第20話
~ハルが異世界召喚されてから4日目~
襲撃は終わった。ハルはBクラスの教室に戻ると、状況を理解した全員がハルを迎えた。
あの嫌な目を向けていた貴族たちでさえもその対象に入る。いつもハルや平民に悪態をついていたハンスも憧れのような視線をハルに送っていた。
皆、ハルが自分達を救ってくれたことを理解しているようだった。
ラースが心配そうにハルを見つめて口にする。
「大丈夫か?」
「うん。大丈夫」
ハルは笑顔を見せてそう言った。
<男子寮>
Bクラス担任のウェルチ先生は一旦、全員で寮に待機することを促した。そして、安全が確認でき次第、家に帰るという流れになった。勿論寮生はこの場にとどまる。
先生は今まで何をしていたのかと言うと、2年Bクラスの授業をしていた際、襲撃者が訪れ生徒たちに後方支援してもらいながら戦い、そして襲撃者を倒したとのことだった。
1年、2年、3年生のAクラスBクラスCクラス(3年生にCクラスは存在しない)にそれぞれ刺客が現れたようなのだがその授業を担当している先生が対処し、犠牲者は殆どでなかったらしい。
1年生のAクラス、Bクラスは神学、ダンジョン講座であったため、戦闘に関わらない司祭、サポート係が授業を受け持っていた為、刺客達に殺られてしまい、生徒たちだけで刺客を相手にしなければならなかったようだ。
──これはたまたまなのだろうか?
ハルは訝しむがその答えはわからない。
ハルは初めて魔法学校の寮に入った。談話室では生徒で埋め尽くされており、先生達の戦闘技術を、或いは自分の行動を自画自賛して語る者や恐怖を告白する者、自分が何も出来ずにリベンジを誓う者がいた。しかしハルが談話室に訪れた瞬間、歓声が巻き起こった。
「ねぇねぇ君?1年生のハル・ミナミノ君だよね?襲撃者を倒したって聞いたんだけど」
「すっげぇな」
「相手はレベル13相当あったって聞いたんだけど?」
1年生だけでなく2、3年生もその群衆に混ざっている。押し寄せる群衆を制止させながらハルは答えた
「あ…はい、倒しましたけど…Aクラスのレイも倒してましたよ?」
「すげぇ」
「「「おおおお」」」
「流石ブラッドベル家!兄のレナードもすごかったらしいぞ?」
羨望の眼差しを向けられるのは悪くない。しかし目立ちすぎるとかえって反感を買われることがある。ハルは素直に彼等の賞賛を受けることができなかった。それにあのレイは同い年なのに臆することなく刺客に向かっていった。
自分は初めての時、震えながら恐怖におののいていたのに。
質問責めにあったハルは早く孤児院に戻りたいと思っていた。
<女子寮>
女子寮でも同じように生徒達が、先生の戦闘の話、襲撃を受けた教室での体験、好きな男子のそのときの反応などの話で盛り上がっていた
「……」
しかし一際静かな集団があった。それが一年生Aクラスの女子達5人だ。
俯いているクライネにマリアは背中に優しく手を置いている。
いつも騒がしいアレックスは真面目な顔して、静かに口を開く。
「マリア…私…何も出来なかった……マリアが狙われた時も、私…何も出来なかった……」
「私もだよ……」
マリアは力なく言葉を返した。互いを慰めるように抱き合う2人。
─────────────────────
安全が確認され、家に帰る者は寮をあとにする。ハルはすっかり日が沈んで暗くなった夜道を歩いて孤児院へと戻った。
教会にたどり着く。大きな木製の扉をノックすると、開いた。
「うっ……」
酒の臭いがする。ハルは思わず鼻を覆った。
「誰だい?」
しわがれた声を出しながらシスターの格好をした女性が酒の瓶を手に持って現れた。声に反して見た目は若く、鋭い目付きをしている。
「あ、あのここで2日前から働かせて貰ってるハル・ミナミノです。入れてもらってもいいですか?」
──飲んでるのかこの人?てかこんな人いたっけ?
「あぁ~あのガキか…全く何のつもりか知らないけどねぇ、あたしゃあんたのことなんかこれっぽっちも認めてないんだからねぇ」
シスターの格好をした女はそのまま背中を向け、酒瓶に口をつけながら教会の奥へと去っていった。
──入っても良いってことなんだろうか?てかめっちゃ失礼な人だな!
