目~
2つの馬車と1つの荷馬車を用意していたが、荷馬車はハルのアイテムボックスによって必要としなくなった。
今更乗らなくなったとは言えず、そこにスタンが1人で乗り込むこととなった。
「一応、注意しておく。今回ハルがいたから荷物を管理しなくてもよくなったが、本来なら荷物の管理含めて訓練なんだからな?いつでもハルがいると思って甘えすぎんなよ?」
【1号馬車】アレックス、クライネ、リコス、ハル、アレン
【2号馬車】マリア、ゼルダ、レイ、デイビッド
スコートはハルのいる馬車には乗りたくないとごね始めたが、かといってレイのいる馬車にも乗りたくないと言っていた。
結果、
「俺は構わんが、お前もっと仲間と仲良くしろよな」
「フン」
スタンのいる荷馬車にスコートは同席することとなる。荷馬車には腰掛けるところはなく、二人とも胡座をかいて座っていた。
馬車に入ると左右には進行方向に背中を向けて座る三人がけの椅子と進行方向を向いて座る同じく三人がけの椅子があった。
アレックス、クライネ、リコスが進行方向の向きに座り、ハルとアレンがそれと対面するように座った。
馬車を走らせてからすぐに向かいにいるリコスが大きな眼鏡の縁に手を当てて訊いてきた。
「ねぇ?ハル君、どうやって第二階級魔法を習得したの?」
貴族出身ではないハルと同じ庶民のせいあってか他の生徒よりは親しげに尋ねるリコス。
──ん~第四階級魔法を習得できたからその下位の魔法を使えるようになった…とは言えないよな……
ハルはどう答えるべき考えてから口を開く。
「魔力の込めかたを色々試したんだ。あとは火の性質を考えてみたり」
「火の性質!?」
メガネ少女のリコスは前のめりになった。
ハルが接近してくるリコスの顔にどことなく照れていると、そうとは知らずにリコスは更に前のめりになった。
「火の性質ってどういうこと?」
不良同士がメンチのきりあいの際に顔と顔を近付ける。ハルとリコスの距離感はそんな感じだ。
「ちっ近いよ!」
その一言にハッとしたリコスは、自席へと姿勢を正して座る。
「ご、ご、ごめんなさい!魔法のことになるとつい…」
「フレデリカさんみたいだな……」
ハルは呟くとリコスの表情が一変した。
「どうしてお姉ちゃんのこと知ってるの?」
「お姉ちゃん?」
「私はリコス・シーカー!フレデリカ・シーカーは私のお姉ちゃん!」
「そ、そうなんだ!フレデリカさんは僕に魔法を教えてくれた先生なんだよ」
「お姉ちゃんが!?今は図書館司書をしているはずなんだけど……」
「ぼ、僕に魔法の本をお薦めしてくれたんだ!」
「そういうことね……」
話題がそれた。ハルはなんとかリコスを納得させる。
「それより火の性質って?」
「あぁ、第一階級の火属性魔法と第二階級の火属性魔法の火力が違うんじゃないかって考えたんだ」
「うんうん」
リコスだけじゃなく、同席しているアレックスもクライネもアレンも興味津々に聞いている。
「どうやったらその火力が上げられるか、小さい火で試したり、魔力の込めかたを変えたら火力があがるんじゃないかって考えたり」
「さっきも言ってたけど魔力の込めかたを変えるって?」
ハルは目線を上にそらして自分の考えを確かめるようにして言った。
「魔力って人それぞれ感じかたが違うでしょ?例えばスタン先生と僕の魔力の感じかたって違うと思うんだ」
「うんうん?」
何人かついてこれてない生徒がいる。
「きっと正しい魔力の感じかたってのがあって、今現在自分自身でしっくりくる魔力の感じかたって本当に正しい魔力の感じかたなのかな?」
「待って!何言ってるかわかんない!」
貴族魔法士爵家で髪をお洒落に伸ばし、毛先を遊ばせているチャラ男風のアレンが言う。
「ちょっと黙ってて!」
自分よりも地位の高い筈のアレンをリコスが黙らす。ちなみにこの学校では身分による上下関係は重んじられていないが、社会に浸透してる身分差を感じずにはいられなかった。しかしリコスは魔法のこととなると話は違う。
「続けて」
先を促すリコス。
「簡単に言えば、第二階級魔法が使えるスタン先生の魔力の感じかたに近付けるって感じかな?」
──感じって何回使うねん!
