第12話
~ハルが異世界召喚されて1日目~
「あぁ!クソ!!ダメだ!」
まだ二つのファイアーボールを唱えることができない。この世界線で、ハルは剣聖オデッサとは会わずにルナと出会い教会の孤児院に泊まった。
~ハルが異世界召喚されて2日目~
結局ファイアーボールを二つ唱えることができなかった。その為またしてもBクラスに合格となってしまった。
アレックスとマリアと3人でルナを見送り、
「それは私が男みたいってことぉ!?」
「違う違う!そんな変な意味じゃなくて」
「クスクスクス」
以前と同じような会話をした。
ハルは魔法学校の寮で暮らすよりも、教会にある孤児院で働きながら学校へ通うことを決めた。
ハルよりも3歳年上の男性が、同じく魔法学校に通いながらあの孤児院で働いていたそうだ。その彼が学校を卒業して、王都から離れ、とある魔法研究機関へ就職してしまった為、今まで彼がしていた仕事をシスター達で分担することになったが、どうにも上手く回らないようだった。シスター達のあの疲れた表情はそこからきている。
ハルは彼女達の本来の仕事(この世界の教会は地球にあった教会とは少し違っていて、病院の役割を主に担っていた)神に祈りを捧げること(聖属性魔法を習得している者は神に祈りを捧げることによりMPとSPを少しだけ回復する効果もある)また神に感謝を述べ、他者を救うことが仕事のようだ。ハルはシスター達にはその仕事に集中してほしいと思っていた。
この教会の責任者である司祭ウィリアムにもそうしてくれると助かると言われ教会兼、孤児院でハルは働くことになったのだ。
いま説明したことも勿論働く理由として挙げられるが、やはりルナと一緒にいたいというハルの淡い恋心が大部分を占めていることはここだけの話だ。
ハルはアレックスとマリアと別れてからこの世界の情勢を図書館で勉強した。なんでもハルのいるフルートベール王国、西のヴァレリー法国、更に西にあるダーマ王国、東のドレスウェル王国、北東のアストレア帝国、北西の獣人国、南の海の向こうの連合商国、北の聖王国と8つの国がそれぞれ均衡を保っていたそうだが、13年前、アストレア帝国がドレスウェル王国を侵略してしまった。現在その均衡が崩れ帝国を中心に各地で戦争が起きているようだった。
夜になり、ハルが孤児院に戻って直ぐにルナが帰ってきた。
「ただいま~」
心なしか元気がない。というのも今から14日後、戦地に赴くそうだ。子供達曰くルナは戦争に行く日が決まると憂鬱になって帰ってくるのだとか。
~ハルが異世界召喚されてから3日目~
ハルはいつもの目覚ましで起きた。グラースが股がって叩き起こしてくれたのだ。茶髪で凛々しい顔立ちは5才のものとは思えない。
異世界に召喚されてからハルにとって初めての3日目だ。
今日から学校生活が始まる。昨日の夜はなかなか寝付けず魔力を感じるトレーニングをしながら眠りについていた。お陰で魔力が1上がった。
──そういえば初めて魔法学校に合格した時、戻らなかったのはなぜだろうか?……合格した嬉しさより、Aクラスに入れなかった悔しさの方が強かった気がする。だから戻らなかったのだろう。僕はいつからそんな負けず嫌いになったんだ?
朝食をシスターと子供達と一緒に頂く。朝食をいそいそと食べているルナ。
「おはよう!今日から宜しくね!」
昨日とは違って元気な表情をしている。
「はい!宜しくお願いします!」
ハルが威勢の良い返事をすると、
「もう何の授業とるか決まった?」
「いえ、まだ全然…なにかアドバイスありませんか?」
「ん~そうねぇ、魔法は個性によってだいぶ作用されるものだから、とりあえず広く浅く知識を広げて、そのあと自分にあってる属性の魔法や興味をもったことを研究してみたらどうかしら?」
「わかりました!そうしてみます!」
二人の会話にまたしても第三者が介入してくる。
「え~シスターがハルにアドバイスしてるー」
子供達がルナを茶化す。
「ふん!私も先生なんですからね」
「先生!口元にパンがついてます!」
「ぐっ………」
ルナは恥ずかしがりながら口元のパンを取り自分の口に入れ、一足早く学校に向かった。ハルも朝食後、学校指定の制服に身を包み、出発した。スマートフォンも持って行った。ハルにとってもはやこれは御守りのようなものなのだ
<魔法学校>
大きなホールに全クラスの一年生が集まった。
並べられている椅子に腰掛け、正面の壇上を見つめる生徒達。
隣にはハルと実技試験が一緒だった偉そうな貴族がいる。その貴族の隣でペコペコしてご機嫌をとっている者がいた。2人の会話で、その偉そうな貴族はどうやらハンスという名前だとわかった。
「なんで俺様がBクラスなんだ!?」
「そうですよね!ハンス様が平民もいるBクラスなんておかしいですよね!」
「フン!あのAクラスにいる唯一の平民は不正を犯したに違いない!」
「その通りですよ!」
嫌な貴族のテンプレート的会話が聞こえてくる。ちなみにペコペコしている奴の名前はイェーツというらしい。
そんなどうでも良い情報を収集していると、学校長アマデウスの挨拶が始まった。
仙人のような出で立ち。頭頂部が禿げており白い髭は胸まで伸びている。眉毛も目尻の上から白髪のように耳元まで垂れていた。目は開いているのか閉じているのかわからないが、鋭い目付きのように見えた。風属性魔法の一種を使って声はよく聞こえるのだが、ふごふごとしていて何を言ってるのかよくわからなかった。
横にいる生徒がコソコソと話しているのが聞こえる。校長は王国で4人しかいない、第三階級魔法を唱えられる魔法使いであるという補足説明を自慢気に披露していた。
校長の次に新入生代表の挨拶が始まる。試験で成績が最も優秀な生徒が挨拶することになっているそうだ。
「新入生代表、レイ・ブラッドベル」
「はい」
精悍な声に、凛々しい顔立ち。壇上まで歩く所作でただ者ではないというオーラが伝わってくる。
──うわぁ~アイツじゃん。あの光属性魔法を唱えたイケメン!