この日、何故かルナは帰ってこなかった。
~ハルが異世界召喚されて5日目~
異世界召喚されてから初めての5日目。
全校生徒が入学式を行った場所に集められた。校長のアマデウスが昨日の襲撃の騒動を説明する。とても重々しい雰囲気だ。それもそのはず、神学とダンジョン講座の先生が死んでしまったのだから。
「此度の襲撃は帝国によるものと判明した」
元々ざわざわと騒がしかった生徒達だが、これを受けて更に声が大きくなった。
「え!?」
「マジかよ!?」
「大丈夫だよね?ドレスウェルみたいにならないよね?」
アマデウスは生徒達の反応に構わず続けた。
「先生方のお陰で犠牲者は少ないが、その内、神学のマハド・ラジーン先生、ダンジョン講座のリリス・タール先生…」
──あの騒ぎの中、この二人しか死んでいないのか……
ハルは不謹慎だとは思ったが凄いことだと感心していた。しかし、
「そして、聖属性魔法学のルナ・エクステリア先生が犠牲となってしまった」
「ぇっ!???」
ハルは驚愕する。集まった生徒達も同様の反応を示した。
「ルナ様が?」
「嘘だろ!?」
「ェ...」
生徒たちが口々になにかを話している。校長アマデウスは話しを続けていたのだかハルには何も聞こえてこなかった。
校長の報告も終わり、ハルはその場で蹲っていたところをラースが隣に駆け寄った。
「ルナ様のことだろ?」
「……」
「取り敢えず教室に行こう」
帝国の襲撃により休校してしまうのは、帝国の思うつぼのようで、授業はいつも通り始まった。
授業を受けていたがハルには何も聞こえてこなかった。多くの者が動揺を隠せないでいる。
1時限目の授業を何事もなく終えたあと何故だかハルは、学校を抜け出し孤児院へ向かった。
そこにルナが来ているのではないかと思ったからだ。孤児院の前に着くと、そこには王国の兵士が教会のウィリアム司祭とその後ろにいる何人かのシスター達に向かって話をしていた。
するとシスターの何人かは膝から崩れ落ち大きな涙を流していた。祈るように手を組ながら。
それを遠くから見ていたハルは子供たちはどんな反応をするか予想した。その答えあわせをする気にはとてもじゃないがなれず、学校へと戻った。
いつもは活気に満ち溢れているこの通りも、どこか閑散としている。心の在り方でこうも印象が変わってしまうものなのか。
ハルは最初にルナから救われたことを思い出していた。
「あの時は何も話さずに戻ってしまったっけ……」
次に、孤児院で楽しく食事をしていたことも思い出す。
「…ハハハ、あの人天然だからな……」
◆ ◆ ◆ ◆
『そんな死ぬような体験…1回だけでいいと思わない?』
『自分が自分で失くなる…そんな感覚に陥ってしまうの…』
◆ ◆ ◆ ◆
いつだかの夜にルナと話したことが想起される。あの力ない笑顔の映像と共に。
そこからしばらく上の空で歩いていると学校に着いてしまった。ハルは立ち止まると、学校に入ろうとするとスタンとちょうど鉢合わせた。
「ミナミノか…授業はどうしたんだ?」
返答に困るハル。
「えっと、ちょっと…孤児院に行ってて……」
スタンは直ぐに察した。
沈痛な面持ちでハルにゆっくりと優しく話し掛けた。
「孤児院…そうか…お前は孤児院の出身だったか……」
スタンは近付き、ハルの肩に優しく手を置くと、
「ごめんな…ミナミノ…ルナ先生を守れなかった」
スタンは涙を流していた。
──大人の人でも泣くのか……
大人で、しかも男が泣く姿を見たハルは感情の蓋が取れるのを感じる。
「ぁ…」
ハルも気づけば涙を流していた。塞き止められていた感情が徐々に溢れだす。
「僕…ルナさんに何回も救われて…僕もルナさんを救ったつもりでいて……なのに僕は……僕はルナさんを…救えていなかった……」
スタンは何も言わずハルを抱擁した。力強くとても優しく。
ハルは全てをスタンに委ねた。
ゴーン ゴーン
鐘の音が聞こえる。そこにスタンはいなかった。しかし、彼の暖かさは胸に残っていた。涙を拭ったがまだ溢れてくる。他人に慰められたのは初めてだった。自分の気持ちを理解してくれる優しさ、そんな安心感と喜びがそこにあったのをハルは思い出す。
「オイ!」
後ろを振り返ると不良達がニヤニヤしながら立っていた。
「コイツ泣いてやがるぜwwww」
「俺達がそんなに怖いのかww?」
ハルは涙を流しながら微笑んだ。
──僕にはこの能力がある。
今ならルナさんも生きている。この世界線では彼女を守り、救ってみせる。
ハルはそう誓い、その場から走り去った。
SPが1上がった
【名 前】 ハル・ミナミノ
【年 齢】 17
【レベル】 7
【HP】 83/83
【MP】 76/76
【SP】 101/101
【筋 力】 50
【耐久力】 68
【魔 力】 64
【抵抗力】 62
【敏 捷】 64
【洞 察】 64
【知 力】 931
【幸 運】 15
【経験値】 600/800
・スキル
『K繝励Λ繝ウ』『莠コ菴薙�莉慕オ�∩』『諠第弌縺ョ讎ょソオ』『閾ェ辟カ縺ョ鞫ら炊』『感性の言語化』『第一階級水属性魔法耐性(中)』『恐怖耐性(中)』『物理攻撃軽減(弱)』『激痛耐性(弱)』『毒耐性(弱)』
・魔法習得
第一階級火属性魔法
ファイアーボール
ファイアーウォール
第一階級水属性魔法
ウォーター
第一階級風属性魔法
ウィンドカッター
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