ハルは自分の説明の仕方が絶望的に下手なのを自覚する。
「つまり、今の自分の魔力の感じかたが間違ってるかもしれないって思うことね?」
リコスが纏めてくれた。
「そうそう」
「じゃあさ!じゃあさ!どうしていきなり第二階級魔法が使える人がいるの!?」
アレックスが手を挙げながら聞く。この質問はリコスにとって邪魔な質問ではないようだ。ハルの回答を期待しながら待っていた。
「たまたま魔力の込めかたが正しかったんじゃないかな?」
「どういうこと?才能ってこと?」
「いい意味で才能だよ。絵が最初から上手い人っているじゃん?モノの捉え方が最初から良かったんだよ、捉え方が良くない人は、どうしたらよくかけるか勉強しなきゃいけない。だから良い意味で言えば才能であって、悪い意味で言えば、運が良かったって言えるんじゃないかな?」
知らず知らずにスタンを見下すような言い方をしていた。
「でも何が正しいかなんて…」
「きっとわかるよ、正しければ第二階級魔法が使えるんだから」
「そっか...そうだよね!あー!!なんか早く魔法使いたくなってきた!」
「ここではやめてよね!!」
ハル達の会話を聞いていたのか馭者がほっと一息ついていたのを背中で感じた。
─────────────────────
目的地に着いた。日は沈みかかっている。
オレンジ色の光を放つ街頭が辺りを照らしていた。王都と変わらない街並みがそこには広がっている。
「なんかあんまり王都と変わらないね」
初めて来たハルは言う。
「チッチッチッ、宿舎はすぐそこだが先に海見てこいよ」
スタンはそういうと皆が走る。アレックスがハルの手を引いた。日の光が眩しくて、アレックスの表情がよく見えない。だけど握る手の感触からして、きっとワクワクしているのだろうと予測ができた。
アレックスに手を引かれながら走る。
──こんなところに海があるのか?
何回かここに訪れたことがある生徒達は海まで一直線に進む。そして、徐々に磯の香りが鼻腔を刺激した。
「この宿屋の先だよね?」
「そうそう!」
王都のような街並みから、目印の宿屋を抜けると、
白い砂浜と海が見えた。
「「うわぁー」」
「きれい……」
沈みかかった恒星テラが空と海を赤く染める。
しばらくその光景を目に焼き付けるAクラス生徒。
少ししてからハルは疑問に思った。
「ねぇねぇリコス?」
「なに?」
「砂浜があそこにあるけど、ここは石畳だよね?地盤は大丈夫なの?」
「「確かに……」」
アレックスとアレンが頷く。
「オホン!それはですね。第7階級の土属性魔法を使って地盤を変えたと言われているのです!」
その口調はどことなくフレデリカのそれと似ていた。
「「へぇー」」
ハルだけでなく他の生徒達も知らなかったようだ。
「誰がそんな魔法を?」
「それは妖精族の長とかじゃないかしら?クロス遺跡は妖精族が残した遺跡だから……それよりもこんな範囲の地盤を固められる魔法ってすごいと思わない?」
甘いものを食べた女子のように幸せそうな表情でリコスは言う。
「ちなみにクロス遺跡はあそこ」
リコスは人差し指でとある方角を示した。指の先には大きな岩がテトラポットのように積み重なっている。その更に先は崖になっていた。
どうやらリコスはその崖を差しているようだ。
サスペンスドラマに出てくるような崖の上は木々が生い茂っていた。崖から少し離れた(ここからじゃ少しだと思える距離も実際には結構な距離があるだろう)ところに、一際大きな塔のような影が木々の上からその姿を覗かせている。
──あれか……
遺跡というからには地球で言うマヤ文明の建造物見たいなものを想像していたが、
──あの塔がそうなのか……
ねっとりとした潮風に当たりながら、穏やかな波が白い砂浜に寄せては、沖の方へ返す。その音が心地よかった。
沈みかかるテラは太陽のようだ。
子供の時に家族と行った思い出。あの家族旅行のことを考えまいとしていたハルだが、日本で過ごした日々のことをここへきて思い出す。
この世界へ来てから目にしたことのない街や生活、そして魔法。だがようやく自分が見たことのある風景にたどり着いた。
ハルは日本に戻るという選択肢を自分の今後の計画に付け足した。
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