ハルは初めて実技試験を受けたときのことを思い出した。
──あの蔑んだ目…今でも覚えている。
この時間軸ではそんな目ではなかったが、無関心な目だった。蔑みから無関心へと昇格したのだ。
──別に嬉しくない。
「カッコいい~」
「キャー」
「ワァー」
という歓声が沸き始め、ハルは我に返る。どうやら、レイ・ブラッドベルのファンがいるようだ。しかし、反対に、
「チッ」
「なんだよ」
「でたよ光の戦士」
とレイを妬むような声も聞こえる。
イケメンはイケメンで大変なのかとハルは思った。
レイの挨拶は無難に終わった。
ホールを後にした生徒達はそれぞれクラスに別れて教室で待機している。Aクラスにはだいたい10人くらいの生徒が所属しており、ハルのいるこのBクラスは80人程だ。Cクラスともなれば100人を越える。
すり鉢上になった大きな教室。ハルは真ん中よりも少しだけ前の席に座った。
隣の席にいた男子生徒が話しかけてくる。
「宜しく、僕はラースだ」
「こちらこそ宜しく、僕はハル」
気さくに話しかけてくるラースは人懐っこい柔らかな表情をしている。
「試験はどうだった?」
「実技の方?」
「そうそう。俺のグループは緊張で魔法がでない奴とか結構いたんだよな」
「え?そうなの?その時の周りの反応は?」
「反応?そりゃぁ普通だったよ?よくあることだし、魔法で火や水をだせてもそれを飛ばせなかったりすることだってあるし」
──うぉぉぉぉい!!
「ぼ、ぼ、僕のグループに1人そんな人がいてね、それを笑い飛ばしたり蔑んだりしてる奴が多かったんだよなぁ……」
「あぁそんなことする奴等は貴族達だよ、アイツ等金にモノを言わせて有能な家庭教師とか試験当日魔力を増大させる薬を使って実技試験に備えてる奴だっている。その癖、俺達市民をバカにしてんだよなぁ」
ラースはすり鉢上になった教室の後ろの席の方をチラと見上げた。Bクラスのパワーバランスとして、貴族が後ろの席を優雅に陣取っているのだ。
「薬って不正にならないのか?」
「僕ら庶民が使ったら罰せられるけど貴族様にはそんな法律は通用しないらしい。実際に莫大なお金を払ってまでAクラスに入る奴だっているんだから」
「そうなのかぁ……」
「それよりもハルはとっても綺麗な手をしているからてっきりどこかの貴族だと思っていたよ」
ハルは自分の手を眺めながら言った。
「違うよ!僕もただの庶民なんだ。ん?もしかして探ってた?」
「ヘヘ、バレたか!」
狡猾な男だがどこか憎めない、そんな印象をハルは持った。
「それより、このクラスでも何人か貴族の奴等がいるんだ。彼等には注意して接した方がいいよ」
「どうして?」
「Aクラスに行けなかったからさ!それと普段は下に見てる俺達庶民と同じクラスだなんて彼等のプライドを傷付けているらしいからね」
Bクラスの担任のウェルチ先生がすり鉢上になっている教室の階段を下り、教卓の前に立った。
挨拶をして授業のカリキュラムの説明をする。日本の大学のような授業体制になっていた。魔法に対しての基本講義、魔法の歴史、神学等が必修で、後は選択で属性別の講義を生徒が選んで受講するようだ。
「なんの授業とるつもり?」
ラースが訊いてくる。
「ん~取り敢えず火属性の第二階級魔法の講義と水属性と風属性と聖属性の魔法の講義は取ろうと思ってるよ?」
「聖属性?どうして?司祭になろうとしてるの?」
「いやそういうんじゃないんだけど、なんかそれができたら多少無理しても自分で回復できるじゃん?あと憧れの人がいて……」
「憧れって聖女ルナ様のこと?」
「ぐっ…なぜそれを…」
「ハハハハ!皆が通る道だからさ!」
「てことはラースも?」
「そうだよ!僕だって憧れて聖属性の魔法を勉強したことがあるんだ!だけどね、あれは努力して会得できる魔法じゃないらしいんだよ」
「そうなのか?」
「そう、聖以外の属性は努力次第でなんとかなるけど、回復魔法は才能が必要なんだ」
「才能ね…それよりラースはなにとったの?」
「僕は……」
学校のカリキュラムの説明を終え、授業は明日からとのことだった。
学校を出るとラースが訊いてくる。
「ハルは寮?」
「僕はこれから仕事があるんだ」
ラースと別れて教会へと帰ったハルに待っていたのは、食事の準備と掃除、あとは子供達の子守りだった。
ハルは掃除を一段落終えるとまだ4歳の女の子のマキノが話しかけてきた。
「ねぇハル!本読んで!」
「いいよ~!何を読めばいい?」
ハルは目線をマキノと合わせながら、質問する。
「これぇ!」
マキノは脇に抱えている本をハルの顔面へ勢い良く突き出した。
「ゴバッ!」
ハルの頬に本の角がめり込んでいる。めり込んだ状態でハルは訊いた。
「…マキノちゃん?本読んでくれる人皆にこんなことしてるの?」
「えへへ」
──恐ろしい子!
ハルは気を取り直して本を受け取った。
[勇者ランスロットの冒険]
ハルは題名を眺めた。
──これは…英雄譚?
本を開いてページをパラパラと捲った。どうやら勇者が魔王を倒しに旅にでる話のようだ。
──女の子だけどこういうの好きなんだな
ハルは廊下に胡座をかいて座り、その組んだ足の上にマキノをちょこんと乗せて読み聞かせた。
「むかしむかしあるところに…」
勇者ランスロットは魔王を倒す旅の途中様々な者達を仲間にしていく。何処と無く桃太郎に話がにていたがラストは違っていた。ラストはランスロットが犠牲となり魔王共々消えてなくなる。そこでこの絵本は終わっていた。
「ねぇ勇者って本当にいたと思う?」
マキノが訊いてきた。
「いるんじゃないかな?」
とハルは答えた。すると間髪入れずにマキノは訊いてきた。
「じゃあ魔王は?」
「魔王もいるんじゃないかな?」
ハルはこの世界に来てまだ間もなかったが、図書館でこの世界の歴史を一通り調べてある。
今から500年前、勇者ランスロットは魔王出現に伴い各国から仲間を集め出撃し、魔王を撃退したということが書かれていた。
魔王の出自にも話は及んでいる。魔王は魔族の生き残りだとされていた。
500年前の出来事を克明に記した書物は少ない、どんな書物にも多少過大に表現しているところがあるからだ。魔王と勇者を創作物として捉えている研究者もいる。良い子にしていないと魔王が復活するぞ!ってな具合で子供に言うことをきかせる方便にもなっているくらいだ。
「ねぇ知ってる?魔王ってよく笑ってたんだって!」
「え?そうなの?」
「うん!笑いながら色んなモノを壊してたんだよぉ!こわいよねぇ~!」
と笑顔でマキノが答えた。
──君もその台詞を笑いながら言ってるけど……
孤児院の玄関が開く音が聞こえた。
「ただいま~」
マキノはその声を聞いて、ハルの足の上から飛び上がり、着地を決める。
「あっルナルナが帰ってきた」
──なんか痛みがやわらぎそうな名前だな……
マキノはルナの元へと駆け寄った。
「はあ~疲れた」
ルナは椅子に腰掛け両腕を上にあげながら言った。
「おかえりなさい。ルナさん」
「ただいまハルくん、マキノちゃんも」
「最近ルナルナ帰り遅いよね」
マキノが声をかける。
「うん…会議とかあってね…でも明日は学校の授業も始まるし、いつも通り帰れると思う」
─────────────────────
この世界は夜になると、明かりは松明や蝋燭の火、または光属性が付与された魔道具が担っている。
薄暗い廊下、少し開いたドアから魔道具の光が漏れ、廊下に舞っている埃を照らしていた。
ドアの中から男達の声が聞こえる。
「準備は整ったか?」
「あぁ問題ない」
「襲撃は明日の正午だ」
「生徒達はどうする?」
「皆殺しだ」
【名 前】 ハル・ミナミノ
【年 齢】 17
【レベル】 1
【HP】 40/40
【MP】 20/20
【SP】 50/50
【筋 力】 9
【耐久力】 25
【魔 力】 12
【抵抗力】 12
【敏 捷】 18
【洞 察】 15
【知 力】 931
【幸 運】 15
【経験値】 0/5
・スキル
『K繝励Λ繝ウ』『莠コ菴薙�莉慕オ�∩』『諠第弌縺ョ讎ょソオ』『閾ェ辟カ縺ョ鞫ら炊』『感性の言語化』『第一階級水属性魔法耐性(中)』『恐怖耐性(中)』『物理攻撃軽減(弱)』『激痛耐性(弱)』
・魔法習得
第一階級火属性魔法
ファイアーボール
第一階級水属性魔法
──
第一階級風属性魔法
──
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